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第17話:感謝の宴と、忍び寄る聖騎士の影

お読みいただきありがとうございます!


街に活力を取り戻し、一時の平穏を享受するレトとアイリス。 恩人であるセラとの再会、そして彼女が振る舞う温かい料理は、逃亡生活を続けるレトにとって、何よりも代えがたい「救い」でした。


しかし、奇跡が大きければ大きいほど、それを「異常」と見なす世界の監視網は鋭さを増していきます。 祝祭の喧騒に紛れ、リ・デコードの門を潜る不穏な影。 聖女の意志を体現する冷徹な執行者、聖騎士カインの狙いとは――。

 リ・デコードの街は、一夜にして「死の淵」から「祝祭の渦」へと変貌を遂げていた。広場では、つい昨日まで青白い顔で座り込んでいた人々が、嘘のように血色の良い顔で笑い合い、樽から注がれたエールを酌み交わしている。噴水からは澄み切った水が上がり、市場には活気ある声が響き渡る。


 誰もが「街に起きた奇跡」を祝福していたが、その奇跡の引き金となった一人の青年と、その傍らに立つ銀髪の少女の存在に気づく者はいない。


「……マスター。心拍数および血圧の微増を確認。この喧騒は精神衛生上のリラックス効果をもたらしますが、同時に注意力を削ぐ要因ともなり得ます。警戒レベルを『イエロー』に維持してください」


「分かってるよ、アイリス。……でも、今日くらいはいいじゃないか」


 レトはギルドの二階にあるテラス席で、セラが用意してくれた特製の手料理を口に運んでいた。エリュシオンの街では考えられなかったような、温かく、愛情の籠もった食事。それは、レトが「翻訳家」としてこの街で受け入れられた証でもあった。


「本当に、レト君には感謝してもしきれないわ」


 隣に座るセラが、心底嬉しそうに微笑む。彼女の肌にもツヤが戻り、瞳にはかつてのような快活な光が宿っていた。


「ギルドの職員たちも、みんな『急に体が軽くなった』って大騒ぎよ。教会の神父様たちは『聖女様の奇跡が届いたのだ』なんて言ってるけど……。私には分かるわ。これが誰の仕業なのか」


「……俺はただ、不自然な流れを少し弄っただけですよ。セラさんが俺を信じて、あの装置の情報をくれたからできたことです」


謙遜けんそんしすぎ。……でもね、レト君。忠告させて」


 セラの表情が、ふと真剣なものに変わる。


「あなたがやったことは、あまりに巨大すぎたわ。この街の魔力徴収が止まったことは、すぐに王都の『魔導計量局』に察知される。……もう、調査員が門を潜ったという噂があるの」


 レトの持つフォークの手が止まった。視界の隅で、アイリスの瞳が鋭く明滅する。


「……マスター。都市結界のログに、不自然なアクセスを検知。一般の旅行者とは比較にならないほど、高精度に圧縮された『認識阻害ステルス』の術式です。……対象、一名。リ・デコード西門より入市しました」


 アイリスの報告に合わせ、レトは「翻訳眼」を街の全域へと広げた。祝祭に沸く彩り豊かな街並みの向こう側――。西門から中央通りへと歩みを進める一人の影が、レトの視界に「異物」として映り込む。


【対象:聖騎士団第五部隊・特務官『カイン』】 【状態:潜伏・追跡モード】 【装備:聖遺物『沈黙の天秤』】 【※スキル特権:周囲一キロ以内の『バグ(未登録魔力)』を自動追尾】


「……聖騎士、か。勇者パーティの連中とはまた違う、厄介なのが来たな」


 聖騎士団は、勇者シグルドのような華々しい戦果を求める者たちではない。彼らは聖女エレインの絶対的な正義を執行し、システムの乱れを冷徹に「切除」する、教会の掃除屋だ。


「マスター。敵の持つ聖遺物は、私が展開している『隠蔽定義』にノイズを与えています。このまま距離を詰められれば、三〇分以内に私たちの居場所が特定されます」


「……ここも、もう長居はできないか」


 レトは寂しげに笑うセラを見て、胸を締め付けられるような思いがした。せっかく再会できた恩人。彼女が守りたかったこの街の平穏。自分がここに留まれば、リ・デコードは聖騎士たちの「異端審問」の舞台となり、また人々から笑顔が消えてしまうだろう。


「……セラさん。ご馳走様でした。すごく、美味しかったです」


「レト君? ……そんな顔しないで。あなたは何も悪くない。あなたはただ、世界を正しくしようとしただけなんだから」


 セラはレトの手を強く握りしめた。その温もりが、逃亡者であるレトの心に「守るべきもの」の重さを再認識させる。


「……セラさん。一つ、お願いがあります。俺たちがこの街を出た後……もし、聖騎士たちが『奇跡の正体』を探りに来たら、こう伝えてください。『それは、名もなき旅の神官が行った一時的な呪術だ』って。俺の個人情報は、すべて上書きしていい」


「……レト君」


「お願いします。……この街の人たちを、これ以上巻き込みたくないんだ」


 レトは立ち上がり、背後の影に控えていたアイリスを促した。宴の熱気はまだ続いている。しかし、街の裏路地を抜ける二人の影は、すでに次の「戦場」を見据えていた。


 その頃、中央通り。 純白の外套を纏った男、カインは、手元の天秤が激しく揺れ、一定方向を指し示すのを見て、口元に冷酷な笑みを浮かべた。


「……見つけたぞ、バグめ。世界を書き換える不届きな『翻訳家』。聖女様の御名において、その存在定義を消去してやろう」


 カインが指を鳴らすと、周囲の空間が微かに歪み、影から数人の黒装束の暗殺者たちが姿を現した。


 祝祭の裏側で、音もなき追跡劇が始まった。レトはまだ知らない。この「聖騎士カイン」こそが、かつてレトが王立研究所で見た、あの「世界の根源」に関わる秘密を最も深く知る男の一人であることを。


 リ・デコードの街を背に、レトとアイリスは再び、真実を求める茨の道へと踏み出していく。

第17話を最後までお読みいただき、ありがとうございました。


今回は、第2編の安息と、新たな危機への転換点となるエピソードでした。 セラの優しさに触れ、改めて「この日常を守りたい」と願うレトの決意。だからこそ、彼は自分が街に留まることで人々を危険にさらすことを良しとせず、再び孤独な道を選ぼうとします。


そして登場した新キャラクター、聖騎士カイン。 これまでの勇者パーティが「個人の力」で押してきたのに対し、彼は「聖遺物」というシステムの特権を使い、レトの隠蔽を無効化してきます。まさに『翻訳家』の天敵とも言える存在です。


「セラさんとの別れが切ない……」「聖騎士の能力、どうやって攻略するの?」と思っていただけましたら、ぜひ【ブックマーク】や【評価★】で応援いただけると、レトの反撃のインスピレーションに繋がります!

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