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第16話:街の流行病、システムエラーの正体

お読みいただきありがとうございます!


平穏な街を襲う、原因不明の「活力の減退」。 それは単なる病ではなく、聖女エレインが仕掛けた、民衆を「魔力の電池」に変える恐るべきシステムエラーでした。


人々の命を啜り、自身の「奇跡」へと変換する国家規模の陰謀。 それに対し、レトはたった一人で世界という巨大なプログラムに立ち向かいます。 奪われた力を「祝福」へと書き換える、レトの鮮やかな逆転劇をどうぞお楽しみください!

 リ・デコードの街を、正体不明の「倦怠感」が覆い始めていた。最初は、働き盛りの冒険者たちが「なんとなく体が重い」と訴える程度だった。しかし、その症状は数日のうちに、熱や痛みを伴わないまま、人々の活力を根こそぎ奪い去る奇妙な流行病エピデミックへと変貌していた。


「……マスター。通行人の三五パーセントに、バイタルサインの異常な減衰を確認。特筆すべきは、これが生物学的なウイルスや細菌によるものではないという点です」


 ギルドへの道中、アイリスが周囲をスキャンしながら告げる。彼女の瞳に映る人々の頭上には、共通の「不具合エラー」が浮かび上がっていた。


「……セラさんも、無事じゃなさそうだな」


 ギルドの扉を開けると、そこにはいつもの活気はなかった。受付カウンターに座るセラは、顔色が悪く、ペンを持つ手も震えている。


「あ、レト君……。ごめんなさい、ちょっと最近寝不足みたいで……」


「セラさん、無理しないで。……これ、普通の病気じゃない」


 レトはセラの手にそっと触れた。その瞬間、彼の「翻訳眼」が、彼女の体内に巣食う異質な文字列を捉えた。


【対象:個体名『セラ』】 【状態:リソースドレイン(魔力枯渇)】 【原因:外部からの『存在定義の強制書き換え』による、生命維持情報の流出】 【※ソース元:空中に展開された不可視の『吸魔陣』】


「……なんだって? 街中の人が、空から魔力を吸い取られてるのか?」


 レトが視線を空に向ける。肉眼では晴れ渡った青空にしか見えないが、翻訳のフィルターを通すと、街全体を覆い尽くす巨大な「黒い蜘蛛の巣」のような魔法回路が浮かび上がった。


「アイリス、あの術式の正体は?」


「解析完了。……あれは、王立研究所が開発した広域魔力収集システム『福音の揺り籠』の亜種です。表向きは『街の加護』をうたっていますが、その実態は、住民から微細な存在定義を少しずつ剥ぎ取り、一つの巨大な魔力溜まりへと集約させる装置です」


 レトは戦慄した。聖女エレインは、ただ歴史を改竄するだけでなく、民衆そのものを「電池」として利用し始めたのだ。しかも、その魔力は彼女の『奇跡』を演出するためのリソースとして使われている。


「……みんなから奪った力で『聖女の慈悲』を見せるなんて、反吐が出るな」


 レトの怒りに呼応し、脳内の「デバッグ・エンジン」が唸りを上げる。だが、この規模の術式を一人で解体すれば、即座に王都の監視網に引っかかるだろう。レトは慎重に、かつ確実にこの状況を打破する方法を模索した。


「セラさん、地下水道の浄化の時に使った魔石の破片を貸して。……アイリス、街の四方に『中和定義』を設置するぞ。システムそのものを壊すんじゃない。吸い取られる魔力の『行先』を書き換えるんだ」


 レトはギルドを飛び出し、アイリスと共に街の主要な結界の起点へと向かった。北の時計塔、南の港、東の市場、そして西の貧民街。それぞれの場所で、レトは地面に刻まれた不可視の「吸魔コード」に干渉していく。


「翻訳――パッチ適用。転送先:管理サーバー。……から、各個体への『自動還元リターン』へ変更!」


 レトが各地点でコードを繋ぎ変えるたびに、空を覆う黒い糸が、淡い金色の光へと変わっていく。  それは、奪われた活力を本人たちへと、より強力な「強化バフ」として戻す逆転の術式。


 最後に、街の中央広場。レトはそこにある噴水の土台に手を当て、全回路を同期させた。


「……これで最後だ。翻訳――全系統同期フル・シンクロ! 街そのものを『自己修復セルフ・ヒール』属性へ上書きしろ!」


 ドォン、という魂を震わせるような重低音が響き、リ・デコードの街全体が温かな光に包まれた。その瞬間、街の人々に劇的な変化が訪れた。道端で座り込んでいた老人が目を見開き、力強く立ち上がる。病床で伏せっていた子供たちが、何かに導かれるように表へ飛び出し、笑い声を上げる。ギルドで倒れかけていたセラも、頬に赤みが差し、驚いたように自分の手を見つめていた。


「……体が軽い。ううん、それだけじゃない。力が……溢れてくるみたい!」


 街中の人々が、これまでにない万能感に包まれていた。  レトが行ったのは、単なる病の治療ではない。奪われていた「存在の重み」を倍にして返したのだ。


 広場の喧騒を遠くから見つめながら、アイリスが静かに呟く。


「……マスター。街全体の生命活動エネルギーが通常時の二四〇パーセントに上昇。これはもはや、医学的な奇跡を超えた『世界のバグ(幸運)』としての定着です」


「……それでいい。聖女が『絶望』を訳すなら、俺は『希望』を訳す。それだけだ」


 だが、その直後。レトの視界に、真っ赤な警告ログが走り抜けた。


【※警告:異常なシステム復旧を検知。管理権限による強制調査が開始されました】 【対象:リ・デコード支区。調査官:聖騎士団第五部隊】


「……気づかれたか」


「肯定。……ですが、街の人々の記憶は『レト』という個人ではなく、『街に奇跡が起きた』という現象として定着しています。特定を遅らせることは可能ですが、猶予はありません」


 レトは静かにフードを深く被り直した。一万人を救った「無名の手配犯」。その噂は、救世主としての輝きを帯びて、リ・デコードの街から周辺の領土へと広がり始めていた。


 聖女の支配する「偽りの安寧」に、一石が投じられた。レトの存在は、もはや小さな不具合バグではなく、世界そのものを書き換えかねない「新たな新秩序ネオ・システム」として胎動を始めたのだ。

第16話を最後までお読みいただき、ありがとうございました。


今回は、これまでの「職人」や「個人」の救済から一歩進み、街全体の運命を塗り替える壮大なエピソードとなりました。 聖女が「搾取」のために敷いた回路を、レトが「還元」のためにハックする。この知的な勝利こそ、武力だけでは届かない『翻訳家』としての真骨頂です。


街の人々が活力を取り戻し、図らずもレトが「無名の聖者」として語り継がれ始める展開に、胸を熱くしていただけたなら幸いです。


しかし、目立ちすぎた光は、より深い闇(王都の監視網)を呼び寄せてしまいます。 「街全体へのバフが凄すぎる!」「聖騎士団が来るのが怖い……」と感じていただけましたら、ぜひ【ブックマーク】や【評価★】で応援いただけると、レトの生存率が上がるかもしれません(笑)。執筆の大きな力になります!

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