表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

15/26

第15話:職人の誇り、折れた名剣の再翻訳

お読みいただきありがとうございます!


地下水道の浄化に続き、今回レトが向き合うのは「折れた名剣」。 職人が心血を注いだはずの逸品が、なぜか完成直前に砕け散る。その裏には、単なる不運では片付けられない、恐るべき「世界の悪意」が潜んでいました。


「無能」と呼ばれた翻訳家が、鉄の言葉を読み解き、職人の誇りを取り戻す。 レトのスキルが鍛冶の常識を塗り替える、逆転の再生劇が始まります!

 地下水道の浄化から数日。レトの名は、まだ「正体不明の凄腕」としてではあるが、リ・デコードのギルド内で密かに囁かれ始めていた。そんな折、受付嬢のセラから「どうしてもレト君に見てほしい人がいる」と、一軒の鍛冶屋を紹介された。


 街の外れ、すすと鉄の匂いが立ち込める『鉄槌の滴亭』。そこでレトを待っていたのは、赤く焼けた鉄を打つ音ではなく、重苦しい沈黙だった。


「……セラ、連れてきたっていうのはこの若造か? 悪いが冷やかしなら帰ってくれ。俺の腕はもう死んだんだ」


 店主のバルガスは、丸太のような腕を持つ大男だったが、その瞳には深い絶望が張り付いていた。彼の前の作業台には、二つに折れた一本の美しい長剣が横たわっている。


「バルガスさん、彼はレト君。普通の鑑定士じゃ見抜けない『物の本質』を読み解くことができるの。……お願い、一度だけ彼に見せてあげて」


 セラの熱意に押され、バルガスは力なく首を振って、折れた剣をレトの前に差し出した。


「……それは、俺の先祖代々から受け継がれてきた名剣『天風の息吹シルフィード』だ。この街を守る騎士団長に納めるはずだったが、最終調整の最中に、何の前触れもなく折れやがった。……俺の火加減か、槌の入れ方が間違っていたのか……。だが、何度打ち直しても、鉄が『拒絶』しやがるんだ」


 レトは黙ってその剣に手をかざした。視界が「翻訳モード」に切り替わり、複雑な幾何学模様が剣の断面から溢れ出す。


「……アイリス、解析を」


「了解。……マスター、対象オブジェクトの構造に致命的な『論理の齟齬そご』を確認。これは職人の技術ミスではありません。剣の素材である『風霊銀ウィンド・シルバー』の定義ファイルが、外部から書き換えられています」


【対象:名剣天風の息吹】 【状態:構造崩壊(ステータス:壊破)】 【原因:素材特性の『脆性ぜいせい』への強制上書き】 【※隠蔽属性:王立研究所発行の『劣化プログラム』を検知】


 レトは息を呑んだ。まただ。これは単なる事故ではない。


「バルガスさん。この剣を打つために使った素材、どこで手に入れました?」


「……一ヶ月前に王都から来た商団からだ。最高品質の風霊銀だって触れ込みだったが……それが何か関係あるのか?」


「……この銀には、最初から『ある一定の負荷がかかると折れる』という呪いが、言葉のレベルで仕込まれていました。バルガスさんの腕が悪いんじゃない。この素材自体が、最初から壊れるように『翻訳』されていたんです」


「な……なんだと!? 王都の素材が、呪われていたっていうのか!?」


 バルガスが椅子を蹴って立ち上がる。レトの脳裏に、聖女エレインの冷ややかな微笑が浮かんだ。  地方の腕の良い職人に欠陥素材を掴ませ、名声を失わせる。そして、代わりに王立研究所製の「完璧な(だが管理された)武具」を売りつける。……世界のあらゆる営みを、自分の手の内に収めようとする彼女の執念が、ここにも及んでいた。


「……マスター。バルガス氏の精神状態に極度の混乱を検知。名誉の回復には、現物の修復が最優先事項と判断します」


「分かってる。……バルガスさん、槌を貸してください。俺がこの剣の『理屈』を書き換える」


「若造、何を……!」


 レトは折れた剣の破片を合わせ、その上からアイリスが生成した「高純度魔力触媒」を振りかけた。  レトの瞳が黄金色に輝く。


「翻訳――因果復元。素材定義の初期化フォーマット、および硬度情報の再翻訳!」


 レトの手の中で、銀色の光が渦を巻いた。折れた断面が、まるで生き物のように蠢き、吸い寄せられるように結合していく。「……見ろ、鉄が……鉄が笑ってやがる……!」


 バルガスが感嘆の声を漏らす。レトが行っているのは、ただの溶接ではない。『折れるはずだった運命コード』を削除し、『決して折れないという意志』を鉄の分子レベルまで叩き込んでいるのだ。


「さらに、隠された文脈を抽出――特殊属性『大気の加護』を恒久定義!」


 カラン、という清冽な音と共に、剣から一陣の風が吹き抜けた。そこにあったのは、以前よりもさらに鋭く、透き通った輝きを放つ「真の名剣」だった。


 バルガスは震える手でその剣を握った。一振り。空気が裂ける音が響き、工房の奥に置かれた鉄の塊が、触れてもいないのに真っ二つに割れた。


「……信じられん。これはもう、名剣なんてレベルじゃない。……『神話級アーティファクト』に近い領域だぞ」


「俺がしたのは、素材の本来の力を取り戻しただけです。……バルガスさん、あんたの技術があったから、この剣は俺の言葉を受け入れてくれたんだ」


 バルガスは言葉を失い、やがて太い腕で自身の顔を覆った。失われた誇りが、一人の「翻訳家」の手によって、かつてない高みへと引き上げられた。


「……レト、と言ったな。恩に着る。この街の職人は、みんなあんたに救われたようなもんだ。……いいか、困ったことがあったら何でも言え。俺の槌は、これからはあんたのためにある」


 職人との絆が結ばれた瞬間だった。傍らで見守っていたセラが、眩しそうにレトを見つめている。


「……マスター。リ・デコードにおける『職人ギルド』との友好度が、最大値付近まで上昇。今後、特殊武具の調達コストが大幅に削減されます」


「アイリス、打算的すぎるよ」


 レトは苦笑しながら、工房を後にした。一歩ずつ、だが確実に。レトは自らの「翻訳」で、聖女が歪めた世界を塗り替えていく。それはいつしか、王国そのものを揺るがす大きなうねりへと変わっていくはずだった。

第15話を最後までお読みいただき、ありがとうございました。


今回は「翻訳」スキルの応用編として、武具の修復と強化を描きました。 単に直すだけでなく、素材に仕込まれた「劣化プログラム」を書き換え、さらに隠された属性を引き出す。この「本物の価値を復元する」プロセスこそ、レトにしかできない救いの一つです。


また、王都が地方の職人を潰そうと工作しているという事実も明らかになりました。 聖女エレインの支配は、武力だけでなくこうした「経済や技術」の面でも静かに進行しています。それに対し、レトが「本物」を作り出すことで対抗していく構図は、今後の大きな武器になるはずです。


「バルガスさんの復活に熱くなった!」「アイリスの冷静な突っ込みが好き」と思っていただけましたら、ぜひ【ブックマーク】や【評価★】で応援いただけると嬉しいです!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ