第12話:魔術師カティアの傲慢、崩れ去る絶対の方程式
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隠れ里に迫る、勇者パーティ第三席・魔術師カティア。 「無能な荷物持ち」とレトを見下し、完璧な魔法数式で彼を葬ろうとする彼女に対し、レトが手にした新たな力「逆翻訳」が火を噴きます。
知性とプライドが激突する、理論派同士の極限バトル。 絶対の方程式が崩れ去る瞬間を、どうぞ見届けてください!
隠れ里を包む吹雪が、一瞬にして蒸発した。村の入り口、雪原のただ中に立つ女――勇者パーティ第三席、魔術師カティアが掲げた杖から、猛烈な熱波が放たれたためだ。
「……見つけたわ、レト。こんな辺境のバグまみれの村に隠れているなんて、惨めね」
カティアは、縁の細い眼鏡を押し上げながら、冷徹な視線をレトに注いだ。彼女は「真理の探求者」を自称し、あらゆる現象を高度な数式と魔法式で支配することに執着する、パーティ随一の理論派だ。
「カティア……。お前までシグルドの盲信者になったのか?」
「盲信? 心外ね。私はただ、聖女様が提示した『管理された平和』の方が、あなたの曝露した『無秩序な真実』よりも、数学的に安定していると判断しただけよ。……あなたの存在は、今の世界の方程式にとって、あまりに巨大な負の数なの」
カティアが杖を振るう。その瞬間、レトの周囲に数百の幾何学的な魔法陣が展開された。
「解析……、これは!?」
レトの視界に、かつてないほど複雑な文字列が乱舞する。
【対象:カティアの極大魔法『十重連環・炎鎖牢』】 【定義:絶対拘束、および内部温度の定常上昇(設定値:1,500℃)】 【※プロテクト:論理回路による多重暗号化。直接の書き換えを遮断】
「無駄よ。私の魔法は、あなたがこれまでいじり回してきた野良のバグとは違う。完全な論理で構成された、難攻不落の城塞なの」
炎の鎖が、咆哮を上げてレトを包囲する。熱風で服が焦げ、肌がひりつく。だが、レトの瞳は諦めてはいなかった。
「……アイリス、援護を!」
「了解。物理演算干渉、開始。……マスター、敵魔法式の『第十四節』と『第六十七節』の間に、わずかな同期のズレを確認。逆翻訳の起点はそこです」
アイリスの瞳が激しく点滅し、カティアの「完璧」な方程式の綻びを見つけ出した。
「……見えた!」
レトは炎の鎖に手を伸ばした。普通なら手が炭化する狂気の沙汰。だが、彼の指先は炎に触れる直前で止まり、空中に浮かぶ「透明なコード」を掴み取った。
「逆翻訳――実行! 全論理回路の因数分解を開始しろ!」
レトの声に応じ、カティアの方程式が激しく振動し始める。
「な……っ!? 私の魔法式を……分解しているというの!? ありえないわ、そんな無秩序な術式で、私の美学が解かれるはずが……!」
「カティア、お前の魔法は美しすぎるんだよ。美しすぎて、一つでも不純物が混じれば、すべてが瓦解する脆い虚構だ」
レトが指先をひねると、炎の鎖がみるみるうちに形を崩し、雪の結晶へと「逆翻訳」されていった。一千五百度の極熱が、ただの冷たい雪片となってカティアの足元に降り積もる。
「……私の、私の黄金比の魔法が……、ゴミみたいに……」
カティアの顔から余裕が消え、屈辱で唇を噛んだ。
「認めない……。あんな、ゴミを運ぶことしかできなかった無能が、私の知性を否定するなんて! 出てきなさい、魔導猟犬! あの男を、その女ごと噛み殺せ!」
カティアの影から、鋼鉄の牙を持つ十数頭の魔獣が飛び出した。だが、レトはもう怯まない。彼はアイリスの肩に手を置き、彼女と感覚を完全に同調させた。
「アイリス、やるぞ。俺たちが学んだのは、ただ壊すことじゃない」
「肯定。全魔導猟犬の『敵対定義』を掌握。……マスター、一括翻訳の準備完了です」
迫りくる獣たちの牙がレトの喉元に届く寸前、レトは力強く宣言した。
「翻訳――属性反転。お前たちの主は、今この瞬間から、カティアじゃない!」
閃光が奔り、魔導猟犬たちの眼光が紅蓮から清冽な碧へと変わる。彼らは空中で身を翻すと、驚愕に目を見開くカティアを取り囲み、鋭い牙を主へと向けた。
「ひ……っ、あ、ああ……! 待ちなさい、私の命令を聞きなさい!」
「無駄だよ、カティア。あいつらの支配権は、もう俺の手の中だ」
レトは冷たく言い放ち、杖を落としたカティアを見下ろした。修行の成果は、本物だった。勇者パーティの主要メンバーを、正面から、それも彼女の得意分野である「知略」で圧倒したのだ。
吹雪の中に立ち尽くすカティアを置き去りにし、レトとアイリスは村の入り口へと戻る。そこには、満足げに頷くエルダの姿があった。
「ふむ、ようやく『翻訳家』らしい戦い方ができるようになってきたのう。……だがレトよ、これで王国も本気になる。次に来るのは、シグルド本人か……あるいは、あの偽りの聖女自らかもしれんぞ」
「ああ、望むところだ。……俺が、この世界のバグをすべて解体してやる」
レトの言葉には、かつての卑屈さは欠片も残っていなかった。
第12話を最後までお読みいただき、ありがとうございました。
今回は、魔法を「数式」として操るカティアと、それを「バグの塊」として解体するレトの対比を描写いたしました。 自分のアイデンティティである魔法式をゴミのように扱われ、さらに使い魔まで奪われたカティアの絶望。かつて彼女がレトに向けていた冷たい視線が、今度は自分自身に突き刺さる……という「因果応報」を感じていただければ幸いです。
アイリスとの連携も一段と深まり、レトの戦い方はもはや一介の翻訳家の域を超えつつあります。 しかし、これに激怒したシグルド、そして権限を握るエレインが黙っているはずもありません。
「カティアへのざまぁが気持ちいい!」「アイリスとのコンビが最高!」と思っていただけましたら、ぜひ【ブックマーク】や【評価★】で応援いただけると、次話の執筆の大きな力になります!




