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第1話:『翻訳しかできない無能は、ここでお別れだ』

初めまして。本作を手に取っていただき、誠にありがとうございます!


この物語は、地味な「翻訳」スキルしか持たなかった主人公が、世界のシステムを書き換えて無双する「追放・ざまぁ・成り上がり」ファンタジーです。


「言葉」で現実をハッキングしていく爽快感を楽しんでいただければ幸いです。 まずは第1話、絶望の淵から始まる物語をぜひお楽しみください!

 松明の炎が、湿り気を帯びた石壁を不気味に照らしていた。  ここは『神の塔』第七〇階層。人類の未到達領域にほど近い、死と神秘が同居する場所だ。


「……おい、レト。いつまでその壁を眺めてるつもりだ?」


 背後から飛んできたのは、氷のように冷たい声だった。  振り返ると、そこには黄金の髪をなびかせた青年が立っていた。聖剣の勇者、シグルド。彼の白銀の鎧には、先ほど倒した魔物の返り血一つ付いていない。


「もう少し待ってくれ、シグルド。この扉に刻まれた古代文字は、今までの階層のものよりずっと複雑なんだ。文脈を読み解くには、あと数時間は――」 「数時間だと?」


 シグルドの端整な顔が、不機嫌そうに歪んだ。  彼だけではない。背後に控える魔導師も、重戦士も、隠密の少女も、一様に苛立ちを隠そうとしなかった。


「三日だ、レト。この『開かずの門』の前で、俺たちが足を止めてから三日が経過した。お前はその間、何をした? 『たぶん、平和を願えという意味だと思います』だと? そんな寝言を聞くために、貴重な食料を分けてやったわけじゃないんだぞ」


「それは……この文字自体が、多層的な意味を持っている可能性があって」 「言い訳はいい」


 シグルドが一歩、歩み寄る。その威圧感だけで、レトの呼吸が詰まりそうになる。


「お前の持つスキル【翻訳】。鑑定士は『あらゆる言語を理解する稀少な力』だと言ったが、実態はどうだ? ただの通訳じゃないか。魔物と交渉できるわけでもなく、強力な攻撃魔法が撃てるわけでもない。お前が文字をこねくり回している間、俺たちはその身を守ってやるために剣を振り続けなきゃならん。……わかるか? お前は、このパーティの『足枷』なんだよ」


 足枷。その言葉が、レトの胸に鋭く刺さった。  否定したかった。だが、事実として、この塔の攻略においてレトは戦闘に貢献できていない。彼にできるのは、古びた文献を読み、誰も読めない壁画の文字を解釈することだけだった。


「……ごめん。でも、この扉の先には、きっと世界を救う鍵が……」 「ああ、その通りだ。だからこそ、ここでお前とはお別れだ」


 シグルドが冷酷に告げると同時に、隠密の少女がレトの荷物袋を奪い取った。


「え……?」 「荷物は置いていけ。これはパーティの共有財産だ。お前のような無能に持たせる慈悲はない」 「待ってくれ! 食料も水もなしに、ここで一人にされたら……!」


 レトが手を伸ばすが、重戦士の巨体に突き飛ばされる。床に這いつくばったレトを見下ろし、シグルドは腰の聖剣を抜いた。  斬るのか。そう身構えたが、シグルドが向けたのは扉の方だった。


「安心しろ、殺しはしない。……ただ、これでお前はもう必要ないってことだ」


 シグルドが聖剣を扉の隙間に突き立てる。  眩い黄金の光が溢れ出し、あんなに頑丈だった『開かずの門』が、凄まじい音を立てて内側から崩壊した。


「扉が……開いた? どうやって……」 「簡単なことだ。三日間、お前の無駄な解説を聞きながら、俺の聖剣が『扉の魔力構造』を学習し終えたんだよ。翻訳なんてまどろっこしい手順を踏まなくても、力でこじ開ければ済む話だったんだ」


 レトは絶望に目を見開いた。  自分の存在意義だと思っていた知識や分析すら、勇者の持つ「力」の前では余興に過ぎなかったのか。


「じゃあな、レト。運が良ければ、魔物に食われる前に自力で一階まで降りるんだな。……もっとも、そんな『才能』はなさそうだが」


 高笑いと共に、勇者一行は扉の奥へと消えていった。  崩落した瓦礫が入り口を塞ぎ、残されたのは、ただ一人の青年と、消えかかった松明の灯火だけ。


 静寂。  死の予感が、冷気となって肌を撫でる。


「……はは、なんだよ。結局、俺は何もできてなかったのか」


 レトは力なく笑い、崩れ落ちた壁に背を預けた。  暗闇の中、視界が滲む。  その時だった。


 背中の後ろ、崩れた壁の奥から、奇妙な「光」が漏れていることに気づいた。  それは松明の炎でも、勇者の聖剣の輝きでもない。  青白く、規則的に明滅する、見たこともないほど澄んだ光。


 誘われるように、レトはその光の源へと手を伸ばした。  指先が、冷たい金属のような、あるいは滑らかなガラスのような質感に触れる。


 ――その瞬間。


『個体名:レトを認識。……言語中枢へのアクセスを開始します』


 頭の中に直接、無機質な女性の声が響いた。  と同時に、レトの視界が変貌する。


 真っ暗だったはずの視界に、無数の「文字」が浮かび上がった。  それは古代文字ですらなく、理解不能な記号と数字の羅列。  だが、レトの【翻訳】スキルが、今までにない熱量を帯びて激しく脈動した。


『――世界ログの翻訳デコードに成功しました』 『スキル【翻訳】の権限を拡張します……「日常言語」から「世界定義言語」へ』


 レトが目を見開くと、目の前の「岩」や「空気」の横に、半透明のプレートが表示されていた。


【オブジェクト名:神の塔・外壁の残骸】 【状態:破損】 【属性:物理障壁(耐久値 0/10000)】 【※致命的なエラーが発生しています。再構築リライトしますか?】


「これ……は……?」


 レトは震える指で、その『エラー』と表示された文字に触れた。  彼の人生を、そして世界の運命を書き換える「翻訳」が、ここから始まることも知らずに。

第1話を最後までお読みいただき、ありがとうございました!


勇者に捨てられたレトですが、ついに彼だけの「最強の力」が目覚めました。次回、ついに物語の鍵を握るヒロインが登場します。


もし少しでも「面白い」「続きが気になる」と思っていただけましたら、下の**【ブックマークに追加】や、評価の【☆☆☆☆☆】を【★★★★★】**にしていただけると、執筆の大きな励みになります!


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