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千集院創作芸術学院  作者: 綾高 礼
第一章「千集院創作芸術学院」

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8/20

1-7「B班の選考会」


 あらかじめ決めておいた土曜日のお昼休みに、B班の五人は食堂で集まった。

 それぞれ頼んだ昼食を食べながら、勝俣が来るのを待っている。野崎は、自販機で買った野菜ジュースだけ飲んでいた。


「すまん。待たせちまった。運悪く上の階級の奴らがこぞって並んでくるから時間掛かっちまったわ」


 勝俣は綾人と嵐に並んで座った。向かいには野崎と茉希歩が座っている。


「じゃあ皆も揃ったことだし、それぞれ自分がどの作品を推したいか言っていこうか。もちろん自分を推してもいいからね」


 嵐から順に始まった。嵐は真っ先に野崎を選んだ。その理由は素直に面白かったからと言う。野崎は恋愛小説だ。

 綾人と茉希歩は嵐を推した。その理由は同郷のよしみでも何でもなく一番小説として面白い、楽しめたからだと言う。嵐は学園ミステリだ。


 勝俣は茉希歩を推した。理由は最高だったからと言った。茉希歩は純文学だ。

 だが茉希歩は珍しく箸を止めて「勝俣君」と言う。初めて面と向かって見られた勝俣はむせた。


「は、はい。なんでしょうか早川さん」

「私の作品、本当に良かった?」

「え?」

「茉希歩ちゃん?」嵐は心配そうに真剣な表情の茉希歩を見ている。


「それはもう最高で」

「どの辺が良かった」

「それはもう……ごめんなさい。よく分かりませんでした。俺、あんまり文学とかよく分からなくて」

「ううん、勝俣君が悪いんじゃないの。私の腕が足りないせいだから」

「そんなことはないって。俺の勉強不足だから」

「じゃあこのまま私が書いて他の班に勝てそう?」

「ええっと……それは……その」

「勝俣君が本当に一番楽しめた作品は誰の作品?」

「……雷電のやつ」

「うん、じゃああーちゃんに一票だね」

「はい。すいません」


 嵐は気まずそうに「茉希歩ちゃんは文学よりの文章だから今回の試験では少し分が悪いだけだよ」と小さな声で言った。

 しょげくれている勝俣を汚物でも見るかのように野崎は見ながら「バカみたい。アタシは宮風の作品が良いと思った」と次に綾人を見つめて言う。


「なぜだ?」

「大学入試に悩める男子高校生が主人公で、その家族と恋人や友人の微妙な関係性から最後のハッピーエンドまでよく書けていたと思うから。でも若干中盤が退屈に感じたかな。文章も構成も破綻なく綺麗だった。ジャンルは一般文芸かな。対して雷電の学園ミステリも雑さがあったけど勢いがあって良かったと思う。この二つを噛み合せたら凄い面白くなると思ったから」

「なるほど。ちゃんと読んでくれて感謝する」

「別にいいわよ。そんなこと」

「俺は? 俺の小説はどうだった?」泣きそうな顔で勝俣は皆を見渡す。


「ぼ、僕は面白かったと思うけど……。僕ライトノベルも結構好きだから。まあ死んだ女子校生が突然吸血鬼側のボスだったのには驚いたけど」

「だろ? あれは実はな、まだ能力を隠しているんだけどな」

「内容がどうこうよりあんたの小説誤字脱字多すぎんのよ。ちゃんと推敲してないでしょ」

「はあ? 推敲なんて五十回はしてるわ!」

「あれで? あんたの目ン玉腐ってんの?」

「ああ、ほんとムカつくなあお前! そういえばお前の小説は随分と生温い恋愛してたけどなあ? お前はああいうクール系主人公が好きなのか? 無口な主人公に振り回されたいのは分かったけどちょっとお前の性癖が出すぎてだいぶ痛かったなあ」

「ちょっと勝俣君流石に」


 嵐が注意しきる前に野崎は手に持っていた野菜ジュースを勝俣の顔面に投げつけた。


「あいたっ!?」

「地獄絵図だ」と綾人は呟く。


 その後、茉希歩が何とか野崎を落ち着かせ、嵐が勝俣を説教した。

 色々とあったが、結果は嵐に三票が集まり、野崎と綾人に一票ずつ入った。


「じゃあまず班長は雷電でいい?」


 野崎が見回すように聞くと皆が頷いた。


「……ほんとに僕なんかが班長でいいの?」

「ああ、俺はいいと思うぜ」

「私もあーちゃんが妥当だと思う」


 綾人はふと思ったことを確認する。


「嵐は班長になるのが怖くないのか?」

「え」

「班長と副班長は執筆権を得る代わりに、上位四組に入れば個人だけでも20万Nptを獲得出来るのは確かに大きいかもしれないが、同時に退学処分も付き纏うことになる。それにまだ俺たちは入学して一月すら経っていない」


 とたんに皆の表情が固まっていく。


「僕は……その退学になるなんてもちろん、嫌だけど、でも書けるなら書きたいかな。小説書くのは好きだから……それでもし、B班が上位をとれたら僕は凄く嬉しいと思う……難しいかもしれないけど」


 はっとしたように皆が嵐を見ている。嵐は恥ずかしそうにうつむいて頭をかいている。


「分かった。じゃあ俺も嵐が班長に異存はない。次に誰が副班長になるかだ。一応、野崎と俺に一票ずつ入っているがどうする」

「副班長って執筆権はあるけど、あーちゃん以外は基本的に書くことはあまりないよね?」

「ああ、だが二人で常に修正しあったりすることは出来るし、得意なシーンは副班長が書いてもいい。何より班長の体調不良時など緊急を要する時は副班長の出番になるかもしれない」

「でもそれって副班長じゃなくても修正の指示は他の班員でも出せるよね?」と野崎が口を挟む。

「ああ、副班長はあくまでも班長と同じく執筆権を持っている。ただそれだけだ。まあその修正を受け入れるのも、入れないのもこの二人になるがな」

「それなら私がやってみてもいいかな? 一票も入ってない私が立候補するのもあれなんだけど……」

「どうして?」

「うーん、あーちゃんが昔からどういうとこで躓いたりするか何となく分かるからかな、いつも相談に乗ってあげてたし」

「ほんのたまにだよ」と嵐は付け加える。

「なるほど……勝俣と野崎はどう思う?」

「俺は早川さんがそう言うなら止めはしないけど……」

「アタシは早川さんで良いと思う。小説的な技量は確かだし、文章や人物補正が出来る早川さんなら雷電との相性も良さそうだしね」

「そんなこと言ってお前は退学処分から逃れて安心してるだけじゃねぇのかよ?」

「は? あんたこそ立場は同じでしょ?」


 勝俣は何か言いたげなのをグッと押し黙った。


「じゃあ茉希歩、副班長頼めるか?」

「任せてよ」

「ほんとにいいの、茉希歩ちゃん?」

「これも私たちにとっては大事な一歩だよ」


 茉希歩は、嵐と綾人を見てから健気に笑った。

 B班は嵐が班長で、茉希歩が副班長を務めることに決まった。

 試験の結果次第では、この二人が夏を越せないかもしれない。ということはひとまず小説家になる可能性を逃すことになるな。

 綾人は昔の記憶を思い返しながら、そんなことを考えていた。

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