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千集院創作芸術学院  作者: 綾高 礼
第五章「選択の刹那」

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「エピローグ」


 先程まで黙っていた綾人は、唐突にこんなことを口にした。


「なあ野崎。小説家に夢はあると思うか?」


 野崎は不思議そうに綾人を見る。綾人はただじっと前を見つめていた。


「知らないわよ。アタシもプロじゃないんだし」

「そうか。質問を変える。小説に夢はあるのか?」

「は? 意味分かんない。業界的な話? 夢が欲しいならファンタジー小説でも読んだら?」


 野崎が冗談交じりに言ってみせても綾人は何の反応も示さない。


「書き続けた者にしか……」

「え……?」

「俺たちは……誰かのせいで地獄に足を踏み入れた。信じ続けてきたモノが折れた時、人は初めて絶望を知る。だがあいつらは自分で、選んだ。選べた。

 自分の選択が正しかったのかは……書き続けた者にしか分からない。書き続けたその先に何があるのか。

 書き続けたその先に見える景色は、決して同じとは限らない。でもそれは……自分の選択を信じ続けた者にしか見えないのかもしれないな……」


 何も言い返せずにいた野崎は、それが二人のことを言っているのだと少し経ってから解釈する。


「お〜い! お待たせぇ」


 ようやく嵐と茉希歩、それに勝俣がやって来た。


「じゃ映画館から行こっか。あ、栞菜ちゃんの服超かわいい、しかもなんかお洒落〜」

「いいよお世辞なんて……茉希歩の方が断然今どきで可愛いし」

「えぇ、お世辞じゃないってば。私のファッションなんて全部小説の登場人物の真似だよ。だから実は流行遅れなんだ……」


 二人は互いに笑いあった。


「このバックもかわいいね」

「こんなの何処にでも売ってるわよ」

「そうなの? 今日行くお店に似たようなバック売ってたら私買っちゃおうかな〜」

「試験でポイント取られたんだから程々にしときなよ」

「でも授業単位のボーナスも入ったんだよ〜」

「無駄遣いしちゃ駄目よ。二学期も試験あるんだから」

「えぇ……栞菜先生厳しい……なんかあーちゃんみたい」

「駄目なものは駄目なんだから」


 二人がキャッキャしているのを男子三人は遠巻きに眺めている。


「お〜リンゴはどっちが好みだ〜?」

「どっちが?」

「またまた〜おとぼけちゃって〜雷電さんはどちらがお好みで〜?」

「いや僕はその、どっちがなんて……選べないよ……」

「かぁぁ〜こいつらときたら、そんなの断然、天使の早川さんに決まってるだろぉがよぉ? あれ、ちょっと待てよ雷電、お前まさか……それは二人共略奪するつもりってことかぁああ?」


 ☆


 四人は先に公園を出ようとしている。

 アタシはその少し後ろを歩きながら、その中に混じっている宮風綾人を見ていた。


 外側から見ると本当にただの何処にでもいそうな平凡な男子生徒だ。でもアタシにはもう彼のことを皆と同じように見ようとしても決して見ることは出来ない。

 彼のことはまだよく知らない。

 一体全体、彼がどんな環境で生活をしてきたのか。

 彼がどんな小説を読んで、書いてきたのか。

 気になって仕方がないけど、あまりしつこく聞くと嫌われてしまいそうな気もする。


 実は連絡先もまだ知らないから、今日聞こうと思ってたけどまだ聞けていない。というよりも手を組むことを誘ってきた癖に向こうから聞いてこないことに少しだけ腹が立つ。


 それなら茉希歩に聞けばいいじゃんと自分でも思ったけどそれはそれで少し恥ずかしいから躊躇している。

 彼のことを本当に信用していいのか。

 千集院をこれから裏切るのが正解なのか未だに分からない。

 でも彼はあの日の最後、アタシにこう言った。


 ――野崎、卒業までに自分の小説を見つけろ――と。


 卒業までに。正直この意味はまだよく分かっていない。だけど少なくとも彼はアタシを受け止めてくれたような気もする。まだ勘違いかもしれないけど。

 それでもちゃんと自分で選んだ道だから。


「アタシはあんたに……」


 そう独り言ちた自分にふと笑ってしまう。こんなことは学院に来て以来、いや炎上して以来初めてかもしれない。


「お〜い、栞菜ちゃ〜ん〜どしたの〜行くよ〜?」


 茉希歩が不安そうにいつの間にか立ち止まっていたアタシを見つめている。それに釣られて男子たちも不思議そうに見ている。

 アタシは手を軽くあげて一歩前に進む。

 これからのことを考えると毎日が不安だけど。

 この先の未来がどうなるかなんて分からないけど。


「いま行くから」


 アタシは自然と湧き上がってくる感情に任せて、皆のもとに向かって行く。

 こんな日々が少しでも長く続けば良いのにな、と思って。

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