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千集院創作芸術学院  作者: 綾高 礼
第二章「警告」

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幕間「友情」


 翌日の早朝、綾人はランドセルに例の『小説』を入れていた。

 昨日、花のついた長方形の紙を、仕事帰りの母に見せた。これはいったい何だと。


 母は夕飯を作るのに忙しそうだったが、綾人の手元に一瞬視線をやって、すぐに視線を料理へと戻す。


「それは栞。本を途中から読む時に役に立つの。でもどうして綾人がそんな綺麗な栞を持ってるの?」


 綾人はとっさに友達に貰ったと言った。

 母は綾人の嘘を昔から見抜く癖があって、急に料理の手を止めて、キッチンからリビングにいた綾人のもとへとやって来る。

 母は交通事故がきっかけで片足が悪かった。


 母は「かしなさい」と言って綾人の手元から栞を奪って、裏を見た。


「綾人の友達にらいでん嵐君なんて子いた?」

「隣のクラスにいる」

「本当に? 母さんそんなの一度も知らないけど」

「本当だって」

「綾人。母さんの目を見て」

「……」

「綾人! らいでん君って誰?」

「友達」

「勝手に取ったの?」


 すると母は床に落ちていた『小説』を見つけて拾った。息子が普段から小説なんて読まないのは母が一番知っていた。

 これは何やらきな臭いといった表情で「これはなに。誰の本なの?」と綾人の顔前に、本を突きつける。


「らいでんの」

「らいでん君は本当にお友達?」

「そうだって」

「いつから?」

「……今日から」

「綾人!」


 綾人は泣いた。母の怒声と剣幕で、全ての経緯を話すことになった。

 母は明日この『小説』を、絶対に返して謝るようにきつく言いつけた。


「明後日の授業参観のときに母さんも謝りに行くから。もし小説を返して謝罪していなかったら家から追い出すからね」


 綾人はらいでん嵐の学年もクラスも知らないので、どうしたものかと迷った。とりあえず休み時間に保健室へ向かい、らいでん嵐がいるか先生に尋ねた。

 今日はいないらしい。

 なので綾人は、さっそく運動場にある砂場で友達とヒーローごっこをしていたら、突如背中から蹴りを受けた。


 綾人たちのヒーローごっこは、敵に触れても本気で殴る蹴るということはなく、技を繰り出しても手で押したり擽るのが通例だ。

 だがたった今、背中に受けた蹴りは、明らかに外部からの悪意ある襲撃だった。綾人は、顔面から砂場につんのめった。口内が砂まみれになって、死ぬんだと思って、綾人は泣いた。


「おい! 悪党!」

「だ、だめだよ茉希歩ちゃん。いきなり人の背中を蹴ったりするなんて……」

「あーちゃんは黙っててよ! おい、この悪党! 悪党め! あなたがあーちゃんから小説を奪ったんでしょ?」


 周りにいた三人の友達は、啞然としてヒーローを辞めていた。そして振り返った先にいるおかっぱの女の子は、綾人を敵役と言わんばかりに鼻息を荒く見下ろしていた。


「答えなさいよ、悪党!」

「え、え……」

「許せない! ぜーったい先生に言いつけるから!」

「ま、待ってよ茉希歩ちゃん」

「なに、あいつが奪ったってあーちゃんが」

「た、確かに、あの子が僕の小説を奪ったのは本当だけど……」

「なら間違ってないよね!」

「けど、蹴るなんて駄目だっていつも……」

「どうして? 悔しくないの? あーちゃんはこの悪党から小説を勝手に奪われて許せるの?」

「ゆ、許せはしないかもしれないけど、でも暴力は」

「違う! これは粛清」

「粛清だなんて……」

「使い方はあってるはず。だってこの前あーちゃんが貸してくれた小説の主人公が悪党を懲らしめるときにこれは粛清であるって言ってたもん!」

「はあ……」


 教師たちが駆けつけ、綾人たちは別室に連れられた。そこでことの経緯を話した。

 ちゃんと正直に今日小説を返しに来たが、見つからなかった。あと休み時間が惜しいのでとりあえず遊んでしまったことを綾人は懺悔した。


 教師立ち会いのもと、らいでん嵐に小説を返すことになった。らいでん嵐は、保健室で出会ったときにはかけていなかった眼鏡をかけていた。

 担任の教師は、綾人にちゃんと謝るんだぞと言う。


「勝手にとってごめんなさい」

「ううん、保健室で小説読んでた僕の方も悪いから……」


 嵐は内緒話でもするように語気を弱めて「で、その、ど、どうだった?」と聞いた。


「え」

「読んだんだよね小説? 面白かった?」

「え、いや、一頁だけ読んだだけだから面白くはなかった」

「そ、そっか。この小説は確かに最初の方は少し退屈なんだけど、すぐに面白くなるから。あっ、ちゃんと、返してくれるなら、貸してもいいけど」

「え、いや、え、いいの?」

「う、うん。一年一組の宮風綾人くんって言うんだよね?」

「どうして知ってるんだ」

「先生から聞いたんだ。あ、あと茉希歩ちゃんのことはその、ごめんなさい。今度僕の方からちゃんと言っておくから。それと僕は一年四組の」

「らいでん嵐だろ」

「え、どうして僕の名前を」

「栞に書いてあったから」

「ああ、そっか……」

「友達になってよ、嵐」

「え、と、友達に? 僕なんかと?」

「うん。だって小説借りるのに友達じゃなかったら、また、その……母さんに怒られるから」

「う、うん。僕なんかで良かったら……いいよ綾人、君」


 二人は握手を交わした。

 それから綾人は、少しずつ嵐に小説の面白さを教えて貰ったり、分からないところがあれば放課後すぐに聞いたりした。


 茉希歩、早川茉希歩は嵐と幼馴染で、同じ四組にいて常に綾人を監視するためにいつも近くにいた。


 二年生になった頃、三人は同じクラスになった。いつの間にか『小説』を通してすっかり仲良し三人組になっていた。

 それに嵐の父親は、有名な小説家で、代々長く受け継がれている小説家家系の次男だということを後から知った。


 いつの間にか綾人は、小説も読めるようになって、自分たちでノートに書いたりして、下手な小説を三人で見せあって笑いあった。

 休みの日は一緒に図書館に行き、夏休みは綾人の母が三人をキャンプにも連れていってくれた。


 祭りにも行って花火も見て、自分たちで遊んだ。出店でりんご飴も綿菓子もイカ焼きも食べた。


 読書の秋を過ごして、母が中華街に連れて行ってくれた時は、鬼ごっこをして綾人と嵐は凄い怒られて、何故か茉希歩だけは怒られず喧嘩したこともあった。


 大人気小説が映画化されたので連れて行ってもらい、三人でライトアップされた街も歩いた。


 雪が積もって、雪合戦をして、正月に餅をついて、節分には豆まきをした。


 そして桜が咲く少し前の季節になった夜に、三人は夢を見た。

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