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千集院創作芸術学院  作者: 綾高 礼
第二章「警告」

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11/24

2-2「警告」


 翌日の月曜日。

 三回目のHRを前に控えた六組の様子は、明らかに先週とは違う雰囲気を孕んでいた。生徒たちは、いつものように幾つかの塊を作ってはいるが、全てが振り分けられた班での塊になっている。


 互いに互いを牽制し合うような、そんなよそよそしさだ。だが一人、勝俣だけは教室に入ってくる生徒に明るく挨拶を交わす。もうすっかり慣れたように勝俣の挨拶を返す生徒たち。

 続いて坂上先生が入ってきて「お前ら席につけ。出席とるぞ」と言って塊とよそよそしさは霧散する。


 一時間目を告げるチャイムと同時に、片桐が入ってきて、HRがはじまった。


「じゃあ先週に言っていたと思うが、各班の班長と副班長をA班から発表してくれ」


 その瞬間、勢い良く立ち上がった片桐に皆の視線が注がれた。


「俺がA班の班長だ」


 お前が? と誰もが片桐を驚きのまま見つめている。


「鬱陶しいてめぇらに一つ忠告しといてやるよ。一位はこの俺が貰う。てめぇらクソ共は精々最下位にならねぇように虚しく潰しあいでもしてろ……あといつまでもジロジロ見てきてんじゃねぇぞごらっ」


 生徒たちは慌てて前を向く。


「片桐、警告だ。口の聞き方には気をつけろ。授業妨害及び恐喝行為は罰金にあたる」


 坂上先生は、強めに注意する。それに対して片桐は、舌打ちして獰猛に睨みつけながら席へとつく。


「ではA班の副班長は?」

「はい。A班の副班長は私が務めます」


 綺麗な声を出して立ち上がったのは天草だ。

 片桐とは真逆の真面目さで、ロングの艷やかな纏まりのある髪は本人の品格を現している。

 B班も嵐と茉希歩が続き、全八班の発表が終わる。


「今からプレハブ塔に移動する。班長と副班長のみついて来るように。他は自習な」


 昼休みになり、B班は再度食堂に集まることになっていた。野崎以外の皆は、揃っていて後は彼女待ちである。


「野崎さん、少し遅れるって」


 茉希歩はノベルレンズを操作しなが言った。


「あいつ二時間目もサボってたからな、どうせ寮で昼寝でもしてたんじゃねえのかよ」


 カツカレーのカツを噛みちぎりながら勝俣は言う。


「まあ通常授業を受けるかどうかは、個人に選択権が委ねられているから別にサボりにはならないんだけどね」


 そう冷静に言った嵐は、うどんをズルズルと啜る。


「でも必修試験が始まってから、明らかに授業を受ける生徒は増えたよね」

「そうだね。一単位2万Nptって結構馬鹿にならない数字だもんね。もし最下位にならなくても七位とか六位でNpt損失してマイナスにでもなったりしたら笑えないよ」

「まあ最初に10万Nptが配布されているから余程プライベートで豪遊しない限りは大丈夫だろ。読書でもお小遣い程度は稼ぐことができるしな。でも今後を見通してもNptがあるに越したことはないだろうから茉希歩も使いすぎには注意しろよ。特に食費。特にデザートとアイス」

「綾人に言われなくても私はまだ大丈夫だし。寮でご飯は出るし、デザートは別腹なの。でもビンゴ大会のノートPCはやっぱり欲しかったなあ」

「なになにビンゴ大会って?」

「昨日ね、千集院ゼミの交流会に茉希歩ちゃんと綾人君で行ってきたんだけど」

「おいおいおいぃ〜俺も誘ってくれよ〜雷電さんよ〜同じB班の仲間だろ〜」

「あ、ごめんなさい……」


 カツカレーをガツガツと食いながら悔しそうにしている勝俣の顔を見た野崎は「きも」と言って茉希歩の隣に座った。


「ごめんなさい、遅れてしまって」

「ううん、大丈夫だよ。それより野崎さん大丈夫? 顔色悪いよ」

「平気。昔から不眠症もってるだけだから。少し寮に帰って寝てただけ」

「そうなんだ……大変だね、体調悪くなったらすぐに言ってね。野崎さんお昼ご飯食べられる?」


 野崎は一度行列を見てから頭を振り「いいの」と言った。


「じゃあまず僕と茉希歩ちゃんがプレハブ塔に行ってきたから軽く説明するね」


 嵐の説明が始まり、茉希歩が時々補足していく。

 B班の班員は、まず二階のBと表記された専用部屋にしか入れないこと。それ以外の部屋には、どんな事情であれ入ればその班は即刻失格となり最下位になるとのこと。各階の通路には監視カメラが設置されている。


 部屋に入るときは、インターホンにレンズを認識させないと入れないこと。

 登録するときは、必ず坂上先生が同伴しなければいけないので、次回以降のHRで他クラスとの時間の兼ね合いを見ながら登録を行っていくと言っていたこと。


 次に専用部屋の中にある、デスクトップPCにもレンズ登録をしなくては起動しないので、二人はすでに登録を済ませてきたこと。


「じゃあ現時点では班長と副班長しかプレハブ塔は使えないってことよね?」

「うん、そうなるね。あと六組が部屋を使えるのは水曜日と土曜日の早朝6時から夜の10時まで。日曜日は三週に一回使い放題になるって感じかな」

「早川さんと雷電は授業を受けながらの試験になるけど大丈夫そうなの?」

「私は大丈夫だけど、もし試験を優先しなくちゃいけないようならその日は授業を休むしかないと思ってる」

「僕も同じかな。単位も出来るだけ取っておきたいのもあるけど、何より学院の授業は色々と勉強になるから」

「真面目だな。雷電はよ。俺なんか体育が一番気楽でいいわ」

「あんたってほんとなんでこの学院に入れたのよ?」

「うっせぇよ。俺が一番知りてぇよ。ていうか授業サボってるお前にだけは言われたくねぇよ!」

「はいはいはい、二人共静かにしましょうね〜ここは公共の場所ですからね〜」


 茉希歩が慣れたように間に入り、勝俣は大人しくなった。


「とりあえず今はB班の小説をどういう風にしていくかを考えるのが賢明だな」


 綾人の言葉に皆が頷いた。


「ひとまず班長はどういった感じで考えているんだ?」

「僕も色々と考えてはいたんだけど、この前野崎さんが言っていた綾人君の文芸作品の感じと僕の書いた学園ミステリをミックスして、だいたい九万から十一万文字前後の長編で試みるのはどうかな? お互いの弱点が補える気がしてるんだけど」

「私も野崎さんが言ってたときに確かに面白いかもって思ってた」

「まあ俺も早川さんと同意見だな。野崎のアドバイスってのが気に食わねえけど」

「ちなみに俺も野崎の案はいいと思う」


 皆が一様に野崎に視線を向けた。


「ア、アタシは別に、そんなつもりでっていうか殆どノリで言っただけだから、その、どうするかは班長と副班長に任せるけど、でもほんとにアタシの案なんかでいいの?」


 野崎は意外だったのか、少々面食らったように顔を赤らめていた。


「もちろんだよ。野崎さんがいなかったらこんなに面白そうなアイデア出なかったかもしれないし。これからもアドバイス宜しくね、野崎さん」

「そうだよ野崎さん。ナイスアイデアだよ」

「ナイスアイデア」


 野崎の顔は沸騰したように耳まで赤くなっていく。


「あ〜! 野崎さんって照れた顔も可愛い〜」

「ちょ、そんなじゃ、そんなじゃ……ないから」


 野崎は恥ずかしくて死にそうなのか、机に顔を埋めてしまった。


「こしょこしょこしょ〜」


 茉希歩は野崎の脇腹をくすぐりだす。


「プッ、やめ、やめて、ね、くすぐったい、プッ、やめてよ、早川、さん」

「ほれほれ〜茉希歩って呼んでよ。栞菜ちゃん。じゃないとやめないぞ〜」

「分かった、分かったから、ひぇ、茉希歩、プッ、らめ、ねぇ、もう、茉希歩らめぇぇええ」


 勝俣と嵐は何か見てはいけないモノをみてしまった時のように、両手で目を覆い隠し、更に指を開いたその隙間から二人を覗き見ている。


 綾人は心のなかで「茉希歩、ナイスアイデア」と呟く。


 小説の方向性を決めてから一週間が経ち、五月になってはじめての月曜の朝を迎えた。

 綾人は前日に、夜ふかしをしたせいで、寝坊をしてしまったので、嵐と茉希歩には先に行くように伝えていた。だからと言ってHRは休めないので、走りながら登校する羽目になった。

 滑り込むように学院内に入り、一年六組の教室に向かう。まだ始業開始まで十分ほどあった。

 教室に入ろうとして「綾人君!」と嵐は焦ったように綾人の元に駆けてくる。


「すまん、少し寝過ごした」

「これ! 見て!」


 いつもの嵐らしくない上ずった声と共に一枚のプリントを渡される。そこには印刷された文章が記載されている。


【警告! 一年六組の生徒は直ちに注意せよ! 

 四月○○日、月曜日、午前十一時頃。

 匿名生徒からある一通の情報が私の元に入ってきた。

 N・Kと名乗る一人の女子生徒が匿名生徒の元に近づいてきて、一年六組の試験投票で、A班にだけは投票しないようにと言ってきた。なお取り引きに応じた際には、N・Kから一万ノベルポイントを差し出すとの触れ込みらしい。


 正しき秩序を持った勇気ある匿名生徒は、その不正案を断ったが、その後もしつこく付きまとわれ、何とか寮に逃げ込み難を逃れた。


 この様な不正行為は断じて許されてはいけない。万が一、N・Kから声をかけられた生徒は甘い誘惑を断ち切り、即座に教師に通報するように。


 繰り返す、一年六組の生徒は注意せよ!】

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