多賀城の策略
「ああ、気持ち良かったです…………さあ、次のゲームに参りましょう!」
「お前も切り替え早いなぁ……さっきまであんなに喘いでたのに」
肩揉みを堪能した多賀城と、色々な意味で疲れが見えていた富谷。しかし、生徒会の王様ゲームはここでは終わらなかった! すぐさまに次の回が始まり、6人は再び掛け声と共に割箸を抜き取っていく!
「きたあぁぁぁ! 今回は私が王様、キングですよぉぉ!」
「げ、1番命令させちゃダメなやつが!?」
「ノンノン、失礼なことを言わないでくださいよ松島くん。私が変な命令をすると思いますか?」
「完全にフラグ立ててるだろ、それ!」
王冠を引き当てて喜ぶ多賀城とは対照的に、他の5人は一様に落胆していた。間違いなく、この中で1番突拍子もない命令をしそうなのが多賀城であることを、この場の誰もが理解していたのだ。
「またハズレですか……それで、多賀城さんの命令は?」
「そうですねぇ……そうだ、こうしましょう! 1番と5番がポッキーゲームです!」
『なっ……!?』
「ポッキーゲーム……?」
栗原以外の4人の表情がみるみるうちに青ざめていく。ルールを知らなかったのか、栗原1人だけが首を傾げていた。
「まさか会長……ポッキーゲーム知らないとか言わないですよね?」
「初めて聞いたに決まってるでしょう? 何なのそのゲームは?」
「ちょっ、マジで!? あたし1番なんだけど!?」
「……オレが5番だ」
『えぇぇぇぇぇっ!?』
状況が分からない栗原、絶望する名取と松島、驚愕の声を上げる富谷と古川。次第にカオスな様子を呈していた生徒会室だったが、多賀城からポッキーゲームの説明を受けた栗原が混乱することで、室内は更に混乱の渦と化す!
「はぁぁぁぁ!? それって、キスするも同じことじゃない!? 名取さん……貴女、そんなに死にたいの?ねえ、どんな死に方が良い?」
「ちょっ、怖い怖い怖い!? 会長、あたし何もしてないんだけど!? マジで殺る目するのやめてください!? 文句あるなら多賀城先輩にでしょ!?」
「ふふん、王様の命令は絶対なのだ! ほら、ポッキーもここにあるから問題無いのだ!」
「うわぁ……多賀城先輩、絶対最初から狙ってましたよね?」
「多賀城さん? 私に何か恨みでもあるのかしら? ゆっくりお話しましょう?」
「あれあれあれぇ? 美琴ちゃん、松島くんが理沙ちゃんとキスするの、嫌なのかなぁ?」
「そっ、そんな訳ないじゃない!? どうして私が副会長と名取さんがキスするのを止める必要があるのよ!?」
「いやいやいや、だからキスするって決まってないから!? あたしは、別に副会長のことタイプでもないし、ちょっとカッコいいくらいにしか思ってないから!?」
「お、オレと名取がキスっ!? ちょっ、オレは、オレはぁぁっ!?」
ポッキーゲームを前に、各々が自爆して爆弾発言を繰り返しているのを、誰も気付く様子はなかった!
完全に弱みを見せている栗原であったが、当の松島は名取とのポッキーゲームを前に、心ここに在らずとなっていた! 栗原が自分に好意を寄せていると丸分かりなのにも関わらず、キスという単語を前にして頭が真っ白になっていた!
王様である多賀城の命令を前に背くことが出来ない2人は、お互いに赤面しながら向かい合う! そして、そんな2人の口に多賀城がポッキーを差し込んでいく! その様子を、栗原は1人頭を抱えながらおろおろと生徒会室内を徘徊していたのだった!
(あぁぁぁぁぁぁ!? 私の……私の副会長が!? そんな、副会長と名取さんがキス……キッスよ!? そんな、そんなことあってはならないのに、どうしてぇぇぇぇぇ!?)
「んっ……松島ひぇんぱい、ホントにキヒュしたらおこりまひゅからね?」
「ぐっ……だがひかし……」
ポッキーゲームでは、先に口を離した方が負けとなる。しかし、お互いに食べることを進めていけば、やがて2人はキスすることになってしまう! 目の前の役得に動揺を隠し切れない松島、そして栗原の切り裂くような視線が松島と名取を射抜く! 自分の命の危険すら感じていた名取は、一刻も早くこの場から逃げ出したい気分だった!
好奇の視線を向ける多賀城、富谷、古川。そんな3人に見守られながら、ポッキーは着々とその長さを短くしていった!
「んっ、はむぅっ……ふくかいひょう、かおひかい……!」
「ひ、ひかたないらろ? こうひないとたべられにゃいんだから……!」
(あぁ……あぁぁぁぁ! 近いっ、近過ぎるわよ!? 名取さん……貴女との関係性もこれまでね。今日、無事に生きて家に帰ることが出来ると思わないことね? あぁ、後少しで2人がキスしてしまうわぁぁぁぁ!)
周囲が固唾を飲んで見守る中、栗原の視線が名取の背中に突き刺さる! しかし、名取は短くなっていくポッキーと松島の顔を前にして、もはや目を開けておくことが出来ずに固く口を閉じた!
対する松島も、栗原のことを考えておきながら、目の前にいる名取の顔から視線を背くことが出来ない! 整った睫毛と、紅潮した頬! よく見れば可愛いと思える後輩に、松島は冷静さを保つことが出来なくなっていた。
そして、栗原は情緒不安定となり、多賀城の肩を掴んで激しく揺さぶる! しかし、多賀城は不敵な笑みを浮かべ、目の前の罰ゲームとでも言える光景を見物していた!
(くっ、オレはっ……オレはこのまま名取とキスをしてしまうのか!? オレにはっ、オレには会長がっ、会長という心に決めた女がぁぁぁ!)
(あぁぁ、副会長の唇がぁぁぁ!?)
名取の唇まであと数センチというところまで迫ったそのとき、松島は横目で栗原の表情を確認する。そこには、今にも涙を流しそうな切なさ満点の表情をしていた栗原がいた。
その姿を視界に捉えた松島は、次の瞬間に顎を引き、梃子の原理でポッキーをへし折った!
「くぅぁっ! もっ、もう良いだろ!? オレの負けで良いから! 良いよな、多賀城!?」
「まぁまぁ、良いもの見せてもらったから許してあげようかなぁ。理沙ちゃんも、命拾いして良かったねぇ。ほら、美琴ちゃん。松島くんのファーストキスは無事だよぉ、良かったねぇ」
「はぁ、助かった……色んな意味で死ぬかと思った」
「わ、私は別に!? 全然副会長の心配なんかしてないんだから! べ、別に副会長のファーストキスなんて」
「って、何でオレがキス未経験だと知ってるんだ多賀城ぉぉぉ!」
結局、王様である多賀城の悪戯心を満足させただけの結果となり、命令に巻き込まれていた松島と名取だけでなく、栗原も同時に精神的な疲労を感じることとなった。
それでも、松島のファーストキスを未然に防ぐことが出来たという意味では、栗原もどこか安心したような満足したような気持ちになっていた。




