栗原家のメイド
「美琴様、嬉しそうですね」
「な、何のこと? 私は別に」
「顔に書いてありますよ。松島様と2人っきりになれて嬉しかったと、これでもかと分かりやすく書いてます」
「そ、そんなことないわよ!? 勝手なことを言わないでちょうだい!」
学校からの帰り道、高級リムジンを運転していた白石に声をかけられ、後部座席に座っていた栗原が慌てふためいた声を上げる。その様子を見て、白石は軽いため息を吐いた。
「良い加減に素直になられたらいかがですか? 松島様のことが好きだと、素直に伝えた方が楽になりますよ?」
「だ、誰が副会長のことなんて!? 第一、好きだなんて一言も言ってないじゃない!? そりゃあ、別に男としては悪くないとは思うけど、この私と付き合えるとでも思ってるのかしら!? べ、別にあっちが付き合いたいって言うのなら、考えてあげなくもないけど!?」
「うわぁ、絵に描いたようなツンデレですね。今時、そんなキャラはだいぶ絶滅したかと思いましたが、まだ実在していたんですね。それで、最終回一歩手前でようやく想いを伝えるも、彼は既に他の女と良い感じになっていてフラれる……ってやつですね」
「な、何ですって!? この私がフラれるとでも思ってるの!? この栗原家の後継である、この私が!?」
「先程から何度も右手に巻かれたテーピングをスリスリと自分の頬に当てているのが、何よりの証拠だと思いますが」
「や、やってないわよそんなこと!?」
「無自覚って罪ですね。お気付きになっていないとは」
「白石ぃ!? 良い? 私が副会長を好きになることなんてあり得ません! あの副会長が私に跪いて愛の告白をしたのなら、か、考えてあげなくもないけど!?」
「うわぁ……松島様の苦労が目に見えるようで、私は涙が出てきそうです」
セリフと表情が合っていない栗原を尻目に、白石は先程よりも深いため息を吐いていた。




