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告白サバイバル!  作者: レイチェル


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4/18

手当て

「な、何ですか? 急にこんなところに連れて来て!」


「いいから、ここに座れ。テーピングするから」


「て、テーピング?」



 栗原の手を引いていた松島が訪れたのは、保健室だった。主である養護教諭が不在であったため、松島は棚から勝手にテーピングを取り出し、椅子に座っていた栗原の足元に跪く。そして、栗原の右手を取ると、器用な手付きでテーピングを施していった。

 その様子を、栗原は無言で見つめていた。



「右手首……去年もケガしてただろ。さっきの模擬試合、最後の返球がお前らしくなかった。去年の古傷が痛んでいるんだろ? だから、あんなお前らしくない返球になってしまったんだ」


「ど、どうしてそれを……!」


「オレが、ずっとお前を見てきたからだ」


「なっ……何を言って……!?」



 いきなりの松島からの告白じみた発言に、栗原は決して小さくない動揺を与えられていた! 目の前で意識している男からそのようなことを言われては、さすがの栗原もポーカーフェイスに歪みが生じる! 全身の血液が沸騰したかのように体が火照り、触れられている手が熱を帯びる! 不意を突かれた一撃に、栗原の頬が真っ赤に染まってしまっていた!

 しかし、当の松島にはそんな自覚は一切なく、ただただ想いを寄せる女のケガを案じていたのだった! 栗原のテーピングに夢中になり、まさか意中の女が目の前でこのような表情を浮かべているとは、思ってもいないことだろう!



「生徒会でも部活でも、オレはずっとお前のことを見ていた。だから、お前に何か異変があってもすぐに気付く自信がある。女なのに、男のオレと互角以上に渡り歩いて……こんな小さな手でよくやるよ」


「あっ、あぁっ……あぁぁぁ……!」


「どうした、痛むか? テーピング、キツく巻き過ぎ…………?」



 赤面した栗原が羞恥心に耐え切れなくなり、情け無い声を漏らす。その声に、初めて松島は視線を上げて栗原の顔を見つめる。

 その瞬間、松島は栗原が今にも頭から湯気が出そうなほど赤面していることに気がつく。そして、数秒の沈黙が流れた後に、松島は自分が行っていることの意味をようやく理解した。



「あああ、違う、違うぞ!? オレはそういう意味でこういうことをしている訳じゃ!? ほら、お前は勉強でも部活でもライバルだと思ってるから、オレのせいでケガなんかされたら嫌だろ!?」


「そ、そそそそそうですよね!? 貴方が私のことを想ってこういうことをしているのではなくて、ただ単に後ろめたい思いがあるからこのようなことをしてくれているんですよね!? ええ、分かっていましたよ最初から!?」


「そそそそそうだよな!? 別にオレがお前のことが気になってこういうことをしているとか、そういうことは考えてないよな!?」


「ももももちろんです!? 別に貴方に手を握られて恥ずかしいとか、そういう意味じゃないですからね!?」



 いつもの凛々しい2人はどこへやら、他のメンバーや生徒たちに見られたら一気にイメージが崩壊するだろう失態を、この2人は現在進行形で晒していた。

 しかし、それでも今この場にいるのは2人だけである。どれほど失態を晒したとしても、相手以外に目撃される心配は無い。松島は顔を真っ赤に染めながらも、丁寧にテーピングを続けていく。その様子を、栗原もまた無言で見つめていく。保健室の壁に飾られている時計の秒針が刻まれる音だけが、やけに良く響いていた。



「……これで良し、と。手首はこれで大丈夫だ。大会に響くから、数日は無理しない方が良いぞ」


「あ……あのっ!」


「ん? ど、どうした?」



 テーピングを終えた松島が棚にテープを戻そうと立ち上がったとき、ふいに栗原が声をかける。振り向いた松島に、栗原は椅子からゆっくりと立ち上がって相対する。

 高まる胸の鼓動、収まらない荒い呼吸。栗原は、まるで自分の体が自分のものではないような錯覚にとらわれていた。そして、それは必死にポーカーフェイスを演じようとしていた松島も同じであった。



「あ…………ありがとう……ございました」


「あ、いや…………ああ」



 歯切れの悪いお礼に、歯切れの悪い返事。素直になれない栗原は、松島の顔を直視することが出来ない。そしてそれは、松島も全く同じであった。

 視線を合わせることが出来ない2人の間に、再びの沈黙が流れる。しかしそれは、決して重いという意味の沈黙ではなかった。

 ところが、その沈黙は思いもよらない人物の手によって破られることになる。



「美琴様、お迎えに上がりました」


「ひゃあぁぁ!?」


「っ!?」



 保健室の扉が勢いよく開くと、1人の女性が入って来る。その人物はこの保健室の主ではなく、栗原家に代々仕えているメイドの末裔であった。

 メイド服を着ていた人物は、松島も何度か見かけたことがあった。いつも栗原は登下校時に必ず送迎されており、主にこの人物が執り行っていたのだった。



「し、白石? どうしてここに?」


「美琴様が予定の時刻に駐車場に現れなかったため、体育館に向かわせて頂きました。そこにいた多賀城様から事の顛末をお聞き、こうして迎えに来た次第です。多賀城様の予想通り、こちらにおいででしたか。何でも、手をケガされたとか?」


「多賀城さん……気付いていたの?」



 白石が訪れたことで、栗原はいつもの凛々しさを取り戻していく。2人が話している様子を、松島はテープを棚に戻しながら見つめていた。



「心配は不要です。ただ、念には念をということでテーピングを受けていただけです。着替えなら終わるから、待っていてちょうだい」


「かしこまりました、美琴様。松島様も……既に下校時間を過ぎてると聞きました。富谷様や古川様が待っていると、多賀城様からの言伝です」


「あ、ああ……」



 栗原は松島の方を振り向くことなく、そのまま保健室を出ていく。それに続くように、白石も松島に会釈をして保健室を去っていく。

 どうして自分の名前を知っているのかという疑問が松島の頭の中に浮かんでいたが、下校を知らせるアナウンスが流れたため、松島もそのまま保健室を後にした。

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