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告白サバイバル!  作者: レイチェル


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19/19

花火

「美琴様。このような準備をするときは、お早めに連絡をください。知り合いの花火師に言って準備をしてもらうのが大変だったのですよ」


「ご苦労様、白石。ちゃんとお礼はしてしたのでしょう?」


「はい。この町の花火大会の予算と同額程で手を打ってもらいました」


「……一体いくらすんのよ、これ」



 栗原から連絡を受けた白石が、高級リムジンを学校の校庭に駐車させる。そこから降りてきた使用人たちが、次々と積まれていた花火を降ろして準備を進めていく。広々としていたはずの築館学園の校庭は、あっという間に花火で埋め尽くされていた。

 その光景に、松島と名取は絶句していた。庶民とさほど変わらない家庭で育った2人からすれば、目の前に広がっている光景は信じ難いものであった。多賀城や富谷、それに古川をはじめとした他のメンバーたちは裕福な家庭で育っていたため、それほど驚く様子はない。しかし、白石が花火師に支払った額を想像すると、さすがの多賀城たちも驚きを隠せないでいた。



「夏は日が長いから、もう少ししてから始めましょう。白石、終わったら連絡するわ」


「かしこまりました。後始末は我々が行いますので、ご心配なく」


「いや、片付けはオレたちでやろう。さすがに最初から最後までやらせる訳にはいかないだろ」


「お気遣いありがとうございます、松島様。しかし、これが我々の役目なのです。どうか、松島様はお気になされませんよう」


「……分かった。じゃあ、オレが勝手に手伝うってことで良いだろ?」



 多賀城や富谷たちが校庭の隅で遊んでいる中、松島は使用人たちと一緒に花火の準備をしていた。最初こそ白石に断られた松島であったが、自ら率先して花火の準備を進めていく。

 栗原は多賀城たちと遊ぶことはなく、松島が準備している様子を見守っていた。その隣に白石が立つと、周りに聞こえない程度の声で口を開く。



「流石、美琴様が認めた方ですね。あのような強い意志を秘めた瞳は、今まで私が見てきた誰よりも、輝きを放っておられます」


「ええ。私には到底真似出来ない程の努力を重ねて、副会長は今ここにいる。それは紛れもない事実だわ」


「……嬉しそうですね、美琴様。松島様と何かありましたか?」


「そ、そんなことないわよ!? 別にちょっと頭を撫でられたからって、動揺しているわけではないわっ!?」


「いや、めちゃくちゃ動揺していますよね? どうして松島様絡みになると、こうもポンコツになるのでしょうか、美琴様は」



 花火を準備していた松島の背中を見つめていた栗原は、白石からの指摘に頬を赤くしながら反論する。普段から凛々しく振る舞う美琴を見てきた白石からすれば、このような美琴を見るのは新鮮なことであった。

 しかし、同時に先日の美琴とその母親である雪枝との会話を耳にしていた白石からすれば、その内心は少々複雑であった。



「……本当に良いのですか、美琴様」


「何か言いたそうね、白石。いつもははっきりと言う貴女が言葉を濁しているというのは、私に気を遣っているのかしら?」


「いえ、そういうわけではありません。ただ、美琴様の決断が本当にこれで良いのか、美琴様の本心に聞いているのです」


「本心も何も、これが私に定められた宿命よ。栗原家の娘として生を受けた以上、定めに背くことは出来ない。お母様にこれ以上、負担を強いるわけにはいかないわ」


「それで、雪枝様の決めた許婚と運命を共にするというわけですか。もちろん、松島様も知ってはいないことですよね?」


「もちろんよ。副会長には、このことは絶対に言うつもりはない。このインターハイが終われば、私たち3年生は引退する。生徒会長としての役割は副会長に託せば良いことだし、私がこの学園にいる意味は無くなるわ」



 2人の会話を他所に、松島は使用人たちと花火台のセッティングをしている。まさか2人がこのような会話をしているとは、松島とて想像だにしていないことであろう。

 まだ18歳の美琴が背負うにはあまりにも重過ぎる運命を想像しながらも、白石はそれを止めるつもりはない。それが美琴の運命であると、白石も分かっていたことである。



「もしも本当のことを松島様が知れば、烈火の如くお怒りになられるかもしれません。何よりも、美琴様から隠し事をされるというのは、松島様にとって何よりも耐え難いことであると思います」


「やっぱり何か言いたかったんじゃない。貴女の顔に書いてあるわよ。私の選択が、とても不満で仕方がないと」


「あら、そうでしたか。私とて、きちんと隠し事は最後まで貫き通す主義なのですが」


「栗原家に仕えて何年になると思っているの? 私のことを何でも分かっていると思っているようだけれど、逆もまた然りなのよ」



 2人がそんな話をしているとは思ってもいなかった松島は、使用人たちと次々に花火を設置していく。中には大型の打ち上げ花火も多数含まれており、それを見た松島はスケールの大きさに口を開けて唖然としていた。

 松島と自分とでは住む世界が違うことを、美琴は誰よりも知っている。そして、栗原家の当主である母の命に背くことは、今の美琴にはあり得ないことであった。たとえそれが松島を天秤にかけたとしても、美琴の答えは変わらなかった。



「私と副会長とでは、最初から住んでいる世界が違うのよ。副会長には、私に代わってこの学園を率いてもらわないといけない。秋に行われる生徒会選挙まで、生徒会長の座が空位になるのは良くないわ。だからこそ私は、副会長になら全てを託すことが出来る。安心して、私はお母様の助けに専念することが出来るわ」


「美琴様がこれほどまでに他人を信頼するというのは珍しいことです。これまでは誰かを疑い、貶めることで自らの地位を確立してきた我々にとって、誰かを信じるというのは果てしなく難しいこと。雪枝様のように、当主となればより難しいことになるでしょう。油断すれば、いつ何者かに寝首を掻かれるか分かったものではない。水沢家然り、少なからず栗原家に敵対する人間は数多くいます。その中で、美琴様は松島様と出会われた。高校に進学されてから、美琴様は変わられましたね。誰も寄せ付けない氷のような存在だった美琴様が、こうして仲間たちとかけがえのない時間を過ごされている。これも、松島様の人徳があってのことでしょう」


「ええ、そうね……白石の言う通り、私は変わったのかもしれない。こんなことお母様に知られたら、軽蔑ものであると分かっているのに、私は副会長の魅力に触れてしまった。何かを達成するためなら、一心不乱に愚直に努力して、結果で周りを黙らせる。それでも、そんな中でも副会長には優しさが秘められている。副会長と出会えて、私は幸せだったと思うわ」


「……美琴様」



 少しずつ陽が傾きつつある中、蝉の鳴き声が至る所から聞こえている。目を細めて松島を見守る栗原の胸中を、白石は慮っていた。

 もしも栗原がこうした家系の元に生まれていなければ、今までよりもずっと深く松島と関わりを求めていたのかもしれない。2人で一緒に、思い出を作るようなことがあったのかもしれない。しかし、それも全ては空想の中の出来事に過ぎない。それを求めれば求めるほど、現実を突きつけられたときの虚無感は計り知れなかった。



「こんなもんか。白石さん、色々準備をしてもらってありがとう」


「いえ。私が出来るのはこれくらいです。松島様……美琴様のことをよろしくお願いします。必ずや今度のインターハイ、お2人とも優勝旗を持ち帰って来ることを願っています」


「ああ、任せとけ。今年は必ず優勝する。今までの成果、全部ぶつけてきてやる。白石さんに良い報告が出来るから、待っててくれ」


「ええ……では美琴様、私たちはそろそろ帰ります。またご連絡してください」


「ええ、分かったわ。ありがとう、白石」



 松島に会釈をすると、白石は使用人たちとリムジンに乗り込み、颯爽と走り去っていく。松島と栗原以外のメンバーたちは、遥か遠くでサッカーをして遊んでいた。

 生温い風が吹き抜ける中、松島は多賀城たちのところへ向かうことなく、栗原の隣に立っている。なぜサッカーをしに行かないのかと、栗原が敢えて尋ねることはしなかった。



「会長はサッカーしないのか? あいつら、ボールが見えなくなるまでやるつもりだぞ」


「いえ、私は大丈夫です。副会長の方こそ、ここにいて良いのですか? あっちで多賀城さんや富谷所務が呼んでますよ?」


「いや、今はそういう気分じゃなくてな。なんとなく、会長と話したい気分だった」


「そうですか。では、皆さんが戻って来るまでお話していましょうか」



 多賀城たちがサッカーをしている声を聞きながら、栗原は松島と他愛ない話をする。栗原の心の内を知ってか知らずか、今の栗原にはそれだけで心が満たされていた。

 そんな中、松島がふと口を開く。そして、率直に思った疑問を投げかける。



「そういえば、秋の生徒会選挙が終わったら、オレたち3年は引き継ぎをして引退なんだよな?」


「ええ、そうです。それがどうかしたのですか?」


「いや……今までは会長のことを会長としか呼んでなかったから、どうやって呼んだもんかなと思って。1年のときも『あいつ』とか『お前』ってしか呼んでなかったから、それも失礼な話だよな」


「別に、今まで通りの会長で構いませんよ。多少、周りから誤解はされそうですが、私はそれがしっかりきていますから。それとも、他の呼び方でも考えているのですか?」


「うーむ……『栗原』とか『美琴』とか、普通に名前で呼ぶとか?」


「なっ……!?」



 唐突に松島から名前を呼ばれ、栗原は驚いて目を見開く。同時に、胸の鼓動が高鳴っていくのを感じ、両手で胸を押さえていく。

 そんな栗原を見て、焦ったかのように松島は慌てて口を開いた。



「あ、いや、例えばの話だよ! いきなり名前で呼ばれると驚くよな! 今まで通り、会長呼びで問題ないか!」


「べ、別に驚いてなんかいませんよ!? は、初めて副会長からそのような呼ばれ方をしたので、虚を突かれただけです! だ、誰も嫌とは言ってませんよ!?」


「そ、そうか!? いや、多賀城くらいしか会長のことを名前で呼んでいるやつがいないから、会長じゃなくなったらどうなるんだろうなって思ってさ! オレも初めて呼んだな、会長の名前を!」



 栗原の感情が大きく揺さぶられていたが、それは松島とて同義であった!

 この夏が終われば、3年生は本格的な受験勉強に専念することになる。ともなれば、今までのように松島が栗原と話す頻度は激減する! 意中の女と接触する機会が減るというのは、松島にとって受験勉強よりも遥かに大きな問題なのであった!

 何とかして栗原との仲を保っておきたかった松島だが、考えがまとまらないまま話を切り出したため、2人の間には何者も入り込むことが出来ない空間が形成されていた! それは、遥か遠くでサッカーをしていた多賀城たちも容易に気付くほどに、イチャイチャしているようにしか見えない雰囲気なのであった!



「こ、こほん。私のことを名前で呼ぶのは、確かに多賀城さんだけです。他の人たちは皆、私のことは会長と役職で呼んでいます。それを無理して変えろとは言いません。で、ですから……松島さんの好きなように呼んでもらって構いませんよ?」


「ごふぁはぁっ!」


「ふ、副会長!? ど、どうしたんですか!? 急に吐血して、大丈夫ですか!?」



 不意に名前を呼ばれた松島は、その破壊力にそのまま地面に倒れ込む。そして、漫画で言うところの大量吐血で悶絶死してしまいそうなほどに、大ダメージを受けていた。



「だ、大丈夫だ……美琴からそんなこと言われたのは初めてだったからな……ぐふっ」


「はうぅっ!? み、みこ……と……?」



 散り間際に松島が言い残した言葉に、栗原の脳内がショートする。そして、栗原もまた松島と同様に地面に力無く崩れ落ちていった。

 そんな様子を見ていた多賀城たちが、ゆっくりと2人の元へと歩み寄る。そして、満足そうな微笑みを浮かべながら気を失っている2人を見て、名取が小さくため息を吐く。



「……この2人、本当にこの学園の生徒会長と副会長なんですよね?」


「まあ、2人も普通に人間ってことさ。こういう一面があった方が、人間味があるだろ?」


「2人とも、普段は見たことのないような微笑みですね……特に会長が」


「青春してるねぇ……インターハイ、大丈夫かなぁ?」



 インターハイが間近に迫っていた中、このときだけは全員がただの高校生としての思い出作りをしていた。

 そして、運命のインターハイがやってくる。同時に、栗原と松島に残された時間も、あと僅かなのであった。

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