栗原美琴の尾行大作戦
中間テストが終わり、学園は夏休みを控えている影響からか、夏休みの予定を友人たちと立てる者が多くいた。
そんな中、とある休日に栗原は多賀城と共にショッピングモールへと足を運んでいた。
「もう、そろそろ切り替えようよぉ。松島くんに僅差で負けたの、そんなに気にしてるの?」
「気にするに決まってるでしょう!? また1点差での敗北だなんて、悔やんでも悔やみ切れないわ! そして、結果が張り出されたときの副会長の顔……今見ても忌々しいわ! 許せない……今度こそ私が対戦成績で先に行くはずだったのにぃぃ!」
「うわぁ、めちゃくちゃIQ下がってるよ、今の美琴ちゃん……松島くんを相手にするときだけ、どうしてこんなアホの子になるのかな?」
「これも全部、多賀城さんがちゃんと勉強しないからでしょう!? 貴女がちゃんと最初から勉強が出来ていれば、私が貴女の勉強の面倒を見る必要は無かったのよ!」
「責任転嫁!? 生徒会長とでもあろう人が責任転嫁しちゃうの!? 横暴だよ美琴ちゃん!」
定期テストにおいて、松島との通算対戦成績が4勝5敗と再び負けが先行してしまった栗原は、地団駄を踏んで悔しさを露わにする。多賀城が指摘している通り、その様子からは由緒ある築館学園の生徒会長とは程遠い姿であった。
そんな栗原の気分転換を兼ねて、多賀城は栗原を買い物へと連れ出していたのだった。こう見えても、以外と気配りが出来る女なのである。
しかし、そんな2人のショッピングは予想外の方向へと進んでいく。
「あれぇ? あれって松島くんじゃない?」
「えっ? た、確かに……あれは副会長だわ」
「そして、一緒にいる女の人は……まさか彼女!?」
「はぁぁぁぁぁぁぁぁっ!?」
雑貨屋で買い物を終えた2人の前を、松島と1人の女性が歩いていく。松島は2人に気がつくことはなく、女性と楽しげに話しながらショッピングモール内の通路を歩いていった。
まさかの展開に、栗原の心境は一気に穏やかではなくなっていく! そして、こういうときに余計な推測をするのが多賀城深雪なのであった!
「へぇ……松島くんって彼女がいたんだね」
「うぐっ!」
「しかも、どう見ても私たちより年上で綺麗な人だし」
「あぅっ!?」
「しかもめちゃくちゃ距離感近いし、あれは長年付き合ってるみたいな感じだね」
「あぐぅっ!?」
度重なる多賀城の追撃に、栗原はその場に崩れ落ちていく。そして、ゆっくりと立ち上がると多賀城の両肩を掴んで激しく揺すっていく。
「貴女は誰の味方なのっ!? そんなに私に殺されたいのかしら? ねえ、どんな風に死にたい?」
「ちょっ、怖い怖い怖いっ!? そんなんで殺さないでぇっ!? あくまでも見た感じの感想を言ってみただけで、本当に彼女だと決まったわけじゃないよ?」
「そう、そうよね! きっと何かの間違いだわ! あの副会長に彼女なんているはずないもの!」
「うわぁ、何そのポジティブシンキング……」
栗原は、松島のこととなると周囲が見えない傾向にあった。
「副会長は、絶対に私に惚れているわ。副会長の態度を見ていると分かるもの。そんな副会長が、私以外の女を好きになると思う? あれはきっと、知り合いとか親戚の類の親しさだったわ。男女の関係じゃない」
「よくもまあ、そんなに自信満々に言えるよねぇ。さっさと美琴ちゃんが告白しないから、松島くんが愛想尽かして違う女に行った可能性だってあるよ? だって松島くん、年上好きそうな雰囲気あるし」
「多賀城さん! 貴女はどっちの味方なの!? 私の味方をしないというなら、貴女との友情もこれまでね? さあ、どんな死に方が良いかしら? 今なら特別に選ばせてあげる!」
「メンヘラ! メンヘラ怖いよぉぉ! そんなこと言ってると、松島くんたち見失っちゃうよ!?」
「そ、そうだわ! 早く副会長たちを追いかけるわよ! 行きましょう、多賀城さん!」
「えぇ!? わ、私も行くのぉ!?」
スイッチが入ってしまった栗原は、多賀城を引き摺るようにしてショッピングモール内を駆け抜けていく。
松島が自分以外の女と歩いているところを見るのは苦痛であったが、栗原は真実を見極めるべく、松島たちの背中を追いかけ始めた。




