Episode 9. 噂の拡散
「セシリア様ったら、本当に可哀想…」
「ええ、あんなに、殿下に尽くしていたのに…」
「きっと、心の傷も、深いでしょうねぇ…」
エルトリーゼ公爵邸の広間では、使用人たちが、ひそひそ声で、セシリアの噂話に花を咲かせていた。
数日前、王宮の舞踏会で、エドワード王子から、一方的に婚約破棄を告げられたセシリア。
その衝撃的な出来事は、瞬く間に、王都中に広まり、貴族たちの間では、格好の噂話となっていた。
もちろん、これは、アリスが仕組んだ、情報操作の結果だった。
「ご主人様、ご気分は、いかがですか?」
セシリアの部屋で、アリスは、星詠みの水晶の中から、心配そうに尋ねた。
セシリアは、窓辺のソファに深く腰掛け、憂鬱そうに、外の景色を眺めていた。
「…退屈だわ」
彼女は、小さくため息をついた。
アリスの作戦通り、セシリアは、婚約破棄のショックで、すっかり気落ちした様子を演じていた。
外出も控え、部屋にこもりがちになり、食事も、ほとんど喉を通らない日々。
心配した両親や、兄妹、そして、使用人たちは、セシリアを慰めようと、様々な気遣いを見せてくれた。
しかし、セシリアにとっては、そんな生活は、ただただ、退屈で仕方なかった。
「アリス、いい加減、この茶番劇、終わりにしない?」
セシリアは、アリスに、悪戯っぽく提案した。
「ご主人様、まだです。私たちが、真に動き出すためには、もう少しだけ、時間が必要です」
アリスは、セシリアを諭すように、冷静に言った。
「焦りは、禁物です。今は、じっと、機が熟すのを待ちましょう」
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