Episode 17. 共鳴
森の中は、静寂に包まれていた。
木々のざわめきも、鳥のさえずりも、聞こえない。
世界が、一瞬、息を止めたかのようだった。
ただ、セシリアの心臓の鼓動だけが、大きく響いていた。
彼女の体から放たれた光は、森の番人を包み込み、まるで、琥珀の中に閉じ込められた昆虫のように、その動きを止めていた。
光は、次第に、その色を変え、青白い輝きから、温かみのある金色へと変化していく。
セシリアは、ゆっくりと目を開けた。
目の前の光景に、彼女は、息を呑んだ。
森の番人の体は、光に包まれ、徐々に、その姿を変え始めていた。
荒々しかった樹皮は、滑らかで美しい銀色の金属へと変化し、鋭い爪は、繊細な装飾が施された指へと変わっていく。
まるで、醜い魔法が解け、本来の姿を取り戻していくかのように。
そして、赤く光っていた目は、優しい青色に輝き始め、牙の生えていた口元には、穏やかな笑みが浮かんでいた。
『…ご主人様、これは…』
アリスもまた、驚きの声を上げた。
セシリアの魔力が、森の番人と共鳴し、その姿を変えてしまったのだ。
それは、アリスでさえ、予想していなかった出来事だった。
セシリアは、恐る恐る、変化した森の番人に近づいていった。
かつては、恐ろしい怪物だったその姿は、今では、まるで、美しい彫刻のようだった。
その姿は、もはや、森の番人ではなく、高貴な騎士のようだった。
セシリアが、そっと、その手に触れると、森の番人は、ゆっくりと目を開けた。
その瞳は、セシリアを、優しく見つめていた。
「…怖くないの?」
セシリアは、思わず、そう尋ねていた。
森の番人は、首を横に振った。
そして、まるで、人間の言葉を話すように、セシリアに語りかけてきた。
『…感謝します。あなたは、私を、呪いから解放してくれた』
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