Episode 1. 悪夢の舞踏会
轟轟と轟く雷鳴が、夜空を裂く。激しい雨が、王宮の窓ガラスを容赦なく叩きつける。まるで、この夜に渦巻く陰謀を映し出すかのような、嵐の夜だった。
きらびやかなシャンデリアが降り注ぐ、王宮の大広間。
だが、その華やかさとは裏腹に、セシリア・フォン・エルトリーゼの心は、凍りつくような寒さに襲われていた。
音楽が止まり、ざわめいていた会場が静まり返る。
すべての人々の視線が、大広間の中央に立つ二人――セシリアと、彼女の婚約者であるこの国の第一王子、エドワード・フォン・ソルヴィレ――に注がれていた。
エドワードは、セシリアの手を離し、冷酷な表情で彼女を見下ろした。
「セシリア、お前との婚約は破棄する」
氷のように冷たい声が、大広間に響き渡る。
その瞬間、セシリアの世界は、音を立てて崩れ落ちた。
「エ、ドワード様… 一体、どうして…?」
セシリアは、震える声で、かろうじて問いかけるのが精一杯だった。
なぜ?
どうして?
彼女の頭の中は、疑問符でいっぱいになった。
エドワードは、セシリアの問いかけに答えることなく、冷酷な笑みを浮かべた。
「お前のような、わがままで、下品な女は、王妃にはふさわしくない」
その言葉は、まるで鋭い針のように、セシリアの心を抉っていく。
周囲の貴族たちは、息を呑んでその様子を見守っていた。好奇の視線、憐れみの視線、そして、中には、嘲笑を浮かべる者もいた。
誰一人として、セシリアの味方をしてくれる者はいなかった。
悪役令嬢。
それが、この世界で、彼女に与えられた役割だった。
(…違う。こんなはずじゃなかった)
セシリアは、強く歯を食いしばった。
悔しさと、怒りと、そして、深い悲しみが、彼女の胸を締め付ける。
前世の記憶が、走馬灯のように、彼女の脳裏を駆け巡る。
一度目の人生は、貴族の娘として、親の言いなりに生きて終わった。二度目の人生は、現代社会に転生し、AI開発者として成功を収めた。だが、どこか満たされない思いを抱えたまま、事故でこの世を去った。
そして、三度目の人生。
今度こそ、自分の意志で、自分の足で、歩きたい。そう願っていたはずなのに…。
しかし、現実は、あまりにも残酷だった。
(…諦めない。私は、絶対に、諦めない)
セシリアの瞳に、静かな、しかし確かな決意が宿る。
彼女は、ゆっくりと顔を上げ、エドワードを真っ直ぐに見据えた。
その瞳には、もう、涙はなかった。
この悪夢のような舞踏会が、セシリア・フォン・エルトリーゼの、そして世界の運命を変える、壮大な物語の幕開けだった。
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