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猫カフェ実家  作者: なまこ
7/13

お正月特別編 おしょうがつ

お正月、実家に帰りたかったのに、大雪の影響で新幹線が止まってしまった。実家が山奥なこともあって、道のりが危険らしい。幸いにも、両親から無事だよという連絡が届いた。それに安心感を覚えつつも、今年の正月は一人で過ごすことになるなとどこか寂しさを感じた。


自分の住んでいる部屋は、ものが少なくて季節感がない。テレビすら置いてないから、正月らしい番組をつけることもできない。流石に正月の実感がわかないので、とりあえずお餅を買いに行くことにした。


今住んでいる町は、割と海に近い場所にある。けど、今日はしっかり雪が積もっている。

「海町はあんまり積もらないって聞いてたんだけどな……」

ダッフルコートの上から白いマフラーを巻いて、靴下も二重にする。万全な状態で雪が降る静かな町の中を歩いた。


正月当日だからだと思うけど、町の中はとても静かだった。ただ、叩きつけるような風の音だけが耳に入ってくる。そんな風と一緒に、雪が耳の中に入ってきてビクッとしてしまった。

「イヤーカフ……買おうかな」


一番近くのスーパーに入ると、凍りついた体が溶けるような感覚がした。今日は、休みのスーパーが多いけど、ここは開いてて助かった。けど、みんな考えることは同じなのか、一人分にちょうどいいサイズのお餅は売り切れていた。もう、少し高めの大入りしか残っていない。


「お兄さんもお餅? お兄さんくらいの歳の子がいっぱいお餅買いに来たのよ。みんな、口を揃えて雪で里帰りが出来なくなったから、せめて一人でお餅は食べるんだって言ってたよ。お兄さんも?」

自分とあまり歳が変わらなそうな見た目の、女性の店員さんが話しかけてきた。でも、僕の歳くらい〜って言ってるから、実際はもっと上なのかもしれない。

「そうですね。僕もそんな感じです。みなさん、そうなんですね」

「みたいだね。お兄さんも、里帰りできなくて寂しいだろうけど、お持ちいっぱい食べていいお正月を過ごしてね。あ、喉には詰めないように」

「ありがとうございます、良いお正月を」

陳列されているお餅を手に取って一礼すると、店員さんが小さく手を振ってくれた。


予定より少し重いビニール袋を持って極寒の道を歩く。寒くてやっぱり耳が痛い。

「早く帰ろ」

ザクザクと雪を積もった雪を踏みながら、少し早足で歩く。手袋をしてなかったら、手が痛くなっていただろうなぁとか考えていると、ポケットの中のスマホが揺れた。チラッとスマホを確認すると、kr店員からの連絡が入っていた。


その連絡を見て、進むはずの道を右に曲がる。

家に帰る予定から、バイト先へ。


カランコロンと、扉の飾りの音が鳴る。扉の奥が暖かい。

「おっ、良かった来てくれた。あぁ、しかもお餅を買って帰るところだったなんてね。タイミングがいいなぁ」

kr店員が、こっちに気がづいて猫と遊ぶのをやめる。

「kr店員は、元旦も仕事なんですか?」

「そうよぉ? 俺は年中仕事。そろそろオーナーに文句言いたいんだけどね。オーナーも年中仕事らしくて文句言えねぇんだわ。猫達もほっとけないしなぁ」

kr店員がそう言うと、さっきまでkr店員と遊んでいたhtn猫が、んー? と言いながらkr店員の顔を見ていた。


「急に呼んでごめんねnd君。お店は休みだし、nd君がすることはないから、猫達とゆっくり待ってて」

kr店員はそう言うと、キッチンがある奥の部屋へと入っていった。

「htn猫さんたちはお正月もここ……ですよね。ここが家ですもんね」

htn猫は、何を言っているのかよく分からないのか、その場に座ったままだった。


やることがないのにこの部屋に取り残されても、何をしていいのかわからない。とりあえず、寄ってきた猫たちの背中を、順番に撫でてみた。一匹一匹毛のやわらかさが違う。ちょっと面白い。


「ん? nd君も呼ばれたの?」

扉の音がした方を見ると、お客さんの入口からsy獣医が来ていた。

「sy獣医?」

「そう、ndくんも、kr店員に呼ばれたんでしょう? ……バイト代、ねだってみる?」

コソコソっと言われた。出たら嬉しいけど、普通にkr店員の方が大変そうだから、やんわりと断ることにした。


sy獣医が、コートを脱いで、猫と戯れるのを横目に、外に降り積もる雪を見る。クリスマスだったらホワイトクリスマスだけど、正月ならなんて言うんだろう。ホワイトニューイヤー?

そんなことを考えていると、その窓の近くに、トテトテとty猫が歩いていった。ty猫も雪が見たいのかなと思ったけど、なにか違う気がする。

「ty猫さん? 何かいるんですか?」

近寄ると、窓の外には、ty猫を見るtukさんの姿があった。tukさんは僕に気がついていないらしい。


こんな寒空の中なにしてるんだろう。気になって外に出てしまった。

「あの、tukさんですよね? 何してるんですか?」

声をかけると、ビクってなって、ちょっと驚かれた。

「あぁ! ごめんなさい! 会社に在宅ワークで必要なものを取りに行った帰りで……近くにty猫ちゃんが来てくれたから見入ってしまいました」

そういうtukさんの頭には少し雪が積もっていた。傘、持ってないのかな? 手も赤くなって痛そう。


「あの……よかったら少し暖まっていきませんか?」

「いえいえ! 今日お店おやすみだから悪いですよ! 私あくまでお客さんですし!」

「そ、そうですか? でも……」

そう言うと、背後でお店の扉が開いた。

「おぉ、tukさん。正月でもスーツ姿か。お互い大変ですね。時間があれば、上がっていきませんか? パーティーは大勢の方がいいんでね」

kr店員はそう言うと、扉を少し開けたまま、中へどうぞと手をつけてお辞儀した。

「え? じゃあ……」

tukさんは、少し申し訳なさそうに店内に入っていった。

「nd君もおいで。できたよ」

kr店員に言われるがまま、ササッと店内に戻る。冷たさでピリピリしていた顔が、じんわりと温もっていくのを感じる。


「さて、思ったより賑やかになったな」

テーブルを見ると、そこにはおせちやお雑煮が並べられていた。とても1人では食べ切れる量ではなさそう。

「kr店員、もしかしてこれで僕たちを呼んだんですか?」

「違うよ。ちゃんと来れること分かってから増やしたの。まぁ、tukさんは飛び入りさせたから、3人前だけど、こういう料理は気持ち多めに作ってなんぼですから」

足元で、bya猫がうろうろしている。魚に反応してるのかも。


「もちろん、猫たちにもおせち作ってますよ。ちゃんと小分けしたんで、喧嘩しないでくれたらいいんだけどねぇ……」

向かい側のテーブルを見ると、小さなおせちセットが並べられていた。たしかに、猫でも食べられるもののセットだった。

kr店員が猫たちに配るのを、少し手伝う。配り終えた後、kr店員は、スっと手を挙げてこちらをチラッとみた。ありがとうってことかな。


「さてじゃあ、みなさん集まって貰ったんで……新年のあの言葉を、いただきますの変わりにしましょうかね?」

kr店員がニタッと笑う。みんな、それで察したみたい。

「じゃあ、せーの」

「あけましておめでとうございます!」

カフェでお客さんに提供する紙コップに注がれた飲み物が、乾杯で揺れる。全員大人だけど、今日はジュースらしい。


チラッと目線を落とすと、猫たちも猫用おせちにかぶりついていた。おいしいらしい。

「kr店員、なんで僕達を呼んだんですか?」

「え? そりゃあ賑やかな方がいいからよ。もちろん、君たちが来てくれなくても、猫達とよろしくしてたけどさぁ。ねぇ?」

kr店員が、近くにいるprm猫を見ると、prm猫はもぐもぐしながら不満そうな顔をkr店員に向けていた。

「prm猫ちゃんに嫌われてない?」

「そんなことないよ〜? ねぇ?」

prm猫がそっぽを向いた。思わずみんなから笑みが零れた。


一人で正月を過ごすんだなって思っていた。実際、家族や友達とは過ごせなかった。

けど、バイト先の愉快な人達と、のんびり過ごす猫たちに囲まれて過ごすお正月も、悪くないかもしれない。


「今年も、よろしくお願いします」

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