第5話 あまいおかし
猫カフェ実家で提供されているお菓子は、人間用も猫用も、どちらも店員の手作りです。お菓子作りが好きなkr店員は、どうやらお菓子作りの研究をするそうですよ。
「うーん、違う。違うなぁ」
kr店員がキッチンの中でなにか悩んでいます。どうやら、理想のお菓子が出来ないようです。
「kr店員、お客さん来てますよ。お菓子出来ました?」
「いや……納得いくのはまだ……」
「あ、でもいつものは出来てるじゃないですか。これ出しときますね」
「あぁ……よろしくなnd店員」
お皿の上に詰んだクッキーを、nd店員はお客さんの元に運びます。
「すみません、お待たせ致しました。こちら人間用ですから、猫ちゃんにはあげないようにしてくださいね」
nd店員がそう言うと、キレイめな服装の女性客は微笑みます。
「分かりました」
女性の返事を聞いて、nd店員は仕事に戻ります。ちょこちょことhtn猫がnd店員に寄り付きました。
「お客さん来てるから、今はお客さんを癒してあげてください」
nd店員が小声でそう言うと、htn猫はなんの事だろうなという顔をして、その場でゴロンと横になりました。
「お気遣いありがとうございます。慣れてるので大丈夫ですよ」
そう言う女性客の膝の上には、bya猫が乗っかっていました。
「え、いつも寝てるって聞いてたbya猫さんが膝の上に……」
「お兄さん、新人さんですよね? 確かここって店員一人しかいなかったはずだから」
そう女性が言ったタイミングで、kr店員が奥の部屋から出てきました。
「……あれ? お客さんってtukさんのことだったんですね?」
kr店員は、お客さんのことを見てそう言います。
「お久しぶりです、kr店員。なかなか来れなくてすみません」
「いやいや、うちの数少ない常連さんですからね。ていうか、お客さんが謝ることないでしょうに」
kr店員がそう言うと、tukはそれもそうかという顔をしました。
「そういえばkr店員、お菓子出来たんですか?」
nd店員がそう聞くと、kr店員がテーブルの上に花の形をしたクッキーを置きました。
「まぁ、一応。人間用のは出来たんですけど、自信はあんまないんですよね。二人とも、ちょっと試食頼んでもいいですかね?」
tukは驚きつつも喜んでいます。
「新作お菓子の試食をさせて貰えるなんて……! ありがたい〜!」
「いや、むしろ手伝ってもらってる身ですから」
tukとndがクッキーを口に運ぶ。サクサクという音が鳴ったので、膝の上のbya猫が顔を上げます。
「ん、美味しいですね。けど、もう一歩なにか欲しい気はします」
「ね、美味しい! これ、お花の真ん中に丸くジャムを乗せたら可愛いかも!」
kr店員は二人の反応を見ると、ちょっと待ってと言ってキッチンがある奥の部屋へ戻っていきました。bya猫はテーブルの上にこぼれたクッキーの欠片を狙っています。
「あぁ、ダメですよbya猫さん。これ食べたら太っちゃいますよ」
ndが手でクッキーの欠片を遠ざけると、bya猫はなんでそんなことするの? と言いたげな顔をしました。
「あはは、あとで猫ちゃん用もらおうね」
tukがbya猫を慰めるように撫でていると、kr店員が戻ってきました。
「クッキーの真ん中にジャムを乗せる案、いいなって思ったんで、採用しました。ついでに、猫用のクッキーも持ってきました。こっちはかぼちゃのペーストを乗せてます。良かったら、猫たちとふれあいながら楽しんでもらえたら」
tukとndは人間用のクッキーを楽しんだ後、猫用のクッキーを持って猫たちの元へ行きました。
「bya猫ちゃん、クッキー美味しい? htn猫ちゃんも食べる?」
bya猫は吸い込むような勢いでクッキーを食べます。それを見ながらhtn猫はソロソロと寄ってきて、tukからクッキーを一つもらって、それをちょびちょびと食べています。
「二人とも美味しい?」
猫たちは返事はしませんが、クッキーに食いついていることが答えのようです。
「pnz猫さん、クッキーとか好きですか?」
nd店員は、pnz猫が引きこもっている穴の前に行きます。nd店員は、クッキーを穴の前に差し出します。pnz猫はクッキーをスンスンと嗅ぐと、はむっと咥えて穴の中へと戻っていきます。
「pnz猫ちゃん、やっぱり気になるんすか?」
「まぁ……そうですね。少しでも人馴れしてくれたら、pnz猫さん自身が楽になるかなって」
pnz猫は穴の中で丸くなってクッキーを食べているようです。
「まぁでもpnz猫ちゃんはおやつ好きだからね。おやつ使って心を開いてもらえば……あ、ao猫くんもいる?」
ao猫は、kr店員からクッキーを貰うと、そのクッキーを咥えて立ち去って行きました。
ミッ……穴の中から小さくpnz猫の鳴き声がします。
「え? もしかしてもう一個欲しいんですか?」
nd店員がそういうと、pnz猫はひょこっと顔を出しました。nd店員がゆっくりとクッキーを近づけると、pnz猫はクッキーをスっと取って穴の中に戻っていきました。
「pnz猫ちゃんですよね? 私も顔ちゃんと見た事ないんですよ。今ちらっと見えました。かわいいですね!」
手元のクッキーを全部猫たちに渡したtukが店員たちの近くに来ました。
「あぁ、tukさんもまだこの子の顔ちゃんと見れてなかったんだ。けどまぁ、いつかお菓子を通してでも、pnz猫ちゃんがみんなの前に出てこれる日が来るといいなぁ」
お皿の上にあった花の形のクッキーは、あっという間にからになってしまいました。kr店員の新作クッキーは、お客さんも猫も大満足のようです。
「じゃあ、このクッキーは成功ってことで。またいろいろ試してみますかねぇ……」
kr店員は、少し嬉しそうに笑みを浮かべながら、からになったお皿を片付けます。猫たちも、新しいお菓子で少しハッピーな気持ちになったようです。
美味しいお菓子が、人の心も猫の心も繋げてしまう。
そんなことが、あるといいですね。