第4話 あたらしいなかま
とある町の中にある小さな猫カフェ、「実家」
いつもはのんびりとした時間が流れているのですが、どうやら、今は少し違うようです。
「えーっと? kr店員も一人だと大変だろうから、新しい仲間を連れてきたよ。いい子そうだから、是非仲良くしてやってくれ……?」
kr店員は、カフェの座席に座って、小綺麗な封筒から取り出した便箋を読み上げました。
「ほんっとに……現場の許可なくこんなことして」
テーブルの上で香箱座りしているty猫が、kr店員の顔を見ます。
「いや、気にしないでいいよ。オーナーいつもこうだから」
kr店員がそう言うと、ty猫はふーんと言わんがばかりに目を瞑りました。
kr店員は、封筒の中身を丁寧に確認します。
「えっと? 履歴書まで入ってら。……なるほどね」
kr店員の足元に寄ってきたhtn猫を、なんとなくの感覚で撫でながら続きをみます。
「うーんと、初出勤が……明日ね。じゃあちょっと準備しますかねぇ」
kr店員がhtn猫の頭をポンポンとすると、動くことが分かったのか、htn猫はトテトテと別の猫の元へ行ってしまいました。
次の日、kr店員はいつもより早い時間にお店に来ました。珍しいなというように、ao猫が寄ってきます。
「ん〜? そうね。君らにはよくわかんないもんな。もう少ししたらわかるよ」
ao猫はナーゴとひと鳴きして、お腹を出して寝ているbya猫を突きに行ってしまいました。
kr店員がエプロンを着て、髪を結び、寄ってきていた猫たちの健康チェックをしている時、入口のドアがカランコロンと音を立てました。
「すみませーん。猫カフェ実家って、ここで合ってますか?」
そう言って入ってきた青年は、少しとろんとした目をしており、髪はふわふわとしたくせ毛、青ふちの眼鏡をかけていて、冬らしいダッフルコートを着ていました。履歴書に載っていた写真と同じです。
「あぁ、ここで合ってるよ。君がnd君だね」
kr店員がそう言うと、ndは
「そうですね、ndです。よろしくお願いします」
と言いました。
「じゃあ、色々案内したり、渡すもの渡すから、こっちおいで」
kr店員が手招きすると、ndはそれについて行きました。
猫達は何事だという顔をしています。奥の扉に入っていくのは、基本、kr店員だけです。その扉の中に、お客さんのような人が入っていったので、猫たちは違和感を覚えています。スタッフ専用の扉の前では、mn猫が待ち構えています。扉が開くと、mn猫はじっと扉の方を見つめて、出てきたndを見ます。ndはkr店員と同じエプロンをしていました。
「じゃあまぁこれでnd君も、今日からnd店員ってことだけど、まずは猫たちと仲良くなりましょうかね」
mn猫が、なんだお前はという目でndを見ています。
「この一番近くにいるちょっと大きい猫がmn猫。うちのボス猫的存在。けど全然怖くないから、安心してね」
kr店員がそう言うと、ndはその場にしゃがんで、mn猫の顔の前にそっと手を出しました。
「ndです。mn猫さん、よろしくね」
mn猫はndの手をスンスンと嗅ぐと、その手に頭をスリスリとして、去っていきました。
「お、割といい反応! じゃあどんどん行きますかね」
そう言うと、kr店員は、猫達が固まっている場所に行きました。ndはそれについて行きます。
日当たりがいい窓辺に、猫たちが三匹、団子になっています。
「ここで団子になってる子たちの紹介をしようかな」
kr店員が、しゃがんで説明を始めます。
「このしっぽが短いのがao猫。和風の猫でね、元からしっぽが短いのよ。たまに人語分かってそうな時があるけど、多分わかってないよ」
ナーンと、ao猫が適当な返事をします。
「このお腹だしてるのがbya猫。ご飯が大好きでね、食べ物に目がないよ。それ以外は寝てることが多い。まぁ、割ともふもふはし放題だね」
kr店員がbya猫のお腹をそっと撫でますが、bya猫は全然起きません。
「ほんとだ。全然起きませんね」
ndもbya猫のお腹をもふもふします。お腹の毛は、他の場所の毛よりもふわふわしています。
「そして、この一番ちっこいのがhtn猫。この店のなかで一番懐っこいから、一番相手すると思うよ。気がついたら足元にいるから踏まないように気をつけてね」
毛玉のように丸まっていたhtn猫が顔をだして、ニャァンと鳴きました。
「ボクはネコチャンダゾー?」
「まぁ、なんかそう言ってるように聞こえるよね。俺もそう思う」
ニマーとした顔でhtn猫はndを見ています。htn猫なりの挨拶のようです。ndがhtn猫の顔を見て微笑むと、htn猫は、満足そうに床に転がりました。
「さて……あとは……っ!」
kr店員が、ギョッとしてndの足元を見ます。そこには、鋭い目をしたprm猫がいました。
「ndくん、その子は噛むから足避けて!」
kr店員がそういうと、ndはキョトンとします。
「え?」
prm猫は素早くndに近づくと、ndの足に顔を寄せました。そして、スリスリと頭をこすりつけました。
「あ……れ? 噛まないの?」
kr店員が不思議そうにそういうと、prm猫はフン! と鼻を鳴らしてその場でおすわりしました。
「俺のことは噛むんすよ、prm猫ちゃん。けど、ツンデレなだけではある。ね〜? prm猫ちゃん?」
kr店員がそう言うと、prm猫は、kr店員の足元に近づきました。そして、頭を寄せて、スリスリとしました。
「あら、今日お利口」
kr店員がそう言った次の瞬間に、prm猫はカプっとkr店員の足を噛みました。
「ほーらね」
「なるほど」
ndはしゃがんで、prm猫の顔を見ました。本気で噛んでいるのではなく、ただじゃれているだけのようです。
「愛されてますね」
「あは、痛いけどね」
prm猫が満足そうに帰っていくと、kr店員は、キャットタワーに近づきました。
「このね、上で香箱座りしてるのがty猫。年齢はそうでもないけど、おじさんっぽいって言われるんすよ。失礼だよねぇ?」
kr店員がty猫にそう聞くと、ty猫は興味無さそうに欠伸をしました。
「自由な猫ちゃんですね」
「それがこの子の売りなんでね。そして……出てくるかな?」
kr店員が、キャットタワーの箱になっているところに手を突っ込むと、箱の中でキランと目が光りました。
「人見知りなんでね、ご飯とおやつの時くらいしかでてこないけど、この子はpnz猫。この子が顔見せてくれたら一人前かな」
箱の中から、キランと光る目が、kr店員とndを見ています。
「……ふぅん。この子に認められたら一人前なんですね」
ndはそういうと、箱の入口に、そっと手を近づけました。
「pnz猫さん、ndです。よろしくね」
そう言って優しく微笑見かけると、pnz猫は少しだけ顔を出します。そして、ndの手を少しだけ嗅いで、ソロっと箱の奥に入ってしまいました。
「……緊張してるみたいですね。けど、きっとこの子は大丈夫です」
ndは、まるで猫の気持ちが分かっている様なことをいいました。
「ndくんは、猫の気持ちとか少し分かるのかい?」
「そうですね。ハッキリとはしませんが、何となく」
箱の前でそうやって話していると、pnz猫が、そっと顔を出しました。
「あ、お顔、見せてくれるんですね。ありがとうございます」
ndがそういうと、pnz猫は、一瞬だけ安心したような顔をして、箱の中に戻っていきました。
「いやぁ、ndくんすごいね。すぐ猫たちと仲良くなれそうで、俺ちょっとびっくりしたわ」
「そうですか? ここの猫ちゃんたちがみんな優しいだけですよ」
ndがそう言うと、kr店員は、お客様用のジュースの中から、オレンジジュースを取りだしてコップに注ぎ、ndに渡しました。
「ほんと、いきなりオーナーが新人をよこすもんだから、どんな子かと思ってたけど、かなり期待してるよ。頑張ろうな、nd店員」
kr店員はそういうと、お客様用のお菓子の準備をすると言って、奥の部屋に入っていきました。nd店員は、猫たちとこの部屋で待っているようです。
nd店員は、オレンジジュースを一口飲むと、箱の上にいるty猫のそばに行きました。
「みんな、個性豊かですね。けど、安心してるのはすぐに分かりました。ここは、いいお店みたいですね」
nd店員がそういうと、ty猫は、そうかもね、というように、鼻を鳴らしました。
「nd君お待たせ。さ、お店あけるよ。頑張っていこうね」
「はぁい、頑張っちゃいますよ〜」
nd店員が、エプロンの紐を結び直すと同時に、kr店員がお店の扉にかかっている札をOPENに変えました。
猫カフェ実家、新しい一日の始まりです。