ロジェス伯爵side
「はははは!実に愉快愉快!ははは!」
「陛下、馬鹿笑いもそろそろ止めて仕事してください」
「なんだ、こんな面白い事は久しぶりなんだぞ?」
「人の娘を何だと思っているんですか!」
「ククッ。すまんな」
すまないという顔ではない。
どう見ても新しい玩具で楽しんでいる顔だ。
「これで煩い男どもが静かになるだろう」
「数ヶ月療養が必要な者もおりますが?」
「気の毒にな。熊や猪に襲われたそうだ」
白々しい。
どこから熊や狼が出てきたんだ。
「誰からの情報ですか?」
「うん? 皆、奥方が代筆で届け出があったぞ?」
「……受理したんですか」
「当然だろう。」
いやいや。当然じゃないだろう。明らかに嘘だと分かるものを……。
「顎を砕かれた者やあばらを折った者もいますが……医者は誤魔化せないでしょうに」
「安心しろ!奥方の言う通りだと国中の病院に通達しておいた。これでスムーズに診断書を書いてくれるだろう!」
病院全て根回し終わっていたのか。
病院側も気の毒に……どう診ても鈍器による暴行痕を野生の獣に襲われたと記述しなければならないとはな。やられた男どもが被害届を決して出さない事を見越して命令をだしている王も王だ。
「彼らが本当の事を言うはずない。ならば、それらしい理由付けを用意してやるのも主君の務めだ。そう思わないか?」
「そんな主君はうちだけです」
「ははは!彼らも喜んでるよ!自分達をボコボコのズタボロにしたのは妻や婚約者だなんて恥ずかしくて公表できない事案だ!現に、『最近、森には熊や猪の出没が多いらしい。それ位の怪我ですんで運が良かったな』と労ってやったら嬉し泣きしていたぞ」
いつの間に。
それは喜んで泣いていたのではなく悔しくて泣いていたのでは?
国王自らが彼女たちの行為を肯定しているようなものだ。
「伯爵の息女が考案した靴も人気だ。職人が軽量化に成功したというからこれからドンドン普及するな!」
「笑い事ですか。お相手の男性の足の骨が砕かれる案件になりそうですが?」
「仕方ない。ワルツで女性が誤って男性の足を踏んだとしてもそれはただの事故だ。寧ろ、咎めたり罵ったりする男はマナー違反だと非難される。うんうん。やっぱりこれからは足の事故が多くなりそうだな!」
陛下は上機嫌だ。
聞いているこちらとしては少々気まずい。
だが、陛下は私の娘をどうやら気に入っているらしいので良しとするか。




