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ミレニウス女史side

 

「規格外の令嬢」


 そう呼ぶに相応しい少女でした。


 美しいとは言い難い令嬢でしたが、小動物をイメージさせられる可愛らしい令嬢でした。


 柔らかな茶色い髪、好奇心旺盛な大きな青い目、健康的な肌。


 美女として誉れ高いロジェス伯爵夫人に似なかった事は残念ですが、愛嬌のある顔立ちは人を和ませる何かがありました。将来は高位貴族の夫人として家の采配を取らねばならない立場としては見た目だけで侮られかねない懸念はありました。が、そこは私が改善させていけばいいと考えていたのです。


 貴族令嬢は総じて早熟な質なのですが、ロジェス伯爵令嬢はそういったところは全く見受けられなかったのも好感をよびました。早熟すぎる令嬢は教師のいう事を聞かない者が多いのです。頭の回転が速いのはいいのですが、それ以上に口が良くまわるのです。貴族令嬢にはそういった要素も必要になってきますが基本が完璧にこなせていない時点では『口だけ令嬢』と言われかねません。

 ただ、このような()()()()()が果たして私の教育課程に泣きださないかという不安はありました。

 一部を除いた令嬢達がそうだったせいか心配は募るばかりだったのです。


 もっとも、それは大変な思い違いでありました。


 普通の令嬢?とんでもない!

 バーバラ嬢ほど独創的な令嬢など他にはおりません!


 何故、遠方の国の民族衣装を愛用しているのですか!

 それが何故、全身真っ黒なのです!

 私は『悪魔召喚』か『黒魔術』を行う儀式か何かかと思いましたよ!


 それだけ異様な光景だったのです。


 なのに、当の本人は「機能的で合理的な衣装」だと褒め讃えているのです。

 バーバラ嬢曰く、「夏には欠かせません」と拳を握りしめて力説していました。


 ここは教師のいう事に耳を傾けるところでしょうに。バーバラ嬢は逆に私を言い負かしてしまいました。いえ、なにも勝負をしている訳ではありませんから少し違いますね。交流の無い国の文化とはいえ、知らなかった私が無知なだけです。それは反省しなければなりません。全身を覆うベールも長時間の散策には打って付けだという理由も理解しました。


 ええ、ええ。


 何度もバーバラ嬢に言い負かされ、結局、私も『ニカーブ』という衣装を着たのです。

 その有用性も理解しました。バーバラ嬢が言うように、これならば日焼けの心配もなく外を歩けますとも。見た目と違い、夏の日差しにも負けずに中は涼しく吸湿性にも優れておりました。ドレスで外に出る時は日傘のみですからね。夏は暑く、どうしても汗が出てしまうものです。その点『ニカーブ』は合理的な造りになっていると認めざるを得ません。


 認めても、この国は砂漠の熱帯ではありません。屋敷内でのみの着用。散策のみの衣装ということで妥協したのです。この歳で妥協を知るとは思いもよらぬ事です。



 ですが、驚きはそれだけではありませんでした。



 体型を維持するため、鉄を入れた靴を履いて散歩をしていたとは。

 その散歩もランニング代わりに過ぎなかったなんて……考えもしませんでした。どうりで、散歩するバーバラ嬢の足の速さは尋常ではなかったはずです。お供の侍女はバーバラ嬢についていくので精一杯なようでしたし、かくいう私も、付き添いとして参加した時は呼吸困難に陥ったほどです。

 バーバラ嬢の申す「体操」。

 彼女の部屋の一室に置いてある数々の機器。平行棒や吊り輪などが設置され、バーバラ嬢は毎日欠かすことなくトレーニングに勤しんでいるのです。もはや淑女というよりも『女騎士』の日常といっても過言ではないでしょう。いいえ、一部では騎士の訓練域を超えているとも思わせる過酷なものもありました。


 バーバラ嬢は一体どこを目指しているのでしょう?





「規格外の令嬢」であるバーバラ嬢。

 彼女が生まれ育ったロジェス伯爵家も、他の貴族の家庭環境と異なっておりました。




 貴族令嬢とは、屋敷の奥で使用人たちや教育係などに囲まれて育つもの。

 幼少期は両親とは隔絶されることが普通です。大抵が屋敷の2階以上に設けられた「子供部屋」で一日を過ごすことが大半。

 親子が接する時間は限りなく短く「親子の語らい」という時間を設け、その時だけは、親子でお茶をしたり散歩を楽しんだり応接間で会話したりするものです。準成人とされる15歳が来るまでは両親と食事も一緒にできません。


 そんな貴族の常識が全く通用しないのがロジェス伯爵家でした。


 本来なら、両親とは別々にする食事を一緒にしている上に、バーバラ嬢は両親と過ごされる時間が多いのです。

 母君である伯爵夫人が作法を教えていると伺っていましたが、それもほんの一部だと思っていたのです。数名のお抱え教師を雇って教え込んでいるとばかり思っていた考えは、粉々に砕けました。まさか、上流婦人自らが全てを教え込んでいるとは夢にも思わなかったのです。


 それに、伯爵邸には大人と子供の領域区画が成されていなかったことにも驚きでした。

 普通なら、大人と子供での生活領域は分けるもの。子供の騒音を防ぐための扉が設置されている家も少なくありません。



 このような環境で育てられたバーバラ嬢が、普通なはずが無かったのです。


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