婚約者からの苦言
「豚からリスにチェンジしたからと言っていい気になるなよ!どっちにしてもお前は『公爵家』には相応しくない容貌だ!だが父上からは婚約破棄の許しが得られない以上はお前で妥協しておいてやる。寛大な僕に感謝しろよ!だが、リス女に『チャールズ様♡』と呼ばれるのはおぞましいものだ。よってこれから僕の事は『婚約者様』と呼んで敬え!そうすれば誰が見ても『公爵家が嫁げない醜女を哀れに思って婚約者の地位に置いてやっている』と理解し、納得してくれるというものだ!」
懲りない人ですね。
婚約者様(笑)はその後、再びスコット公爵からの愛の鉄筋を受けられておりました。何度も何度も頭を下げて謝られる公爵様が気の毒過ぎますが、これは恐らく「破棄」も「解消」も出来ない婚約なのでしょう。両家の思惑ありき、なのは幼い私でも理解できます。あまりにも婚約者様の出来が悪いようなら何か対策をお父様達が立てているでしょう。
その後も暴言を吐き続ける婚約者様の話を聞くという『お茶会』は定期的に行われる事に成ったのです。
「お前……品がないな」
「はい?」
「うちに来るたびに飲んでは食べ、食べては飲んで。幾ら太りにくくなったからといってそんなに早口でバクバク食べるとは恥を知らぬのか?」
「恥ですか?」
どういう意味でしょう?
婚約者同士の交流という名目で行われる『お茶会』ですのに。お茶を飲んで菓子を食す事が目的では?私達に共通の話題がありません。あるのは婚約者様からの暴言のみ。それも早々にスコット公爵がお知りに成り「これ以上、バーバラ嬢に失礼な事を申せば鞭打ちにするぞ!」と言われてからは静かになりましたし……。婚約者様も話題を振ると言う行為をなさる方ではありませんから、どうしても沈黙が続いてしまうのです。間を持たせるために、美味しいお菓子を食べて、お茶を飲んで過ごしているのですけれど。
「淑女は小鳥のように食べるものだ」
「?」
「察しの悪い女だな」
「申し訳ございません」
「いいか、いずれお前は我が家の一員になるんだ」
「はい。公爵家と伯爵家は親戚同士になりますものね」
「認めたくないが、お前は将来僕の妻になる」
「はい。夫婦になりますね」
当たり前のことを言われましたが、婚約者様は苦い物を食べて我慢しているかのような表情です。
「妻の恥は夫の恥ということを知っているか?」
「夫の恥も妻の恥になりますね」
「~~~~~~っ!お前!一々揚げ足を取るな!」
「そのようなつもりは無いのですが……」
「お前に、そんなつもりが無くとも、そう聞こえるんだ!少し、黙って聞いてろ!痩せて少しは見られるようになったからといって、いい気になるなよ。作法がなっていない女など話にならん!首から上は嫌になるほど早い動作だというのに、その下は鈍臭いままだ!機敏過ぎる動作も品がないが、鈍すぎるのは話にならん!改善するかと思って見ていたが、一向に改める事をしない」
「まあ、知りませんでしたわ」
「鈍いのは動作だけではないようだな。お前がこんなに淑女らしくないと知られれば僕の恥になるだろ!」
「気が付きませんでしたわ。淑女がお好みとは」
「貴族なら誰だってそうだ!お前も少しは努力しろ!恥ずかしくて連れて歩けやしないぞ!」
「あらまぁ……」
基本的な事はお母様から教えを受けておりますが、それも基礎の基礎。初歩の初歩です。私の食べ方を指摘なさったということは、婚約者様が納得のいく出来ではないのようですね。今もイライラしながら紅茶をがぶ飲みされております。
あら?
ドアの横に控えているメイドや侍従の顔色が悪いようですけれど、どうしたのでしょう?
もしや、私の淑女らしからぬ振る舞いに対して真っ青になっているのでしょうか。なんてことでしょう。人が顔色を悪くするほどの出来とは。
これは反省しなければなりませんね。