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転生魔術師が君に伝えたいこと  作者: 駿河留守
第一章 転生魔術師はサヨナラを言わない。
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第一節 我輩は魔術師である。-⑧

「ちょっと噂になってましたよ」

「え?何が?」

「佐藤くんが新海先輩と話してたって」

 情報の回りが早いよ…。

「別に僕から話しかけたわけじゃなく」

「佐藤くんが新海さんに自分から話しかけないことくらい知ってますよ」

 そんな悲しい情報は知って欲しくなかったな。

「新海さんって人気なんですよ」

「でしょうね」

「男子にも女子にも」

「え?女子にも?」

「はい。女子に告白されたこともあるらしいですよ」

「女子が女子に告白?そんなこと本当にあるの?」

「ありますよ。ちなみに薫ちゃんがそうですね。誰が好きかは教えてくれませんけど」

 たぶん、相手は宮本さん。あなたです。

「その早見さんはどうしたの?もしかして…」

「そのもしかしてです。ケンカは絶賛継続中なのです」

 いい加減仲直りして欲しいな。じゃないと僕はいつまでこんなことに付き合わないといけないんだろう…。

 僕と宮本さんは学校帰りに校門で合流した。教室から合流しても良かったんだけど、それだと早見さんに見つかってめんどくさいということで宮本さんの提案で学校の外で合流することになった。合流する理由はもちろん『麦ちゃん誰とでもお外で遊べるようにプロジェクト』を進めるためである。

「佐藤くんは新海さんと仲良くなりたいですか?」

 話題は再び舞さんのことに。

「相手は学校の人気者でしょ?僕とは不釣合いだよ。僕と仲良くなるのは舞さんのためにもよくないよ。向こうから来たとしても関わろうとはあんまり」

「ちょっと待ってください」

 と話を途中で止められた。

「あの、今、舞さんって」

「自分でそう呼んでくれって言われたから」

「どうしたんですか!もしかして、あなた!佐藤くんじゃありませんね!」

「いや、どう見たって佐藤くんだよ?」

「あり得ないです。コミュ力が障碍者レベルの佐藤くんがリア充の女王とも言える新海さんとそもそもしゃべるのも困難なのに、名前で呼んでいるなんて!あり得ません!」

 なんかバカにされているのがイラっとするので、少し仕返し。

「ちなみに舞さんは僕のことを誠くんって呼んでくれるよ」

 まるで銃に撃たれたリアクションをする宮本さん。

「嘘ですよね?あの佐藤くんとあの新海さんが?何が起きたんですか?」

 前の僕だったらあり得ないことだったかもしれない。でも、僕がああやって普通に人と話せるようになったのはたぶん宮本さんのおかげだ。宮本さんが親友の早見さんにどんなことを言われようとも僕に関わって話をしてくれるおかげだ。

「誠くん!」

「え?は、はい」

「私も今日からそう呼びます!」

「また、早見さんに怒られるよ」

 親密になりすぎだって。しかも、名前で呼び合うってことは客観的に見たら付き合っているように見えなくもない。それを宮本さんが大好きな早見さんが知ったらどういう反応をするだろう。殺されないよね?僕?

「別に薫ちゃんはいいの!これから私は佐藤くんのことを誠くんって呼ぶから誠くんも私のことを茜って呼ぶこと!わかりましたか!」

「わかりました、宮本さん」

「わかってないですよ!」

 これ以上僕は早見さんに怒られたくないので。

「なんで新海さんは良くて、私はダメなんですか…」

 やばい。本気で落ち込んじゃった。こうやってふたりで帰っていること自体、早見さんが知ったら怒られるんだよ。その上、名前で呼び合う仲になったら早見さんに何をされるかわからない。でも、目の前で泣きそうな女の子を放っておくほど僕は悪い人間ではない。

「わかったよ、茜さん」

 そう呼ぶとぱっと明るくなった。

「うんうん。誠くん」

 どうしたんだろう…。最近の僕の周りは…。

 杉山麦がいる駄菓子屋へ向かう途中、公園で遊んでいる小学生を見かけると少し待って欲しいと言われて荷物を預かると昨日と同じように小学生の輪の中に入って行った。少ししたら戻ってきた。昨日と同様激しく動いたせいかワイシャツは汗ばんでいた。後ろに回るとピンク色の下着がうっすら見えた。それから駄菓子屋へ向かう。

「こんにちはー」

 宮本さんは駄菓子屋に売っている飲み物に直行する。冷えているコーラを手にとってすぐに賞味期限を大丈夫であることを確認して奥のレジへ向かう。僕もその後に続くと、そこだけ時間が固定されているかのようにレジにはいつものおばあちゃんがいて、後ろには杉山麦がいる。

「こんにちは、遊びに来ましたよ」

 おばあちゃんに飲み物の値段を聞いてお金を払うとコーラを半分飲んでから杉山麦の元に行ってしゃがんで同じ目線になる。

「今日は何をして遊びましょうか?せっかく私とおにいちゃんがいるんですから」

 笑顔を振りまくと杉山麦は宮本さんと僕を交互に見てからおばあちゃんの背中から離れた。そして、ポケットの中からUNOを取り出した。

「…み、みんなで」

「はい!」

 駄菓子屋の店内には小さなテーブルがある。店で買ったお菓子を食べるためのスペースだ。そこに僕と宮本さん、杉山麦が向かい合う形で座る。

「配ってください。お願いします」

 簡単なことでもやってもらう。カードを混ぜて配ることくらい僕らがやってもいい。少しでも社交的になって欲しいという思いから何でも杉山麦にやらせる。将来、いい先生になると僕は確信する。

 カードを配っていざUNOの開始だ。

 ―――数分後。

「…う、うう」

「な、泣かないで、麦ちゃん。ちょっと誠くん!少しは手加減してくださいよ!」

「ご、ごめん」

 だって、手札にドロー四がたくさんあったんだもん。そのせいで麦ちゃんの手札は減ることなくまるで山札みたいな量になってしまった。

「大人気なかったよ」

「そうですよ!」

「…もうやらない」

「ま、待ってください!大丈夫!次はこのお兄ちゃんをやっつけるために協力しましょう!」

 UNOって協力型のゲームだっけ?

「次は負けませんから!」

 と急いでカードを切って配る。

 次は手加減して負けてあげるとしよう。

 ―――数分後。

「…う、うう」

「なんでですか!おかしいですよ!」

「僕に怒ってもおかしいよ!ちゃんと切ったの?」

「切りましたよ!」

 なぜか僕の手札にはドロー四とドロー二だった。出さないとゲームにならない出さざるを得ない状況に。今回は順番を逆周りにされなかったので、宮本さんが僕のドローの攻撃を受ける羽目になった。ドローを出したときにドローを出せば自分はカードを増やさずに済むんだけど、それをやれば杉山麦の手札が増えてしまうので、断腸の思いでカードを引き続けた結果、僕が勝ってしまった。杉山麦はかわいく出せるカードを出すだけで後先を考えていないのでどうしてもカードの減るスピードが遅い。

「なんですか?超能力でも持っているんですか?ドローカードを引き寄せる」

「そんな無駄な超能力を習得する暇があるなら瞬間移動とか便利な超能力を習得するよ」

 瞬間移動が使えたら寝坊しても学校に間に合うから限界まで寝られる。とっても便利じゃないか。

「…勝てないからやらない」

「まま、待ってください!あのお兄ちゃんの運はもうほとんどないはずです!今日なんて学校一の人気者に話しかけられたんですよ?一生分の運を使ってしまったはずです」

 それはどういうことだ!

「次は絶対勝てます!絶対!」

 再び急いでカードを切り始める。

 まぁ、あんな強い手札は何度も来るはずない。今度ばかりは負けるだろうな。

 ―――数分後。

「…う、うう」

「この詐欺師!」

「いや、おかしいのはそっちだって!どうなってるの!やってる僕自身が一番びっくりだよ!」

 今回の手札はさすがにドローカードは一枚もなかった。スタートの色は赤色だった。僕の手札は好きな色に変えられるカードと数字の赤色だけだったので、色を変えられたらやばいなって感じだった。最初は順調に三人とも赤色の数字カードを出して行って、宮本さんが色を青に変えたところで杉山麦が手札に青がないようで山札を引いた。赤ならあるだろうと赤色に変えるとそれ以降、ふたりは赤のカードを一枚も出せなかった。同じ数字もなかったようでそのまま僕の勝ちとなった。

「いかさまです!何か制服の裾とかに仕掛けがあるに違いありません!」

「ないって!この制服はみんなが着てる普通の制服だよ!」

「じゃあ、なんで私たちのところに赤色のカードが来ないんですか!おかしいですよ!」

「それは僕もおかしいと思ったよ!本当にちゃんと切ってるの!」

「切ってるから私と麦ちゃんのところに赤色のカードが一枚もなかったんですよ!」

 でしょうね。

「…もういい」

「ままま、待ってください!もう、このお兄ちゃんの運はもうありません!今後、運のいいことなんて一度も訪れません!一生分の運を使い果たして残っている人生は不幸のみです」

 さらっと酷い事言ってない?

「もうないですよ!さすがにもうないです!今度は私が勝ちます!」

 杉山麦を勝たせるんじゃないの?

 まぁ、いいや。さっさと負けてあげるとしよう。これ以上はめんどくさい。

 ―――数分後。

「…う、うう」

「なんでですか~」

 ふたりで仲良く泣き崩れる。

「…なんかごめんなさい」

 今回はドローカードもあったけど色もバラバラだった。だから、途中までは普通だった。だったのに普通に勝ってしまった。僕ってこんなにUNO強いんだね。僕の知らない才能を引き出してくれてありがとう、宮本さん。UNOの世界大会ってあるのかな?

「…UNOはもういい」

「私もいいです」

 杉山麦は黙ってカードを片付け始めた。不意に顔を上げる宮本さん。

「麦ちゃん」

「…何?」

「楽しかったですか?」

 そう。この集まりは勝ち負けが重要ではない。

 杉山麦は目をなるべく合わせないようにカードを片付けるのに集中したふりをして。

「…う、うん」

 と頷いてくれた。僕らはその答えにほっとした。

「また、明日も来ます。今日みたいに明日も何か遊ぶものを用意して置いてください」

 笑顔で言うと杉山麦は恥ずかしそうに頷いた。

「よろしくお願いします」

 少し僕らと杉山麦との距離が縮まった瞬間だった。

 それから僕は駄菓子屋にあった賞味期限がまだ大丈夫だったキャラメルを買って駄菓子屋を後にした。杉山麦はおばあちゃんの後ろに隠れずレジ前までやって来た手を振って僕らを見送った。

「誠くんはUNOの天才だったんですね」

「僕も今日知った」

 足を思い切り踏まれた。

「だったとしても小学生の女の子相手に大人気ないです」

「ごめんなさい」

 手加減してるつもりだったんだけどね。

「でも、麦ちゃん楽しそうでした」

「そうだね」

 負けたときは半べそかいてたけど、やっているときははらはらした表情をしていて楽しそうだった。色を変えたり、ドローカードを食らったりして場面場面で表情が変わって面白かった。おばあちゃんの後ろに隠れているときはずっと暗い表情だったけど、怒ったり、泣いたり、笑ったりする普通の女の子だってわかった。僕が知っているジープと名乗る杉山麦なんて存在しなかった。

「明日は何を用意してるでしょうね?」

「今度は表で遊べるようなものはいいんじゃない?」

「それは麦ちゃんが拒否しそうですけど、たくさん遊べばそのうち表で遊べるようなものを用意してくるかもしれません。そうすれば、たくさんの人がそれを目撃して近所の子が混ざりにやってくるかもしれません」

 そうすれば、杉山麦は社交的に成長するきっかけになる。

「そうなるといいね」

「はい」

 僕はこの日常を大切にしたい。

 中学の頃にやってしまったことで僕の日常はいつも真っ暗だった。でも、その真っ暗だった道に明かりを付けてくれたのは何を隠そう僕の隣にいる宮本茜さんだ。その宮本さんのおかげで僕はこれからどうすればいいのかはっきりしてきた。僕は彼女のために生きよう。彼女が僕を求めれば僕は求められたことを何でもやろう。もしも、彼女が僕のことを邪魔だと思ったのならば僕は何も言わず目の前から消えよう。それが僕の存在意義だ。彼女のために僕はなんでもするつもりだ。この幸せな日常が少しでも続くように僕も努力しよう。

 ―――と思った矢先に事件は起きた。

「佐藤!茜をどこにやった!」

 早見さんは僕に迫った。

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