第五節 転生魔術師はサヨナラを言わない。-⑥
「ねぇ、佐藤。あんた宮本さんと付き合ってるの?」
「…へ?いや、付き合ってないけど」
「好きじゃないの?毎日、送り迎えなんてして」
「え、えっと」
ある昼休み。先生に呼ばれて席を外している隙に安村さんが訊いてきた。
僕は曖昧な返事しか出来なかった。
「で、でも、ふたりはお似合いだって」
「そうだよ!思い切って告っちゃいなよ。うまくいくって」
三田さんと高島くんまでノリノリだ。
「え~、でもさ」
「なんでそんなに渋るわけ?あの宮本さんがあんたの告白に首を横に振るわけないわ」
「う~ん」
僕は昼食の惣菜パンを食べる手を止める。
宮本さんは確かにかわいい。素直でいい子だ。将来の夢がはっきりしてて応援したくなる。
ただ―――。
「茜さんにはがんばって欲しい。それだけだから」
「そ、それを、好きって言うんじゃないですか?」
「そうだよ!」
好きか。
不意にミーシャのことが頭に浮かんだ。
ポーっと天井を見上げているとき、教室の戸が開いた。
「お待たせしました」
宮本さんが戻ってきた。
「先生のお話長いですよ」
と愚痴を言いながらバックから弁当を取り出した。
すると安村さんが不敵に、意地悪そうな表情を浮かべる。
「ねぇ、宮本さん。宮本さんは佐藤のことをどう思ってるの?」
「ど!どうって…それは」
恥ずかしがりながら弁当を広げる宮本さん。その反応は明らかだった。どうしようか。もしも、このまま宮本さんに―――。
「み、宮本さん、こ、これなんですか?」
三田さんが弁当袋の中から弁当箱といっしょに便箋に入った手紙が出てきて床に落ちた。
「なんでしょう?これ?朝、お弁当詰めたときにはなかったんですけどね」
宮本さんが拾ったその便箋には宛名が書いてあった。
「なんで誠くん宛の手紙が?」
「え?なんで?」
便箋はしっかり封までされている。そして、ひっくり返すと差出人は書かれていた。
「ミーシャ・トリニティア?誰ですか?」
僕は思わず立ち上がって宮本さんが持っている手紙を取り上げてしまった。そして、差出人の名前をこの目に焼き付けた。
確かに、ミーシャ・トリニティアと書かれていた。
「ミーシャ?」
思わず宮本さんに向かってミーシャの名前を呼んでしまった。
「え、え?私は宮本茜ですよ?」
不意に我に返る。
「あ、その。ごめん」
手紙を宮本さんに返す。
「え、えっと、そのですね」
宮本さんはその手紙を受け取らなかった。
「ミーシャさんが誰か知りませんけど、誠くんの知り合いなんですよね?だったら、この手紙は誠くんのです」
宮本さんは手紙を戻した。僕は手紙に目をやる。
どういうことだ?ミーシャは約束どおり役目を終えて宮本さんの体を返して元の世界へ帰っていった。もう、二度と会うことはないと思っていた。彼女の面影を必死に宮本さんに置き換えようとしていた。それが今になって手紙なんて。
涙が一滴、二滴流れた。
それを見た宮本さんが何かを確信したように震える。そして、下を向く。
「ちょ、ちょっと席を外します!」
弁当を持って逃げるように教室から出て行った。
「ちょ、ちょっと!み、宮本さん!」
三田さんが後追う。安村さんも立ち上がって追いかける前に僕を軽蔑するような目で見下した。
「最低。他に女がいたなんて。死ねばいいのよ」
安村さんも宮本さんを追う。久々に言われたな。そんな言葉。
置いてけぼりの高島くんは。
「まあ、いろいろあるよな」
といづらくなったのか逃げるように教室から出る。
そして、僕はひとりになった。
君と唐突の別れは確かに僕の中でも衝撃だった。でも、君の生き方を真似して宮本さんを幸せにしようと思っていろんなことをした。それがミーシャの幸せに繋がるならと。
ミーシャ。君は僕に何を伝える気だい?
手紙の封を切る。




