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転生魔術師が君に伝えたいこと  作者: 駿河留守
第一章 転生魔術師はサヨナラを言わない。
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第一節 我輩は魔術師である。-④

 僕は高校に上がる前までは俺だった。

 二重人格。いえいえ、そうではありません。人には一人称というものがあります。女の子の場合は自分のことを私とかあたしとかうちとか…我輩っていう人もいる。男の子の場合は僕とか俺とか。僕は中学の頃は自分のことを僕ではなく俺と呼んでいた。俺って呼んでいたほうがカッコいいって粋っていた時期もあった。

 そんな俺が僕に代わってしまった出来事がある。それは早見さんが僕と宮本さんを引き離そうとする理由なのだ。

 俺はボクシングをやっていた。始めた理由は弱い自分が嫌いだったから。誰にも負けない強い自分になりたかったからだ。近所にあるボクシングジムに通った。中学生のボクサー自体の数自体が少ないせいで俺の周りにはいたのは俺より年上のお兄さんばかりだ。部活の練習だけでは物足りない高校生とか日ごろの鬱憤をサンドバックにぶつける人かプロを目指すアマチュアの人もいれば、ダイエットで通っている人もいた。その中で俺のように強くなりたいという理由でジムにいる人はいなかった。まったくいないわけじゃないらしいが、それでも珍しいと言われた。

 才能があったかどうかはわからない。さっきも話したけど、中学生ボクサーの絶対数が多くない。だから、大会とか出て一、二回勝つだけでベスト八とかになってしまう。強くなりたい。強さのためなら努力を惜しまない。でも、そのときの俺は自分の強さの意味を履き違えていた。

 中学二年生の頃、クラスでいじめられている奴がいた。別にその子が何か悪いことをしたわけじゃない。でも、その子は何をされても笑って誤魔化すような子だった。何をしても笑うだけで何もしてこないことをいいことにいろんなことをされていた。日に日に内容はエスカレートしていった。その子は何もしていない。逆に言えばいい奴だった。何もしていないのに、突然暴力を振るわれる。まわりも助ければ自分たちもいじめの被害が飛び火してくるんじゃないかって恐れて誰もその子を助けようとしなかった。その子は友達も多い奴だったが、気付けば周りには誰もいなくなっていた。気付いたらその子は学校に来なくなった。

 その子をいじめていた奴らはその子をおもちゃ程度にしか思っていなかった。遊んでいたおもちゃが壊れてしまったから次のおもちゃを探し始めた。クラスのみんなは自分が標的にならないようにとおびえる日々を過ごしていた。

 大人は頼れない。その子がいじめられていたのは誰が見たって明らかだった。事態をどうにかできたのは先生たち大人だった。しかし、その大人も自分たちに飛び火しないように避けているようにしか見えなかった。

 気に入らない。何もかも気入らない。いじめられたあの子は強い奴だったと俺は思った。だが、それでもまだ弱かった。あれだけのいじめに今まで耐えていたのは賞賛する。だが、耐えるだけではダメだ。ボクシングだって殴られっぱなしでは勝てない。攻撃をしないと勝てるものも勝てない。

 このクラスはいわばリングだ。前まであの子といじめっ子が殴り合っていた。一方的に殴られて試合は終わった。レフリーという名の先生は間に入ってこなかった。今後も何か起こらない限りレフリーは止めに入ってこない。誰も勝とうとしないリングで我が物顔のいじめっ子たちにいつまでも居座ってもらっては困る。

 だから、俺は立ち上がった。

 次のおもちゃを探すいじめっ子たちのおもちゃ候補に俺はなってやった。だが、そのおもちゃは取扱注意だ。突然、拳を振るってくるからだ。

 その拳を振るう時までそんなに時間は掛からなかった。いじめっ子たちは俺に嫌がらせを始めた。靴がなくなり、机に落書きをされた。いじめっ子を睨むが笑っているだけで俺たちは何もしていないと目を合わせない。

 そして、ついにゴングが鳴った。突然、殴られたのだ。お前ボクシングしてるんだろ?サンドバックの気持ちを考えさせるいい機会を作ってやる。お前がサンドバックになれと。我慢ならなかった。俺はいじめっ子のリーダー格に渾身の右ストレートお見舞いした。おもしろいくらい飛んで行って机が散乱した。怒った残りのメンバーが俺に殴る蹴ると繰り出してくる。多少受けながらもかわしてフック、ボディ、アッパーを食らわせた。気持ちよかった。今まで我が物顔で偉そうにしていた奴らの鼻をへし折ってやれることが快感でしなかった。

 ―――しかし、俺はその快感に酔い過ぎていた。

 気付けば、いじめっ子たちは血だらけで動けなくなっていて、関係ない男子や先生までまるで殴られたかのように頬を赤くして唇から鼻から血を流していた。良く覚えていないが、俺は俺といじめっ子のケンカの仲裁に入ろうとした男子や先生たちを思いっきり殴ったらしい。

 俺はクラスの脅威を排除したが、今度は俺自身がクラスの脅威となってしまった。俺を怖がって誰も話しかけてこない。俺を怖がって学校に来ない奴まで出てきて俺はクラスから隔離された。不登校でもないのに保健室登校になり、狭い空間で俺は中学生活を送った。それまで仲の良かった友達は俺から離れて行った。強くなりという思いで通ったボクシングジムからも追い出された。ボクシングは人を傷つけるものじゃない。そんな基本的なこともわかっていない奴をこれ以上置いておけないと言われた。

 それからはボクシングから離れて残りの中学二年間は大人しく過ごしたが広まった悪評は最後まで晴れることはなかった。暴力事件を起こしても二年間問題行為をしていないことから更生していると先生たちの努力おかげで高校には何とか進学できたが、広まった悪評は俺の背中をべっとりとついたままだった。

それから少しでも俺は人と関わろうと思った。少しでも当たりを柔らかくしようと一人称を俺から僕に変えた。これが僕の誕生の理由だ。

 一部の人は僕のことを知っている。例えば、早見さんだ。僕のことを聞いたことがある人もいる。例えば、宮本さんだ。

 僕といっしょにいるということは暴力的な人といっしょにいるという悪い印象になる。だから、誰も寄ってこない。僕も努力しようとしたけど、途中で諦めた。進学すれば変わると思ったけど、変わらなかった。だから、クラスにもなじもうとしなかった。でも、それでも、彼女は僕のところにやって来たのだ。宮本さんは僕と友達になろうといってくれたのだ。

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