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転生魔術師が君に伝えたいこと  作者: 駿河留守
第一章 転生魔術師はサヨナラを言わない。
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第四節 人生とは常に戦いである。-④

「やられたわね」

 安村さんに転生したソフィアはそう呟いた。

 ぐちゃぐちゃになった窓枠からグラウンドを覗くが、そこにふたりの姿はない。

「ソフィアさん、すみません。自分が逃げ出したふたりを追いかけようとしなければ」

 と謝りながらそばに立っているのは新海さんに転生したエドガーだ。

「ふたりを外に出すことは止められたかもしれないわね。でも、あれは仕方ないわ。まさか、内側から結界を破壊する魔術を使えるなんて思っていなかったわけだし」

「せっかくの用意した器はどうするっすか?追いかけるっすか?」

 ソフィアはしばらく顎に手を置いて考える。

「エドガー。予備プランはまだ使えるかしら?」

「使えるっす」

「そう。なら、彼女を餌にするわ」

 ソフィアは教室から出ようとする早見さんを鋭く睨む。その視線に気付いた早見さんは怯えながら慌てて教室から逃げ出すが、ソフィアの人間離れした脚力で床を蹴ると教室の窓を破壊して廊下に飛び出し早見さんの後ろから飛び掛って取り押さえた。

「い、痛いわよ!離しなさいよ!安村さん!」

「残念ながら私は安村さんじゃないのよ」

 不気味な笑みは早見さんの体を恐怖で強張らせる。

 ゆっくりと顔を近づけるソフィアに早見さんは目をつぶって少しでも恐怖を抑えることしか出来なかった。

 こんな状況なのに早見さんの頬には温かく柔らかい感触に目を開けるとソフィアが早見さんの頬にキスをしていた。状況が飲み込めない早見さんは言葉が出てこなかった。後ろではエドガーが口笛を吹きながら近づいてきた。

「どうっすか?」

「いいわね。あなた」

 頬を優しく包まれる。

「いい味がしたわ」

 その瞬間、早見さんの腹部にソフィアは膝を入れて蹴り上げた。数メートル飛ばされて胃袋の中身が一気に逆流してきてその場にうずくまる早見さん。その早見さんの首根っこを掴んだのは新海さんだったが、パワーはソフィア並みだった。

「なんで新海さんがいいんっすか?」

 いつの間にかふたりは入れ替わっていた。

「新海さんのほうが身体の高いから使いやすいのよ」

 まるで道具ように人間を扱っているように早見さんを思えた。痛みで意識が朦朧とする早見さん。そして、次に意識がはっきりしたのは突然全身に強い衝撃が響いたときだ。投げ飛ばされて床に全身を強打したのだ。

「こ、ここは?」

 そこは体育館だった。

「魔術師は?」

 新海さんに転生したソフィアが安村さんに転生したエドガーに確認を取る。

「いないっすね。早見さんを助けに来るはずなんっすけどね」

「あ、あんたたちは」

 早見さんの言葉にふたりは一斉に視線を向ける。

 その視線に恐怖を覚える。

「だ、誰よ。新海さんでも安村さんでもない。あんたたちは誰よ!一体誰よ!」

 喚く早見さんをめんどくさそうに見下すソフィア。

「あなたが知ることではないわ。あんまりうるさくしないでくれる?」

「い、いいから答えなさいよ!あんたたちは誰なのよ!新海さんと安村さんはどこに行ったのよ!」

 ため息を吐くエドガー。ゆっくりと近づいてくるソフィア。

「死にたい?」

 笑顔でソフィアは新海さんの首を握りしめて持ち上げた。

「い…や」

 涙があふれる。

「もったいないわね。けっこう、魔力あったのに。残念だわ」

 早見さんは悟った。ああ、自分は死ぬんだと。茜にまだ気持ちを伝えていないのに。

 後悔の涙が滝のように流れる。薄れ行く意識の向こう側。自分の首を絞めるソフィアとその様子を体育館の入り口近くで見てるエドガー。そのまた先に何かがミサイルみたいに高速で近づいてきていた。それが何かわかる前にそれはエドガーの横をすれすれで通過する。風を切る音に気付いたソフィアが後ろを振り向いた瞬間、ミサイルはソフィアを突き飛ばした。その衝撃でソフィアから早見さんは解放された。咳き込みながら飛んで行ったソフィアのほうを見るとそこにはソフィアの胸の中、正しくは新海さんの胸に顔を沈めているミサイルは人だった。しかも、そのミサイル人間には見覚えがあった。

「さ、佐藤!」

「いきなり!どこからっすか!」

 驚いたエドガーの背後から音もなく上から落ちてきたのは宮本さんに転生したミーシャだった。その存在に気付いたときにはすでに遅かった。幻魔の腕で持ち上げられてグラウンドへ投げ飛ばされた。

「エドガー!」

 フォローに走ろうと胸に沈んでいる人間ミサイルを引き剥がして走ろうとしたが、その足を人間ミサイルが掴んでソフィアは顔面からこける。その隙にミーシャは閻魔の審判を発動した。閻魔の審判が持つ鎚が体育館の壁を叩くと戸が突然閉まったと同時にすべての窓が一斉に閉まった。

「さぁ、場面は整ったようだ」

 早見さんが抱えていた疑惑が核心に変わった。

「茜じゃない」

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