第三節 カワルセカイ。-⑨
僕は体育の時間が一番嫌いだった。僕の高校では隣のクラスの男子と合同で体育の授業を行う。それは女子も同じことだ。今日は体育館でバスケだ。中央のネットで体育館を半分に区切ってステージ側が男子で出入口側が女子となっている。ミーシャと目が合うと軽く手を振ってくれる。返すのは恥ずかしいので軽く会釈をして返事をする。
さて、話は戻すと体育が嫌いな理由はペアやチームを組むことが多いからだ。日本中のボッチ諸君。この気持ちはわかるだろう。仲のいい友達がいないのでペアを組むと大体省かれ者になってしまって先生と組まざるを得なくなって恥ずかしい思いをしたり、あまりもののペアだと相手が超嫌な顔をされる。しかし、僕のように訓練されたボッチは先生とペアを組んでも恥ずかしく思わないし、嫌な顔をされてもなんとも思わない。ボッチになるには人を超えたメンタルを持つ必要があるから普通の人はなることのできないのだ。
って思ってる自分が悲しくなってくるけど、僕は悲しいとは思わない。ボッチはこの程度で傷ついていてはメンタルがもたない。
「佐藤。佐藤!」
「ひゃ、は、はい!」
ボッチは突然のことの対応が苦手である。
突然、僕に話しかけてきたのは見上げるように背が高い男子。健全なスポーツ刈りに細身だけどしっかり筋肉の付いた体型に少し白い肌。元気印がトレードマークみたいな男子がそこにいたのだ。
「えっと」
体育はいい所は体操着に名前が小さく入っているところだ。
「高島くん。どうしたの?」
「いや、うちのチームひとり足らなくてさ。どうだ?佐藤?入らないか?」
「え!い、いや、別に僕は」
「他にチームに入る予定でもあるのか?」
「それはないけど…」
自分で悲しいこと言うなよ。
「じゃあ、俺のチームに入ろうぜ!お前らもいいだろ?」
高島くんのチームメイトは若干反応が悪かったけど、高島くんの押しに負けてそのままチームに入ることになった。このまま体育をサボり続けると成績に響きそうだから適当に一試合出て後は隅っこで休憩してればいいやって、思っていた自分を。
「殴ってやりたい!」
「何か言ったか!佐藤!」
「何も!」
「佐藤!ディフェンス!」
「は、はい!」
なんと高島くんはバスケ部の次世代のエースと呼ばれているらしくめくちゃうまいというか周りを使うのもめっちゃうまいのだ。そして、男子高校生の体育は戦争なのだ。そう、絶対に負けたくないって言う気持ちが全開なのだ。高島くん率いるチームは高島くんの才能と常勝志向の集団だった。そんな闘争心むき出しの戦場に突然僕は放り込まれたのだ。
「このぉぉぉ!」
必死に手を伸ばしてジャンプして敵チームのシュートをブロックした。
「ナイスだ!佐藤!速攻!走れ!」
「ええぇぇぇ!」
しかし、ボクシングを辞めてかなりの年月がたっている僕の体は全然言うことを利かない。こんなこと辞めてしまえばいい。楽をして適度にサボればいい。ただ、周りに流されるようにこうして勝つために走っているのだ。
「シュート!外れた!リバウンド!」
同じチームの子がシュートを打つけど素人のシュートはおかしな軌道を描いてゴールリングに当たって跳ねる。ゴール下でそのボールを取ろうとひしめき合う中、僕は少し離れたところで待機していると、跳ねたボールは予想外に跳ね上がって僕のところにやって来て取れてしまった。コートの中にいる獣たちが一斉に僕の持つボールに狙いをつけた。ボクシングは一対一だからまだ良かった。バスケは一対五になるスポーツだ。すごい恐怖を感じて。
「ひゃ!」
女の子みたいな声を上げて僕はシュートを放つとそれは奇跡的にゴールリングをくぐった。
「へ?」
「ナイシュ!佐藤!」
と高島くんにほめられた。他のメンバーもナイスと僕をほめてくれた。最後にほめられたのはいつだろうか?考える間もなく試合に追われる。
試合は何とか僕のチームが勝利する形に終わった。終わった瞬間、崩れるように座り込む。
「し、死ぬ」
「人間はそう簡単には死なないさ」
ネット越しにミーシャが話しかけてきた。
「大活躍じゃないか」
「たまたまだよ」
呼吸を整えるのに精一杯で会話をする余裕がない。気持ち悪い。
「お疲れ!これでも飲みな!」
「あ、ありがとう」
親切でくれた水を僕は一気飲みする。そして、その水をくれたのが。
「助かったよ。高島くん」
「いいってことよ」
笑顔で僕の隣に座ってくる。
「佐藤ってバスケやってたのか?」
「やってるように見えた?」
「悪い。正直見えなかった。でも、なんていう運動神経はよさそうだった」
「それはたまたまそう見えただけだよ」
「何か運動してたのか?」
「…ボクシングを少々」
「へぇ~」
「あれ?驚かないの?僕のこと知ってる人は大体引くんだけど」
「そうか?ボクシングもれっきとしたスポーツじゃないか」
とシャドーボクシングのふりをする。
「なるほどな、ボクシングをやってたからあれだけ動けるのか」
なるほどなっじゃないよ。動ける理由をボクシングに当てはめないで欲しいな。
「…変なこと聞くけど、なんで僕をチームに誘ったの?僕みたいな危ない奴を」
「危ない?俺はそんな危ない奴って思っていなかったけどな」
それは真っ直ぐとした素直な意見だった。
「だってよ、考えてみろよ。佐藤はこうやって普通に高校に進学してる。それで高校二年間で問題行動は何一つ起こしていない。いろいろ噂は聞くけど、なんか作り話っぽいし、それに例の暴力事件もなんで起こったのかを俺は知らなかった」
高島くんのように話だけを聞いて僕を怖がる人がほとんどだ。
「でもさ、宮本が言ってただろ?佐藤はやってしまった間違いは本当に間違いだったのかって。マジでやばいことをした奴は高校にもいけないだろうし、何か事件を起こしていてもおかしくない。でも、佐藤はここにいる。それはなぜなのか考えないといけないなって。それには関わってみないとわからない。考えるのを辞めたらダメなんだろ?そうだよな?宮本」
「その通りさ」
高島くんは勢いよく立ち上がる。
「さて!次の試合も頼むぞ!佐藤!」
「で、出来るだけ、努力するよ」
「なぁ、もしも昼休みとかに余裕があればの話しでいいんだけどさ。いっしょにバスケやろうぜ。もうすぐ球技大会だぜ!目指せ!優勝!」
「え?いや、僕は」
「いいじゃないか」
「ちょっとミ、宮本さん!」
また、ミーシャって言いかけてしまった。
「君が活躍するところを僕は見てみたいな」
頬が上がってうっとりしているように見えた。まるで僕が活躍してくれるのを喜んでいる。
そんな風に見えた。




