第三節 カワルセカイ。-④
「はぁ~」
「ため息をすると幸せが逃げて行くって言うよ」
「そうなんだろうけどさ」
この状況でため息を出さないなんてあり得ないと僕は思う。
「なんであんたはあたしの言うことをいつも聞いてくれないわけ?」
とドスの聞いた声で僕を責め続けるのは早見さんだ。
「彼が何をしたって言うんだい?いい子じゃないか」
と僕をフォローするのは舞さんだ。
「なんで新海さんがこんなところにいるんですか?」
「なぜって宮本さんに呼ばれたからだよ」
「はぁ?なんで茜が?」
「ボクがいっしょに帰りたいって誘ったのは本当だよ」
「え?なんで?」
「理由は特にないよ」
と言っているけど、実際は舞さんを監視するためだ。いつどんな状況で魔術師が彼女に転生してくるかわからない。
「そう。ないらしいわ。でも、いいじゃん。仲良くしましょ」
「は、はい」
宮本さんが言うなら仕方ないと折れてくれた早見さんはどうやら舞さんに苦手意識があるように見える。少し避けているようにも見える。宮本さんはどうだったんだろうか。早見さんと仲がいいってことだから多少価値観が似ている部分があって気が合うところがあるはずだ。
「本当は茜とふたり…」
今チラッと聞こえたけど、宮本さんとふたりでどこか行きたかったみたいだ。ということは僕も邪魔ってことだ。舞さんを避けているのもきっとそれが理由だ。
「じゃあ、行こうか」
不機嫌そうにわかったわよと早見さんは先導する。
病院の脇を通って信号の交差点を渡るとすぐ駅直通のショッピングモールがある。早見さんは真っ直ぐそこに向かっている。こそっとミーシャにどこに行くか聞いたら、レストラン街に新しいパフェのお店が出来たというのだ。
その店の前に行くと学校帰りの女子高生の列があった。なんていうか僕のような男は彼女に無理矢理連れてこられた系の人しかいない。なんというか場違い感がはんぱない。
「確か、東京に本店があるお店だったよね。ここ」
「そうですね。すごい見栄えがいいってネットに書いてありました」
早見さんと舞さんが列に並んでその後に続いて僕とミーシャが並んだ。店員さんがメニューをくれたので、眺めていると。ミーシャが僕の小指を軽く触れてきた。
「?」
するとミーシャは小声で。
「すまない。ボクは今お金を持っていないんだ」
「…そうかぁ」
この世界に来たばかりだから、仕方ないよなぁ~ということで。
「僕が払うよ」
「本当かい?」
「いつか出世払いしてよ」
「わかったよ」
出世払いっていつされるんだろうか…。どちらにせよどのメニューもいい値段するので、痛い出費だ。
ふと視線を感じた。その視線の主は早見さんだ。僕らを睨んでいる。ミーシャは気付いているようだったけど、メニューを見て気付かないふりをしている。僕は目が合ってしまった。
「な、何?早見さん?」
「あんたに用事はないわよ」
ごめんなさい…。
じっと、早見さんはミーシャを見つめていた。早見さんは宮本さんのことが大好きだ。ずっと眺めていたいのかもしれないけど、その視線は何か違う。
「お待たせしました」
と案内された。早見さんと舞さんが隣同士に座って僕とミーシャが向かい合いように席についた。席に案内されるとかわいいメイド服姿店員さんにメニューを伝える。ちなみに僕は一番安い奴を頼んだ。ミーシャは値段とか気にせず食べたいものを頼んだようだ。普通に高いんだけど、僕のお財布のこと考えてる?
ミーシャはこっちを全然見ない。
落ち着いて座ると早速舞さんが口を開く。
「えっと、宮本さんは行方不明事件で知ってるし、誠くんは有名人だから知ってるけど」
なりたくてなったわけじゃないんだけどね…。
「彼女は始めましてだよね」
早見さんのことだ。
「そうですね」
「名前をまだ聞いていなかったね」
「早見薫です」
「薫さんっていうんだ。よろしく。私のことは気軽に舞さんって呼んでね」
そのふれあい方は僕だけじゃなくてみんな同じなんだ。
「わかりました。新海さん」
ガン無視すんのかい!
「うん。それはそれでいいかな」
え?いいの?だったら、僕も人前だと舞さんって呼ぶの恥ずかしいから…。
「誠くんは絶対ダメだからね」
…なんでわかるの?
「茜さんは甘いものが好きなの?」
「なぜだい?」
「さっきから隣の席の人のパフェに釘付けだったから」
ミーシャは隣のパフェを見て開いた口がふさがっていない。
「だって、おいしそうじゃないか」
謎多き魔術師ミーシャの情報その二。ミーシャは甘いものが好きらしい。
「茜ってそんなに甘いもの好きだったっけ?」
いつもと違う宮本さんの反応に反応したのは早見さんだ。ミーシャは僕の太ももを突っついた。宮本さんは甘い物好きなのかどうかの教えろっていう意味だってことはわかる。残念ながら僕は宮本さんの好みを知るほどの仲ではなかったし、宮本さんの情報は僕よりも早見さんのほうが持っている量は多い。情報戦では勝ち目がない。下手に違うことを教えて宮本さんが宮本さんじゃないってばれてしまう。
「た、確かに宮本さんは好きか嫌いかでいうとどっちでもなかったはずだったよね?」
僕のフォローにそうだねと乗ってきた。
「見栄えもすごいから見とれてしまったのさ」
と誤魔化した。
早見さんの反応にドキドキしたけど、そうっと言ってそれ以上問い詰めてこなかったことにほっとすると、頼んでいたものがやって来た。
「すごいじゃないか!」
「予想以上ですね」
と興奮気味の舞さんと早見さん。やって来たパフェは底にフレーク、クリームの層になっていてその上にみんながそれぞれ頼んだ色とりどりのフルーツやソースが色とりどりに盛り付けられているところは普通だ。違うのはそのサイズだ。僕の顔の倍はある大きさに思わず写真を撮りたくなってしまう。
ジャンボと呼ばれるそのパフェを頼んだのは僕以外の三人だ。よく食べられるよね。
興奮気味の舞さんと早見さんとは対照的にミーシャはスプーンを手にとってもくもくと食べていた。
無表情のミーシャだが、幻覚だろうか目を輝かせて笑っているように見えた。すぐに目を擦った。目に映ったのは表情を変えずにもくもくと食べるミーシャだった。僕の視線に気付いたミーシャの頬にはクリームが付いていた。
「どうしたんだい?君も早く食べたほうがいい」
と一口、また一口をクリームと果物を口へ運んでいく。口元を汚しながら。
ああ、これは表情に出ていないだけだ。彼女は甘いものが大好きなんだ。表情を見なくてもその行動でわかる。隣の席のパフェから目を離せなかった。周りの目を気にせず黙々と食べ続ける。ミーシャも女の子だ。甘いものが大好きな女の子だ。




