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転生魔術師が君に伝えたいこと  作者: 駿河留守
第一章 転生魔術師はサヨナラを言わない。
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第三節 カワルセカイ。-③

「宮本さん!今までどこにいたの?」

「記憶喪失って本当なの?」

「犯人の顔を見てないの?」

「神隠しにあっていたとか?」

「いや、キャトルミューティレーションだろ」

「もしかして、嫌なことでもあったの?」

「もしかして、駆け落ち?」

「禁断の恋?」

「え!誰と誰と!」

「もったいぶってないで教えてよ!」

「どうしたものか」

 教室に戻ってきたミーシャは早速クラスメイトの質問攻めを食らっていた。席は僕の隣なのでもちろん僕の席は占領されてしまっていて席に座ることは難しい。教室の隅っこに背もたれながら様子を窺う。

「ちょっと!茜が困ってるじゃない!いっぺんにいろいろ訊くんじゃないわよ!記憶がなくていろいろ困惑してるのよ!」

 宮本さんには優しい早見さんが人の集団に突撃していく。さすがだ。僕には出来ないことだ。

「待つんだ。ひとりずつだ」

 たくさんの人に囲まれてしゃべり方や仕草はよく観察すればそれは宮本さんではなく、ミーシャだ。不思議なのは誰もそのことに気付いていないということだ。まだ、宮本さんが戻ってきたことの衝撃でそこまで気が回っていないだけなのか?

「何やら難しそうな顔をしているじゃないか」

「ふぇ?」

「変な返事だね」

 と教室と廊下の窓越しに声をかけてきた人物がいた。予想外の位置からの声と話す態勢になっていなかったせいで変な声が出る。

 窓から体を乗り出して僕に声をかけてきたのは新海さんだ。黒髪のポニーテールでほとんどの女の子は普段見えないうなじが妙に色っぽく見える。教室の話題は一貫して宮本さんでいっぱいだ。それはこの教室だけに限った話だけではなく、学校中に噂として広がっているようだ。

「へぇ~、あの子が宇宙人から解放された子か」

 伝わり方はそれぞれのようだ。

「新海さんは見物に来たんですか?」

 人を冷やかしに来るイメージは新海さんにはない。

 すると僕の発言になぜか頬を膨らませて仏頂面になる。

「え?僕何か不味い事言いました?」

「名前」

「あ!」

 そんな約束をしていたな。最近は魔術師が入った状態で会ったから違和感がある。

「ま、舞さん」

「よろしい」

 笑顔になる。その明るい笑顔は誰もを魅了する。直視できない。

「えっと、舞さんはなんでうちのクラスに来たんですか?宮本さんを見学しに?」

「違うよ」

 即答だった。

「私は誠くんに用事があってきたのさ」

「え?僕?」

「さっき、教室に来ていたよね。誠くんみたいに部活とか何もやってなくて上学年と関わりとか無さそうなのに教室に来るって事は私に用事があったこと以外にないなって思って。さっきはゴメンね。離れられなくて」

「いやいや、別に」

 用事があったかと言われるとない。様子を見に行っただけだった。舞さんの中に魔術師がいないかどうかを確認するために。

「で?私に何か用だった?」

 なんでそんなにうれしそうなの?なんでそんなに食い込んで訊いてくるの?

「いや~、まさか本当に誠くんから積極的に声をかけてくれるなんてうれしいな」

 ああ、そういうことか。僕のイメージ回復を助けたい的なことを言っていたな。

 さて、舞さんがせっかく来てくれたのにこれといった話題はない。人からはぶられ続けたせいで僕のコミュ力は著しく低くなってしまっている。宮本さんと関わっていても基本的に向こうがマシンガンのごとく話をするので僕は聞くだけだった。そういうことなので僕に急場しのぎの話題を作ることは難しいのだ。

 ふと、ミーシャのほうに目が行く。彼女の魔術のおかげなのか話題がひとつ、というか確認したいことが浮かび上がってきた。

「舞さん」

「はいさん」

「舞さんはここ最近記憶が曖昧なことってありませんでしたか?」

 魔術師が転生しているときの記憶は体の持ち主にない。それの確認だ。これはミーシャが言っていることを信じるためでもある。

「う~ん、確かに最近多いかもしれないな。気付いたら駅のホームにいたり、トイレにいたり、部室のベンチで寝てたり、疲れてるんじゃないのってみんなには心配されるんだよね。つい、昨日は気付いたら保健室にいたし。爆発事故のことも覚えてないんだよね」

 記憶が曖昧なことに無頓着なのか気にしていないのか舞さんは記憶が欠落していることにあまり違和感を覚えていないようだ。でも、昨日のミーシャとの戦いを覚えていないのは事実っぽい。

「それっていつくらいからですか?」

「いつって…う~ん。二週間くらい前かな?」

 ということは少なくとも二週間前から魔術師は舞さんの体を使って魔力の量の調査をしていたってことだ。

「なんでそんなこと聞くの?」

「えっと、ミ、宮本さんの記憶が曖昧だって言うからそういう人が他にもいるのかなって思っただけです」

 ふたつの奇跡がこの短い会話で起きた。ひとつは一瞬、ミーシャって言いかけたところをこらえることができたこと。もうひとつは本当っぽい適当な嘘をつけたことだ。グッジョブ。僕。

「酷い目にあった」

「わぁ!」

 今度は僕の足元から突然ミーシャが現れた。急に現れたので舞さんも目を丸くしていた。

「ちょっとどこから来たの!」

「机の下を這いずって来たのさ。人でもみくちゃになっててボクが抜け出したことに誰も気付いていないな」

「そ、それも魔術?」

 って舞さんには聞こえない声でボソッと尋ねる。

「違うよ」

 すぐに答えた。ミーシャは僕の足元に足を抱えて座る。さっきまでミーシャに質問攻めをしていたクラスメイトはみんな立っている。立っている人には机が死角になって今のミーシャが見えない。

「始めましてあなたが噂の不思議ちゃんの宮本茜さんね」

 ミーシャは舞さんの声を聞いて顔を上げる。声をかけてきたのが、魔術師が入っていた舞さんだってことに気が付くと少し視線に鋭さが増す。その鋭さがなんなのかわからない舞さんは首をかしげると舞さんの中に魔術師がいないことを確信したのか表情が緩む。

「そうさ。そういう君は新海さんだったかな?」

「私のことを知っているのか。私も有名になったものだね」

 ミーシャの場合は違う理由で知ったんだけどね。

 あれ?宮本さんがいなくなったぞ!って教室がプチパニックになった瞬間、先生が扉を開けて入ってくる。

「そろそろ、授業だね。じゃあ、またね。誠くん。茜さんも」

 下の名前で呼ぶことの徹底振りに脱帽だ。僕にはそんな徹底は出来ないな。

 笑顔で手を振ると律儀に廊下と教室の窓を閉めて駆け足で去って行った。

「いい人じゃないか。新海さんは」

「そうだよ。だからこそ、魔術師にこれ以上舞さんの時間を奪っちゃいけない」

「ボクもいっそう努力するとしよう」

 ミーシャが立ち上がるとえ?そんなにところに?いつの間にって教室が再びざわつく。僕の足元にいたところを体を突き刺すような視線を送る人がひとりいた。何を隠そう、その犯人は早見さんだ。何て言われるか考えただけでため息が出そうだ。

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