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転生魔術師が君に伝えたいこと  作者: 駿河留守
第一章 転生魔術師はサヨナラを言わない。
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第三節 カワルセカイ。-①

 カーテンの隙間から朝日が差し込んできて目が冷めた。時間は学校に行くにはまだ早かった。僕は床に布団を敷いて寝た。ベッドはあるけど、それはミーシャに貸した。ミーシャは別にいいと言ったけど、宮本さんの体でこれ以上無理はさせたくないと僕が説得した。その気になれば僕を殺すことは容易いミーシャだけど、彼女に気を使って僕はリビングで寝ようと思ったが、いつ何時魔術師に襲われるかわからないから同じ部屋で寝たほうがいいと言われたので、僕は自分の部屋に布団を敷いて寝た。近くで宮本さんの寝息が聞こえるって思うと胸の高まりが抑え切れなかった。宮本さんのほうを向いて寝ることが出来ず腰が痛い。それに若干寝不足だ。全然、寝付けなかった。体を起こして布団のほうを見るとそこにミーシャの姿はなかった。

「…ミーシャ?」

 寝ぼけながら部屋を出てリビングに行くとそこには下着姿のミーシャの姿があった。

「…君は狙って起きてきたのかい?」

「ちちちちち!違うから!」

 下半身はスカートをはいているけど、上半身は下着だけ。薄緑色の下着はお姉ちゃんの下着だ。宮本さんが普段つけない色の下着だ。なぜ、知っているかは極秘情報のため公表できない。

 ジト目で嫌悪の表情を浮かべているのを必死に見ないように朝ごはんを用意する。トーストを焼いてイチゴジャムを塗っただけの簡単なものだ。後はコーヒーとヨーグルトを用意する。お母さんに食べ物の減りが早いって言われそうだけど、どう誤魔化そうか考えないといけない。

 テーブルに食事を置くとミーシャの頬が少し動いた。

―――気がした。笑っているようにも見えなくもない動きだった。彼女には表情がない。でも、僕はきっと彼女は表情豊かな子なんじゃないかって思う。お腹を鳴らしたときは顔を赤くしたし、お風呂に入れてうれしそうだった。感情が豊かなのが本来のミーシャの姿なんじゃないかって思うけど、それを証明するものはない。

テレビをつけると僕の高校で起きた爆発事故について大々的に報道されていた。事故の原因は不明。近くに家庭科室があったことからガス爆発が原因か?もしくは不発弾が校内に残っていてそれが爆発したのか?どれでも決定的証拠もないので、あり得ないという結論だった。まさか、魔術師同士が戦ったせいだなんて誰も思わない。

「君の世界はいいね」

「何が?」

「情報が簡単に手に入る。テレビって言ったかい?これは」

「そうだよ」

昨日の夜。この世界のことを少しだけ教えてあげた。そのうちのひとつがテレビだ。もちろん、魔力では動いていないってことも教えたし、映っているのは遠くで撮影されたもの、もしくは映しているものだって事を説明した。原理までは僕は知らないけど、ボクの世界もこんな風に魔術を使わずにこんなことを簡単に出来ればいいのになって呟いていたのが妙に印象に残っている。

「学校は通常通りやるみたいだね」

 昨日、お母さんのほうに学校から連絡があって授業は通常通り行うそうだ。爆発があったのは家庭科室や化学室といった多目的教室が集中している別館だったので、多目的教室を使用する授業はすべて中止にして学校は通常通りに行うらしい。

「そうだね。ミーシャはどうする?」

 少し顎に手を置いて考える。これがミーシャの考えているときのスタイル。

「新海さんの中にいた魔術師の転生魔術を解除するためにも新海さんの近くにいたいな」

「今も思ったんだけど、魔術を解除する魔術は新海さんに使えば魔術師は新海さんに転生できないんじゃないの?」

「それは無理なんだ」

「え?」

「魔術を使っているのは新海さんではなくて、その中に入っている魔術師さ。ボクの魔術で魔術を解除できるのは魔術を使っている魔術師の魔術さ。新海さんが魔術を使っているわけじゃないから無理なんだ」

 じゃあ、魔術を解除する魔術を使うためには新海さんに魔術師が入った状態じゃないといけないわけか。

「いつ魔術師が新海さんの中に入ってもいいように彼女を監視しようと思うんだ」

「それってつまり学校に行くってこと?」

「そのために君に下着姿を見せてまでこの格好をしているのさ」

 そのことはそれ以上掘り下げないで欲しいな。

「つか、本当に学校に行くの?」

「もちろんさ」

 そんな当たり前のように言わないでよ…。

「あのさ、宮本さんは連続誘拐未遂事件の被害者ってことで警察が必死に探しているんだよ?そんな宮本さんがひょっこり学校に顔を出してみてよ。それだけで学校がパニックだよ」

「彼女はそんなに人気者なのかい?」

「そういう意味じゃなくて、まずは警察にしつこく訊かれるよ。何があったって」

「それは覚えていないって言うつもりさ。実際、彼女は何も覚えていないんだ」

「じゃあ、ミーシャが過ごした時間に起きたことをどうやって宮本さんに引き継がせるの?」

 ミーシャが魔術師を送り返すことが成功して宮本さんに体を返したとしてその後に起こる矛盾とかすれ違いとかに苦労するのは宮本さんだ。だったら、今の状態をキープして魔術師を送り返した後に宮本さんを返してもらえば、行方不明の間、記憶がない不思議少女ってことになるだけだ。知らない約束や知らない出来事で苦しむことはない。

「それは君がいるんだ。心配ないだろう」

 そんな人任せな…。

「だけど、今この瞬間も彼女の時間は刻々と進んでいる。この時間で出来なかったことで彼女が後悔するようなことだけはボクは避けたいと思うんだ。彼女は君と同じ学校へ通っているんだろ?」

「そうだけど」

「彼女はなぜ君と同じ学校へ通っているんだい?」

「それは…」

 宮本さんの夢に必要な大学へ進学するためだ。その大学の推薦枠が僕の通う学校にはあるのだ。でも、それは狭き門でもある。宮本さんと同じ考えを持った人が他に何人いるか僕は知らない。僕は彼女の夢のために何だってするって決めている。推薦枠を取るためにはテストの成績もそうだけど内申点も必要だ。

「彼女には夢があるんだろ。その夢を叶えるために学校に通っている。その学校を休んでいていいのかい?確かに誘拐犯に誘拐されているから仕方ないって言われるかもしれないが、そうなると君が誘拐犯になってしまう。彼女が君を蹴落としてまで夢を叶えたいと思うかい?」

 絶対に思わない。答えずともミーシャはわかったように頷く。

「なら、君は彼女の夢のために全力を尽くすべきだ」

 そうだ。ミーシャの言うとおりだ。出席日数は内申点に多少響いてくる。こんな異世界の問題ごとのせいで宮本さんの夢が遠ざかってしまうなんてことは絶対に避けたい。

「わかったよ。ミーシャ。僕が何とかする」

「助かるよ。これでボクも魔術師の動向を探れる」

「魔術師の動向も探れて、宮本さんのためにもなる。一石二鳥だ」

「それ以上の結果を生めるようにお互いにがんばろうじゃないか」

「ああ」

 僕とミーシャは改めて手を交わした。

 残った朝食を食べ終えて学校へ向かう。とりあえず、ミーシャはこの三日間のことは何も覚えていないことを貫くそうだ。そのほうが何かと面倒ごとが少なくて対応がしやすいからだ。そして、僕と会っていたこともないことにした。口裏を合わせて玄関を出る。ミーシャが先に出て僕は後を追うように玄関を出ようとした瞬間、強い風が吹く。一瞬倒れそうになるのを何とかこらえて前を向くとそこにミーシャの姿はなかった。いっしょにいるといろいろと面倒だろってことで魔術を使って先に行ってしまった。

 こんなに学校に行くのに緊張するのは久々だ。

 学校へ行くのに緊張したのは入学式の時だ。あの時は僕の起こした事件のことをどれだけの人が知っているんだろう?僕みたいな奴が教室にいたらみんなどんな反応するんだろうって不安でいっぱいだった。実際、通ってみると案の定、周りの視線を冷たくて鋭い。関わってこようとする人はほぼいなかった。最初は怖かった。けど、最近はもう慣れてしまって周りの視線に刺されても何も感じない。

 でも、今は自分じゃなくて宮本さんのことだ。あんまり干渉すると行方不明中に関わっていたんじゃないかって疑われそうだから無理には行かないけど、見ているだけでドキドキするから不安でしかない。

 少しでも早くミーシャと合流するために駆け足で階段を降りて徒歩五分の学校へ向かう。

 すると少し前で歩いているミーシャを見つけた。駆け足で駆け寄って声をかける前にミーシャは校門をくぐって学校の中へ。数秒遅れて僕も校舎へ入った瞬間だ。

「み、宮本じゃないか!」

 それはいつも元気よくてうっとうしい生徒指導の先生だった。

「おはようございます、先生」

「お、お前!今までどこにいたんだ!」

「えっと、それは」

「え?宮本さん?」

「嘘!宮本さん!今までどこにいたの!」

 といった具合であっという間に人に囲まれて行った。僕の入る余地などまったくなかった。

「…大丈夫かな。ミーシャ」

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