第二節 ボクは魔術師さ。-⑦
ミーシャがお風呂からでてくる前にカレーを温めて冷凍してあったご飯を解凍する。お風呂の扉が開く音が聞こえた。それに合わせて解凍したご飯にカレーをよそってテーブルに運ぶ。
「いい匂いだ」
お風呂から出てきたミーシャの髪はドライヤーをしていないのに乾いていた。たぶん、魔術のおかげだろう。お姉ちゃんのパジャマは少し大きいみたいで裾と袖を捲り上げている。それでもぶかぶかだ。宮本さんが低身長なのか物語っている。まぁ、それはそれでかわいいからいいんだけどね。
「冷めないうちに食べよう」
と僕が言うと無言で頷いてテーブルに着く。そして、ミーシャは静かに目を閉じて手を合わせる。数秒手を合わせるとゆっくりと目を開けてカレーを一口食べる。一口、一噛み、噛締めて味わって食べる姿を見ていると見とれてしまう。
「おいしいね。君のお母さんは料理上手だ」
「そ、そんなことないよ。固形カレールーさえあれば僕でも作れるよ。カレーくらいなら」
思わず見とれてしまったこと、お母さんの料理を褒められたことが照れくさかったことを隠すようにカレーを乱暴に食べる
「そんなことをいうんじゃないよ。せっかくお母さんが作ってくれたものじゃないか。感謝して食べないと」
表情は変わらないけど、彼女の発する一言一言に感情が乗っかっている。黙々とカレーを食べるミーシャ。そうまるで、彼女はもう二度と体験できないことを噛締めるかのように。
「少し訊いてもいい?」
「なんだい?」
訊きたいと思うのになぜか喉元で言葉が突っかかって出てこない。
「どうしたんだい?」
お風呂に入れてあげたとき、久々だと言っていた。久々ってこっちの世界に来てから入っていなかったからなのか、それとも向こうの世界でもなかなか入れなかったからなのか。僕の家に上げたとき、埃っぽくなくてきれいだと言った。ミーシャが住んでいる場所は埃っぽいところなのか?それはなぜだ?考えれば考えるだけ、言葉がどんどん重くなって出てこない。
するとミーシャはカレーを口に運ぶのをやめてスプーンを置いた。
「少しでも君にボクのことを信用してもらうために、そうだな。ボクのことを話そう」
「え?」
「君はボクと交わした約束を本当に守ってくれるかどうか心配だろ?」
「ま、まぁ」
「なら、少しでもその約束を交わしたことを証明するためにもボクのこととボクの世界ことを話そう」
息を飲んだ。滅亡しかかっている世界。魔術という力を得てしまった人間が強過ぎる力を振り回すあまり世界が滅ぼしてしまいかねない状態にしてしまった。それは僕の世界でもあり得ることだ。核戦争が起きれば、それこそ人が住めるところがなくなってしまう。それでまた戦いが起こる。負の連鎖だ。その連鎖がミーシャの世界では起きている。そんな過酷な世界でミーシャはどんな風に生活しているんだろうか?
カレーを食べる手を一旦休める。
「そうだね…何から話そうか。じゃあ、まずはボクの家族のことを話そう。」
目を閉じて手を握る。ゆっくりと目を開ける。そして、一言一言思い出しながら話し始めた。




