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転生魔術師が君に伝えたいこと  作者: 駿河留守
第一章 転生魔術師はサヨナラを言わない。
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第二節 ボクは魔術師さ。-③

 放課後。僕は真っ直ぐ家に向かわず最近日課になっていた駄菓子屋に真っ直ぐ向かった。

 早見さんは体調不良で早退した。終始、僕に送られる視線は痛いものだった。でも、今はそんな痛みはどうでもいい。この程度の痛み、早見さんから貰った張り手と比べたらよっぽどましだ。早見さんのためにも、何よりも宮本さんのためにも僕は行動しなくちゃいけない。

 始まりはジープと名乗る小学生、杉山麦に出会ったことから始まった。

 そのジープと出会った自動販売機の前を通り過ぎて公園に向かう。

 もしかして、いつもの調子でここで小学生に混ざっているんじゃないかって思ったけど、公園に女子高生の姿はなかった。背が低いから探し当てていないだけじゃないかって思ってベンチに座ってしばらくボールを蹴って遊ぶ小学生たちを眺めていた。

 そのボールが僕のほうに転がってくる。それを拾うとひとりの小学生の男の子がやってきた。

「ありがとうございます!」

 とお礼を言われる。僕は軽く投げてボールを返す。

「あの!いつものお姉さんといっしょにいるお兄さんじゃないですか?」

「え?」

 いつものお姉さんというのはきっと宮本さんのことだ。

「今日はお姉さんいないんですか?」

 きっと、宮本さんと遊ぶことが楽しかったんだろう。息を切らしながら無邪気に聞いてくる。この子たちは今起きている異常事態を知るよしもない。

「今日は風邪を引いちゃったみたいだからいないんだ」

「そうなんですか」

 と少しは寂しそうに言う。

「大丈夫。また、元気になったらいっしょに遊べるよ」

 今のところ。行方不明になった人たちは誰一人見つかっていない。

「そうだよね!わかった!ありがとう!」

 元気よくお礼を言って輪の中に帰っていった。

「行こう」

 もしかしたら、ぴょこんと駄菓子屋に顔を出して杉山麦と遊んでいるかもしれない。

 かすかな希望を持って駄菓子屋にやって来た。静かな店内の奥に進む。奥のテーブルでふたりでトランプを広げているんじゃないかって中を覗くと―――。

「遅いですよ」

 という幻聴が聞こえた。

 そこには誰もいなかった。

 思わず泣き出してしまいそうだった。

「今日は麦もいないよ」

 僕に声をかけたのは店の銅像を化して息をしているのかどうかも怪しいおばあちゃんだった。

「あの子、行方不明なんだって?」

「…はい」

 おばあちゃんはゆっくりとそれでもしっかりと聞き取りやすく僕に話してくれた。

「今日、警察が来たよ。君といっしょに麦と遊んでくれた宮本さんが行方不明になっているのを聞いたよ。そういう事件が連続で起きてるっていうから珍しく早い時間にあの子の母親が迎えに来ていっしょに帰ったよ。子供が連続で失踪してる君も早く帰るといい」

 それは大人として正解の助言だ。

「僕のせいなんでしょうか?」

 おばあちゃんは表情を変えず首をかしげる。

「僕と関わったせいで宮本さんはいなくなってしまったんでしょうか?僕みたいに危ない奴は優しい宮本さんの優しさを感じるべきじゃなかった。早見さんのいうとおり僕は彼女と関わるべきじゃなかった。そうじゃなければ、宮本さんがいなくなることも…」

「それは勘違いと同時に逃げじゃないかい?」

「え?」

「そうやって、自分のせいだったって自己完結してどうするんだい?この老いぼれから見ても君は悪い人じゃない。なのに周りは君のせいであの子がいなくなったと言っているのかい?それはおかしな話だ。君はそれを全力で否定しなければいけないよ。それをあの子も望んでいるはずだよ」

 優しく囁くようにおばあちゃんは教えてくれる。

「野蛮かもしれないけど、人生は常に戦いだよ。弱ければずっと弱いままだよ。地位も立場も」

 僕の立場はあの事件以来ずっと弱いままだ。

「おばあちゃん、僕は逃げずに何をすればいい?」

 賞味期限は見ていないけど、フーセンガムとその代金をレジに持ってくる。

「その目を見ればわかる」

 おばあちゃんは代金を受け取らなかった。

「自分が何をすべきかをわかっていそうだ」

 代わりに何かを渡してきた。

「これは麦からだよ。中は見てない。自分で確認しなさい」

 かわいく小さく折りたたまれた紙だった。

 おばあちゃんと別れて駄菓子屋を出て帰路につく。

 ―――自分が何をすべきか。

―――見つける。なんとしても宮本さんを見つける。僕が好きな宮本さんを。

おばあちゃんから貰った紙を広げるとそれを手紙のようでかわいい小学生の字だった。そして、中から一枚の十円玉が入っていて落ちてきた。

「え?」

 思わず手紙の中を凝視した。

『これは借りていたものだ。返すとしよう。 ―――ジープより』

「え?」

 思わず振り返ってしまった。

 ジープは助けが必要なら僕の前に再び現れると言っていた。

 僕は何を期待しているんだ。ジープは杉山麦が生んだ架空の人物だ。この世には存在しない魔術師だ。でも、僕が最初に出会った杉山麦は杉山麦ではなく、ジープだ。そして、宮本さんと駄菓子屋で出会った杉山麦は杉山麦だった。ジープは本当に存在するのか?この十円玉はジープしか知らない。

 変な汗が吹き出てくる。ジープは僕に助けが必要だってことを予見しているのか?だから、この手紙を僕に?

 こんな存在するかどうか不明確なものに頼っていてはダメだ。僕自身の力で何とかしないと。

 気味の悪い手紙と十円玉をポケットにしまって帰路につく。

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