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転生魔術師が君に伝えたいこと  作者: 駿河留守
第一章 転生魔術師はサヨナラを言わない。
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第二節 ボクは魔術師さ。-①

 宮本さんと連絡が取れなくなったのはその日の朝だった。

 いつも通りに学校へ行くために家を出たのを家族は確認していた。電車通学の宮本さんは自転車で駅に向かった。駅の駐輪場に自転車を置く宮本さんを同じクラスの男子が目撃していた。それからやって来た電車に乗ったところまで確認されていた。そこから宮本さんは忽然と姿を消したのだ。

「佐藤!茜をどこにやった!」

 という怒号が教室中に響き渡った。

 無断欠席なんてするような子じゃない。真面目で明るい子だ。誰かに恨みを持つような子じゃないし、誰かにいじめられていて学校に行きたくないとそんな悩みを抱えているようにも見えなかった。強いて言うなら最近親友の早見さんと関係がギクシャクしていた。でも、それは一時的なものに僕は感じた。

 ケンカをして口を利いていなかったけど、そのうち元に戻るだろうとお互いに気にしているようには見えなかった。深刻な問題には見えない。実際、連絡が取れない宮本さんをここまで真摯になって心配している様子を見ればなおさらだ。

「あ、あのさ、僕が宮本さんがどこに行ったかなんて知るはずもないって」

「お前以外にあり得ない!茜に何を吹き込んだ!この人殺し!」

 その怒号に周りのみんなが距離を置く。

 僕は人を病院送りにするような危険な人物だってみんな知っている。そんな僕に因縁を付けるような強い発言をする早見さん。いつ僕が爆発するか全員がおびえていたけど、目の前の早見さんだけは違った。自分のことなんてどうなってもいい。大好きな宮本さんのことを第一に考えた自己犠牲。

「最近、茜といっしょに帰ってたでしょ。どこに行ってたのよ?」

 僕に噛み付くような視線から目を逸らさない。ボクシングをやっていたせいか、人に睨まれても動じない。

「そうだね。最近はいっしょに帰ってたね」

「どこに行ってたのよ!」

 強く机を叩くとその衝撃で中の筆箱や教科書が流れ落ちる。

 ここで僕が宮本さんといっしょに通っていた駄菓子屋のことと杉山麦のことを言っていいのか悩んだ。もしも、僕が宮本さんなら―――。

「それは言えない」

 この頭に血が上った状態の早見さんと杉山麦を会わせるわけにはいかないって思うはず。たぶん、宮本さんも同じことを思うはずだ。

「答えなさいよ!昨日まで普通だったのよ!確かに最近ケンカしてちょっとギクシャクしてたけど、いつもの茜だったのよ!普段の茜だったのよ!学校をサボるとか考えるような子じゃないのよ!」

 僕もそう思うよ。

「私たちに何も言わず学校に来ない理由があるとすれば、お前しかいないのよ!佐藤!もう一度聞くわ!茜と昨日!どこに行ってたのよ!」

 こんな状態の早見さんを駄菓子屋のことを言ったら怒鳴りに殴りこみに行ってしまいそうだ。

「それは言えない」

 同じ答えを返した。

 カッとなった早見さんは平手で僕の頬を思い切り殴った。パチンという音が教室中に広まって悲鳴が上がった。早見さんが手を出したことにじゃない。僕が暴走するのではないかっていう恐怖からの悲鳴だ。

 頬はジンジンと痛んだ。誰かのことを思った攻撃ほど重いものはない。

 早見さんにとって宮本さんはとても大切な存在だった。その宮本さんが消息を絶った。

 思わず手が出てしまったことへの驚きとどれだけ怒りをぶつけても何も情報が出てこないことへの焦りからか、いつも眉間にしわを寄せて強気で僕には不機嫌な早見さんが始めて僕に見せた表情。一粒の涙がこぼれた。

「ふざけるな…。答えなさいよ」

 再び僕を平手で叩いたけど、力はまったく入ってなかった。

「茜には夢があるのよ」

 三度目は力なく平手で僕を叩く。

「それに向かって一生懸命なのよ」

 また、力なく平手で叩く。

「お前やあたしとは違うのよ」

 力なく叩く。

「そのくせ、自分よりも他人のことばっかり心配するのよ」

 今度は平手が僕に届かなかった。

「あたしのこととかお前のこととか正直気にしなくてもいいのよ。茜は自分の夢のために真っ直ぐ歩いていればいいのよ。あたしたちみたいなゴミにいちいち気を取られる必要なんてないのよ」

「…早見さん」

「茜のことだからどこかで人助けでもしているのかもしれない。だったら、何で連絡が取れないのよ?」

 その場で泣き崩れる。

「ケンカをしたのよ。お前のことでよ。教えなさいよ。知ってること全部!」

 さすがに心配になって周りの女子たちが早見さんの元によって来て無理矢理引きずりながら早見さんを僕から引き離す。

 早見さんが宮本さんのことが大好きだってことは知ってる。宮本さんのことだから誰か困った人を助けているせいで連絡が出来ないのかもしれない。それは僕にもわかる。でも、早見さんが心配している理由は危険な僕と最後に会っていたこと以外にもあった。

 泣き崩れながら最後に僕に言い放った。

「お前はあたしに恨みでもあるのか!巴もなのよ…。巴もおとといからずっと連絡が取れないのよ!家にも帰っていないのよ!茜もなの?ねぇ!お前は何か知らないのか!言えないじゃなくて教えなさいよ!」

 だけど、それ以上会話することを周りのみんなが許さなかった。

 間に割ってきたのは昨日学校を休んでいた安村さんだった。茶髪のボブヘアーのふわふわ系の丸顔のかわいらしい女の子。そんな子が僕をまるでゴミを見ているかのような目で見下す。

「佐藤が宮本さんに何かしたわけ?」

「してないよ!」

「じゃあ、なんで昨日いっしょに帰って何も言わないわけ?」

「そ、それは…」

「言えないようなことをしたからじゃないの?」

「してない!してない!」

 小学生の女の子といっしょに遊んでいただけだ。

「男ってみんな獣よね」

 安村さんはクラスで発言力が強くて影響力が強い。要するにクラスの中心人物と言ってもいい。人望も厚いし、常に部下みたいにたくさんの女子を連れまわしている。正直、あまり好きじゃない。

 そんな影響力の強い安村さんが言ってしまったことは事実じゃなくても事実みたいに僕のイメージとして植え付いてしまう。

「違うから!僕は宮本さんに何もしてないから!」

「じゃあ、何をしたのよ!言ってみなさい!」

 早見さんよりも厄介な相手に絡まれた。

 と思ったときだ。

「お前たち!何をしている!」

 口論になっていることを聞きつけた先生が教室に飛び込んできた。

 安村さんは舌打ちをすると僕から離れて行った。

 教室中から僕に刺さる視線は痛いもので体中に穴が空いてしまいそうだった。

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