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転生魔術師が君に伝えたいこと  作者: 駿河留守
第一章 転生魔術師はサヨナラを言わない。
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第一節 我輩は魔術師である。#②

「山岸巴さんっていうんっすね。けっこう好みだったんっすけど」

「だから何?」

 誰もいない消毒の独特の臭いが広がる保健室。窓には鍵がかかっていてカーテンも閉められている。外から中の様子を窺うことはできない。唯一の扉も鍵がかけられていて窓もすりガラスで中の様子は見えない。隙間から夕焼けのオレンジ色の光が差し込んでいる。その光が照らしているのは床に口元から血が垂らしてぐったりと横たわっているおっとりとした優しいお姉さんタイプの女子生徒。動かなくなった女子生徒のポケットから安村さんが取り出した生と手帳には山岸巴と書かれていた。首には誰かにものすごい力で絞められた跡があった。

 黒髪ポニーテールの少女の女子生徒、新海さんは口元を保健室にあってティッシュで吹く。

「けっこう、いい味がしたわ」

「お!久々の収穫っすね!」

「もう、死んじゃってるけど」

「何してるんっすか!」

 その会話は明らかに命を軽視するものだ。

「でも、これで大体の傾向がわかってきたわね」

「傾向っすか?」

「そうよ。君はちゃんと考えて動いてる?」

「もちろんっすよ!」

 自信満々に即答したが、絶対に考えていない奴の返事の仕方だった。それを察した新海さんはため息をついた。

「私たちが今まで調査を行った人間を上げてみなさい」

 そういうと安村さんは手のひらを広げて上を見る。

「えっと、新海さんと同じクラスの田代さんとその彼氏の月嶋くん、目の前の二年生の山岸さん。隣の学校にいた小学五年生の美馬さんと小学三年生の太田くん。その隣の学校にいた中学二年の鈴村くんと病院のナースの島田さん。確か年齢は二十歳だったっすね。計七人っすね」

「新海さんと安村さんを合わせて九人ね」

「そういえば、そうでしたね。忘れてたっす」

 安村さんは手のひらを動かなくなった山岸さんに向けると田代さんと同様に水分が抜けてぱさぱさになると焦げ始めてミイラ化して灰となって消えた。一仕事終えたように一息入れた安村さんはベッドに座ってスマホを取り出す。

「どうしたの?」

「いや~、この子けっこう人脈広いみたいでこうしてる間にもめっちゃ連絡が入ってくるんっすよね」

「私もそうみたいね」

 新海さんもスマホを取り出すが、得に返信せずポケットに仕舞った。

「どうするっすか?調査を続けますか?続けるなら安村さんの人脈を使ってまた人を誘い出すっすよ」

「そうね…もう一押しで確信が持てそうなのよね」

 と手をあごにおいて考える新海さん。

「そういえば、傾向がわかってきたってどういうことっすか?」

 新海さんは呆れた表情をする。

「君はバカか?」

「バカかもしれないっす」

 どっちだよってツッコミたくなる。

 新海さんは安村さんのバカさ加減をわかっているようでため息をついて傾向について説明を始める。

「今まで私は確認してきた人間の味をちゃんと覚えているかい?」

「覚えてるっす!田代さんは薄い、月嶋くんも薄い。美馬さんは少し味がしたけど、太田くんは薄かったっす。鈴村くんも薄かったっすね。島田さんに関して味がしなかった。で、山岸さんは味がしたって感じっすかね。後は新海さんと安村さんはちゃんと味がした。これで傾向がわかるんっすか?」

「この周辺の施設、小学校と中学校と高校と病院。それ以外にも駅とショッピングモールやマンションがあるわ。味がしたのはこの高校の生徒と隣接する小学校の生徒。この高校から少し離れた中学校と病院にいた人間はほぼ味がしなかった。おそらくそれ以上離れるとさらに味がしなくなる可能性がある」

「なるほどっす」

「しかも、高校の中でも味がする人間にも傾向がある。私は三年生だけど、山岸さんは二年生で、君も二年生だ」

「つまり、二年生に集中してるってことっすか?味がする人間が?」

「後二年生でひとりだけでも調査すれば、私たちの任務も方向性がついてくる」

「そうっすね。やっと進んだって感じっすね」

 スマホを操作する安村さん。

「なら、善は急げっすよ」

 操作して見せた画面に映っている三人の女子生徒。仲良く腕を組みながら笑顔でピースサインを送っている。ひとりは山岸さんだ。

「この子達は?」

「山岸さんの友達っすよ。こっちの背の高い子が早見さんで、小さい方が宮本さんっす。山岸さんに近い人間っすけど」

「調査対象にするにはいいわね」

 と笑みを浮かべる。

「呼べる?」

「任せるっす!」

 とスマホを操作する。

「おもしろくなってきたわね」

「そうっすね」

 不敵な笑みを浮かべるふたり。

 静かな保健室に漂う雰囲気はどこか居心地が悪くて重い。その雰囲気を醸し出しているのが見た目は至って普通の女子高生だ。これから始まろうとしていることを予期しているかのように夕焼けのオレンジ色の光が消えて保健室が闇に包まれる。

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