6、対話
「ふふ、待ちかねましたわ。さぁ、プラモバトルとまいりましょう!」
翌日の放課後、ランナとパティは、机の上にプラボックスを置いて向かい合っていた。
「プラモバトルか……初めてだけど、リル、やるわよ。」
「う、うん……頑張るね。」
リルは初めてのバトルを前に、緊張している様子だ。
「二人とも、がんば。」
机の横にはドーラが座って二人を見ている。
二人は、プラボックスを繋ごうとガチャガチャと弄っていた。
「えっと、どうするの、これ?」
「えっとですね、ここを繋ぎまして、アプリのココのボタンを……」
ランナは機械があまり得意ではないので、少し苦戦しているようだった。
「リルちゃん、何か心配事があるのですか?」
バトルの準備をする少女たちの傍らで、ドルチェがリルに話しかける。
「え?ど、どうして?」
「いえ、杞憂ならいいのですけど。でも、表情が沈んでいるようだったのです。」
物静かなドーラのバディを務めるドルチェは、普段から主人のわずかな表情を読み取っているため、人の表情の機微には敏感であった。
「出会ったばかりだからですかね?リルちゃんも、ランナさんも、なんだか壁があるように感じるのです。」
「あ、うん、そう。まだ出会ったばっかりで、接し方が分からなくって。」
マスターのランナ同様、リルもまた、他人に弱みを見せない質であった。
しかし、そんな彼女でも、一昨日の出来事は衝撃的であった。隠しきれない疲れと不安が彼女の表情に出ていた。
「そうなのですか。これから、いっぱいお話しして、思い出を作っていくといいのです。」
ふと、リルは改めてドルチェを見た。
彼女のドレスはドーラの手作りだという。衣装を作ってもらえるほど仲がいいなら、何か参考になるかもしれない。
「ねぇ、ドルチェって、どういう風にドーラちゃんと出会ったの?」
「出会いですか?そうですね……目が覚めた私を出迎えたのは、ドーラ様の満面の笑みだったのです。」
「満面の笑み……」
リルはランナのアプリの操作を手助けしているドーラをちらりと見るが、物静かな彼女からは想像もできない。ドルチェだけに見せる顔があるのだろうか?
「ドーラ様は、ご自分の作ったお洋服を着てくれる人形が欲しかったのです。自分の服を着て、遊んでくれる相手が。」
「それで、プラモを?」
「ええ、装甲の無いプレーンの私は、服を着せるのに最適だったのです。」
プレーン、その言葉に、リルは一昨日の彼女のことを思い出した。
彼女とはあれから会っていない。どうやら、兄に引き取られたようだということは分かったが、ランナが兄と険悪なので、彼らの持ち物であるプラモロイド達も会う機会が無かったのだ。
「あなた、プレーンなの?」
「ええ、真っ新な私を、ドーラ様が染め上げてくれたのです。私はドーラ様だけの人形なのです。初めてドーラ様の洋服を着た自分を鏡で見た時、私、思ったのです。ああ、私にはこの人に着飾ってもらうのが、至上の喜びなのだと。」
ドルチェはうっとりとドレスの裾を持ち上げて、くるりと回って見せた。
「ドーラ様は、私の自慢のマスターなのです。」
そう話すドルチェの顔は、とても誇らしげだった。
あのプレーンの彼女もこんな風にマスターと幸せになってほしいと、リルは願った。
「へぇ……愛されてるんだね、ドルチェって。」
「勿論……リルちゃんは、違うのですか?」
ランナは、プラモロイドと友達になるということを拒絶しているようだった。自分は、本当に彼女に必要とされているのか、一昨日のことがあってから、リルがずっと不安に思っていた。
リルが口を開こうとした時、頭上からお呼びがかかった。
「リル、準備できたわよ。早くいらっしゃい。」
その声に、リルは話を切り上げてランナの下に戻る。
酷いことを言っていたランナだけれども、リルにとっては初めてのマスターである。それになんだか、あの時のランナはとても寂しそうに、リルには見えていた。。