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2、旧友

「ほぉー、天下の協片かながた チギルがまた、随分可愛らしい趣味じゃん?」


 レジの方からエプロンを付けた少年が囃し立てる。


「うるせぇ、そっちこそ、あの元気坊主の春間しゅんま 晴人ハルトがエプロン付けて真面目にバイトかよ。」


 パーツを物色していたチギルが、レジまでずんずん歩いて顔を赤くして言い返す。

 何人かの少女に混じって髪の毛や装飾パーツのコーナーにいる彼の姿は、ひどくミスマッチであった。


「ハハハ高校生になったんだ。プラモ代一杯稼がなきゃな。でも、どういう風の吹きまわしだよ、お前が美少女プラモなんて。」

「これは妹のためだよ。あいつ、自分で作れずに泣きついてきたんだ。お兄ちゃん助けてーって。」


 仕方ないというような口調だが、パーツを選ぶ彼はとても楽しそうに、ハルトには見えた。


「ふーん、ランナちゃんのためねぇ……」

「……なんだよ、なんか言いたいことがあるなら言えよ。」


 生暖かい目で見るハルトを、チギルが睨む。


「いや、お前もまた、プラモを楽しむようになったんだなって思うと嬉しくてな。」

「……別に、結構作ってただろう?」


 ハルトがいやいやと手を振る。


「お前最近は戦車とか戦闘機とか、そんな隠居した爺みてえな渋いのばっかりだったじゃん。それがあんなに楽しそうにパーツを選んで、ちょっと安心したね、俺は。」


 それを聞いたチギルは、少し柔らかい表情になった。


「お前にも、そんな繊細なことを考える心があったんだな。」

「ひでぇや。」


 そして、二人して大声で笑った。


「……にしても、可愛く仕上げろとあいつには言われたけどさ、右腕が壊れたバトルクラフトガールズ・プレーンをどうすりゃいいと思う?」


 プラモ作りには少々自信があるチギルだったが、少女向きの作り方などはとんと分からなかった。


「そうだなぁ、顔はプレーンについてるやつでもいいけどな。変えたいなら付属のを弄るよりも、出来合いのばら売りがいいだろうなー。髪の毛とアイカメラも含めて。」

「まぁそうだろうな。」


 プラモの顔を1から仕上げていくには、プラスチックを綺麗に切ったり削ったりする技術が必要だが、生憎そこまで高度なことはチギルには出来ない。

 髪の毛だって、あまり繊細なものはチギルの腕では無理だ。


「で、右腕ねぇ……店で売ってるばら売りもあるぜ、ランナちゃんみたいにぶっ壊した後、残りを売りに来る人もいるからさ。」

「結構いるんだな、まぁ、組んでみて分かったがありゃ結構繊細だ。」


 実際、チギルも何度かはめ込む際にパーツが歪みかける場面があった。これでは妹のことを笑えない。


「あとは、違うプラモの腕を付けちゃうかだな。ロボとか。」

「くっつくのか?」


 ミキシングや改造などといって、ロボット系のプラモ同士のパーツを組み合わせたことはあった。

 だが、今回組むのは細い少女のプラモだ。果たして逞しい機械の腕がくっつくものだろうか?

 チギルの疑問に答えるため、ハルトはスマホの画面を指し示した。


「いや、ネットにも結構やってる奴いるぜ?」


 上げられている改造プラモの写真には確かに、無骨な手足や装甲を付けた少女たちがいる。


「何でもガールズはABSがフレキシブルでどんなものでも繋がるとか何とか……まぁ、余ってる腕があるなら、つけるのもいいだろうな。」

「違うプラモのパーツか……」


 ハルトが慌てて口を抑える。


「あ、けど、お前最近ロボ組んでないもんなぁ。ごめんな。」


 チギルは首を振った。


「いいや、ありがとう。……俺もそろそろ、前に進まなきゃな……これとこれとこれ、もらうぞ。」


 チギルは髪の毛と顔面パーツ、アイカメラをレジに置いた。


「はい、毎度あり……また今度、遊ぼうぜ。昔みたいにさ。」

「ああ。じゃあな。」


 家に帰ると彼は、早速頭部のパーツを組みかえ始めた。

 核となる電子部品にまず緑の瞳を持つアイカメラをセットする。その上から内部CPU部品と接続するように大きく目の位置に穴の開いた顔パーツを乗せると、可愛らしい少女の顔が出来た。


 頭頂部から後頭部にかけてのジョイントに合わせて、金色の髪の毛パーツをセットする。ゆったりした髪を肩のあたりで切りそろえた髪型だ。

 そしてその完成した頭部パーツを胴体に乗せる。


 右腕の無い、ぴっちりしたスーツだけの少女が横たわる様に、チギルはやや背徳感と気恥ずかしさを覚えた。せめてもと、布をかぶせてやる

 一旦プレーンを置いておいて、チギルは、机の引き出しから金属製の箱を引っ張り出した。


「久しぶりだな……」


 箱を開けた彼は、寂しげに呟いた。

 箱の中には、緩衝材のように柔らかい布が敷き詰められ、その上に一体のプラモデルが横たわっていた。


 赤と白をメインとしたカラーリングで、緑のクリアパーツがよく目立つ。内部の黒いフレームパーツが外装を引き立てている。

 作りは粗削りで、年月が経ち流石に古びているが、綺麗にメンテナンスされたことが見て取れる。

 全身を軽めの装甲で覆い、それを補うように背中にシールドを背負った機体だが、最たる特徴は両前腕の先に装備したクリアグリーンのブレードだ。腕ほどの長さのあるブレードが、力強い印象を与える。

 しかし、綺麗に手入れされたプラモだが、装甲があちこち欠けたり、傷や損傷が見受けられる。

 中でも、左腕のブレードは先端がバッキリ折れてしまっている。


 あちこちが損傷したプラモだが、その損傷の中でも奇妙な点が一つあった。

 その胸に、ぽっかりと真円の穴が開いているのだ。内部を貫通し、電子基板が見えている。チギルはそのプラモを労わるように撫でた。


「お前の体、使わせてもらうぞ……」


 そういうとチギルは、そのプラモの右肩のジョイントを外した。


「まだ機能が生きていると良いんだがな……」


 内部の機構をメンテナンスし、彼はそれを付属のジョイントパーツを使ってプレーンの右肩に嵌め込んだ。

 ギミックを仕込んだ右腕はガールの胴周りの半分はあり、長さもややアンバランスである。立てるとどうしても腕が垂れ下がってしまう。

 結果として、更に肩関節内部に強化改造を施すこととなり、久しぶりの改造の上、慣れないプラモでネット検索しながらの作業なので、その日はそれで夜更けまでかけてしまった。

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