1、組み立て開始
早速すみません。
2018/3/21に登場人物の呼称が統一されていないのに気付いたので修正しました。
「お兄ちゃん、助けて!」
部屋のドアが勢いよく開け放たれ、短めの髪を揺らしながら箱を持った少女が駆け込んできた。
「てめぇ、ノックも無しにいきなり入ってくる奴があるか!」
自室でネットサーフィンをしていた少年は、イヤホンを外して向き直る。
「お兄ちゃんの部屋相変わらず臭いなぁ、ちゃんと換気してるの?」
少女が、鼻を摘まんで文句を垂れる。
部屋が臭いのは昔からだ、文句を垂れるくらいなら入って来るなと、少年は心の中で悪態をついた。
「全く、何の用だよ、ランナ。」
面倒そうな少年に対して、少女は悪びれず、持っていた箱を広げる。
「それは……プラモか?作りかけの。」
「そう、アタシじゃうまく作れなくって。」
少女は箱の蓋を少年に向けて見せた。
「バトルクラフトガールズ……最近流行りの、アレか。」
バトルクラフトガールズとは、少し前に登場した、武器を纏った美少女のプラモデルだ。
元々は既存のロボや戦闘用の乗り物をモチーフにした大人向けものが多かったが、最近では魔法少女などのより可愛らしい女児向けのモチーフも増えている。
「最近学校で流行っているから買ったんだけど、よくわかんなくってさ……お兄ちゃんプラモ作るの上手いでしょ?よく飛行機とか戦車とか作ってるじゃない。同じようにちゃちゃっと仕上げちゃってよ。」
小学4年生になった蘭奈は、クラスでの流行に敏感な年ごろなのだろう。流行りものを勢いで買ったはいいが持て余してしまったらしい。最近のプラモデルは、ちょっとした電気の工作も必要で、女子小学生には難しいのも事実だ。
「お前簡単に言うけどな、プラモ作るのだって楽じゃねえんだぞ、まして人型なんて……」
頭をボリボリ掻く少年に、ランナが箱を押し付ける。
「だからお兄ちゃんに頼むんじゃない!早くしないとみんなに乗り遅れちゃうの。早くしてねっ。」
勝手なことを言って、ランナは帰っていった。
「全く……」
残されたのは、少年とプラモデルの箱のみだ。
「……人型を作るのなんて、何年ぶりだろうな……」
彼は棚に飾られた戦車や戦闘機のプラモデルを見て独り言ちた。
まぁ、久しぶりに兄の凄いところを見せておくのも悪くないと、彼は妹のために一働きすることにした。
箱の中を見て、まず視界に飛び込む腕だけのパーツに、やや新鮮な不気味さと懐かしさを覚えつつ、中身を取り出し……
彼はまず妹の部屋に駆け込んだ。
「ちょっとお兄ちゃん!?ノックぐらいしてよ!」
驚いて椅子から転げそうになる彼女を無視して、少年が叫ぶ。
「てめぇ右腕ぶっ壊れてるんじゃねえか!?」
彼が手に持っているパーツは、プラモの右腕部分なのだが、接合部が折れ、ダメになってしまっている。
ランナは悪びれずに笑いながら、釈明した。
「いや~、まず腕からやってみようとしたら、上手くはまんなくって……」
「そりゃ、こんな雑な千切り方したら引っかかるだろうよ。」
腕の残骸とパーツが繋がっていたランナーの跡を見る限り、関節の中身のパーツまで適当に手でちぎって取っている。
嵌めようとした際にそれが内部で引っ掛かり、押し込もうと無理に力を加えた結果見事に折れたらしい。
「てめぇの馬鹿力で押し込んだらどうなるか考えろよ!」
「誰が馬鹿力よ!……まぁ、お兄ちゃんならなんかこう、どうにかできるんじゃない?」
酷く無責任で無頓着なセリフである。
「ほら、いつまで居るのよ、はやく出てって!そして可愛く仕上げてねっ。」
小4とは思えない力に、痩せ型の少年はあえなく部屋から追い出されてしまった。
「全く、軽々しく言ってくれる……」
部屋に戻った彼は、ため息をつくと、改めて箱の中身を広げる。
この壊れた腕を修理するのは骨が折れる。まして扱いになれていない素材だ。彼は一先ずこれを後回しにすることにした。
「残りを先に作っちまうか……」
棚から愛用の工具を取り出し、説明書を読みこみながら具合を確かめる。
中の電子部品と外の肌のパーツを組み合わせ、接続していく。
「まったく、なんでこんなにボディラインがリアルなんだよ……」
女性らしい体のラインを再現したパーツを握っていることに恥ずかしさを覚えつつ、彼はあらかたのパーツを組み終えた。
この体のパーツ白いインナーのような塗装が一部に施された胴体と、肌色一色の手足で構成された人形のような格好だ。
綺麗なラインに満足そうに一人うっとりしていた少年だが、急に渋面を作った。
「あいつ、適当に安いの買ってきやがったな……まぁ、小4の小遣いじゃしょうがないが……」
ランナが買ってきたのは、武装もアクセサリも一切入っていない、素体だけのキット、プレーンだ。
セット内容は全身のパーツ一式に手足や胸部、臀部などの体型別のオプションパーツ。そして異種のプラモと接続するための関節アタッチメントパーツだ。
決して悪いセット内容ではないどころか、カスタム性抜群の優良セットである。だがやはり、複雑なギミックや武器パーツが無いとやはり値段が安くなるのだ。そして商品単体でのプレイバリューが低いのは欠点と言える。
本来は拘りのあるモデラーが自分で改造するためのもので、顔は灰白色の瞳であまり特徴のない、微改造用の顔と、アイカメラと発声機のための穴だけ開いた自作用ののっぺらぼうの二種類ある。
髪の毛も同様で、真っ白くて短いパーツと、削って形を作るためのパーツの二種類がある。
一応形にはなるが、このままだとかなり個性が薄くて寂しい。
そんなことを思っていると、ランナがいきなり部屋に入ってきた。
「お兄ちゃん、どのくらいで出来そう?」
「どぉわっとびっくりしたぁっ!」
別にやましいことはしていないのだけれど、裸同然の美少女プラモを持っているのを見られるとものすごく焦る。
「体は出来たけど、このキットは装備がないぞ。」
プレーンのキット内容説明をすると、ランナは少し申し訳なさそうになった。
「あー、ごめん、それは知らなかったわ……」
「どーするね?」
ランナは少し考え込んで、言った。
「アタシじゃプラモの事わかんないし……しょーが無いからなけなしのお小遣いをお兄ちゃんに投資して任せるよ。」
そしてお金の話やデザインについて、暫く話をした。
「とりあえずデザインはお兄ちゃんに任せるね。可愛くね。」
「また難しいことを……取り合えず、全身の装備を整えるのに、あと4、5日はかかるな。」
少年はプラモの改造作業が久しぶりだし、色々買いに行く手間もある。すぐに完成とはいかないのだ。
「ふぁ、もうこんな時間……んじゃそういうことで、よろしくねー、おやすみー。」
「ああ、お休み。」
ランナとの話を終えて、彼は大きく伸びをした。
今日はもう遅いし、出来ることも無い。
「明日、帰りに模型屋にでも行くか。」