フラグメント
いつもの朝の風景だ。
人によっては様々だろう。この時間帯であれば、例えば朝食。
ホットミルクのかかったオートミールだと身体全体を温めておくのも良い。この季節だ、大事な事の1つだろう。
焼きたてのトーストにバターを塗って急いで平らげた後は、しっかりと厚着をして遅刻をしないうちに急いで家を出る。そんな忙しい朝食の風景だって良い。
僅かに冷たさの混じる風が頰に辺り
口から漏れる息には白色が混じるこの季節には、いつもの朝の風景がありふれている。
いつもの、朝の風景だ。
時刻は午前7時と2分。
車から降りた私は、今、一軒のアパートの前にいる。
その外壁は薄水色のペンキで彩られ、目立たず、かといって地味とも言えないそのアパートは、街の風景の一部としてしっかり機能していた。
石造建築のアパートとはいえ、中身はだいぶ古いものだ。木造廊下のあちこちは軋み、その年季を感じさせる。
階段の一段一段がしっかりと自己主張を行い、しかしその頑丈さもちゃんと確認できる。
いつもの、朝の風景だ。
最上階フロアに着いた所でポケットから革手袋を取り出し、装着をする。
木造の床はいつの間にか材質が変わり、足音はなんとも高級そうな、赤く質の良いカーペットに吸い込まれていた。
壁は年季を感じさせない程に白く立派な壁紙だ。ランプの装飾1つとっても品がある。
『石造の外壁はカモフラージュ』
忍ばせていた銃を取り出し、弾丸を装填し、サイレンサーを取り付ける。
既に立派な木造ドアの前に立ち、後はその時を待つだけ。
いつもの、朝の、風景だ。
ポケットから端末を取り出し、何処かへコール。
ドアの向こうからのコール音。動く気配。
コール音。クラシック。木造のドア。揺れるランプの光。白い壁。コール音。カーペット。漏れる息。冷たい空気。黒い銃。風景。椅子に座った時の軋みと振動。止まるコール音。革手袋。風景。
"はい、こちら"
指。トリガー。引き金。木造のドア。
端末の向こうから聞こえる断末魔に近い呻き声。カーペット。更に数発。止む呻き声。ランプ。白い息。ドアに鍵はかかっていない。回るドアノブ。開く木造のドア。鉄の匂い。
"標的"の死体。
いつもの、朝の、風景だ。
カーペット。ランプ。高級。カモフラージュ。弾丸。品。階段の軋み。革手袋。冷たい空気。風景。一段一段。材質。アパート。薄水色。コール音。主張。コール音。コール音コール音コール音コール音コール音。車の、中。
『いつまで続けるつもりなんだ』
後部座席に座る"標的"。クラシック。材質。
『お前自身も分かっているんだろう』
窪んだ目。顔と腹に空いた銃創。階段の軋み。冷たい空気。空気。革手袋。ランプ。
『解放なんてされるはずがない。ずっとだ。』
喋る死体。冷たい空気。品。カモフラージュ。
いつもの、朝の、風景、だ。