3 これからの方針
初期設定はこの回で終わりです
宿に入るとすぐにカウンターがあり、赤毛のそばかすの浮いた女の子が立っていた。眼鏡をかければ図書委員に推薦したい。
「お泊りですか」
「そうだ」
透き通るような声に俺はぶっきらぼうに答える。
「朝と夕飯付きで300Gです。何泊されますか」
「どれくらい泊まるかわからないので、とりあえずこれで足りなくなったら言ってくれ」
と金貨を1枚取り出してテーブルの上に置く。1月は泊まれる額だが庶民の平均月収と同じらしいから、宿代は安くはないがそう高いものでもない。東京でビジネスホテルに泊まれば素泊まりでもこの倍以上取られる。
「わかりました。それではこれに記入してください」
渡された宿帳に名前と職業を書く。それだけでいいようだ。
「アオヤマ様ですね。部屋は2階の奥です。出かけるときは鍵を預けてください。朝食は6時から9時まで、夕食も夜の6時から9時までです。それではごゆっくり」
「ああ」
短く答え指示された階段へと向かう。手前では人の出入りでうるさそうだから奥なら静かに過ごせるだろう。時間も午前と午後で分かれているようだが一日は24時間なのだろうか?この世界のことに無知なのことに、改めて理解させられた。
部屋に入ると狭いながらも掃除の行き届いた清潔な感じがした。調度品もベッドと小振りの机といす、小さな洋服ダンスと物入れが備えられていた。
前世の発展途上国のホテルのように、ダニやらヤモリやらと同居するのは勘弁だから、それなりに快適に過ごせそうだ。
ベッドに倒れこむように寝転がる。体力的には疲労していないが、異世界初日でいろいろありすぎて精神的に疲れていた。少し眠ろうと目を瞑った瞬間に眠りに落ちていた。
目を覚ますと部屋は真っ暗だった。明かりがほしいので光魔法のライトを唱えようとしたがそこで躊躇してしまう。火魔法で失敗したからだ。
弱い光をとイメージしてライトと念じると、適度な明るさの光の玉が浮かび上がった。
(そうだよなあ魔法はイメージだって先生が言ってた)
先生って誰だよと自分に突っ込みながら部屋を出ると、廊下はランプに火が灯されており暗くはないのだが、前世の蛍光灯に比べたらかなり光量に乏しい。
ライトの魔法がついてきていたので消しておく。
階段を降りるとカウンターに女の子はいない。夕飯の時間は過ぎてしまったのかと思ったが、横にあるドアから騒がしい声が聞こえたので開けてみると、そこは食堂だった。
ドアを閉めてあたりを見回していたら、
「アオヤマ様でしたね。空いてる席に座ってください」
カウンターにいた赤毛の女の子が明るい声で言う。
食堂は8割がた埋まっており、空いていた二人掛けのテーブル席に腰を下ろした。
程なく料理が運ばれてきた。何も注文していないので定食のようだ。
「お待たせしましたアオヤマ様、お酒は別料金になりますがどうなさいます?」
「いや水でいい。それとダイチと呼んでくれないかな、なんだかこそばゆい」
普段から酒を飲む習慣がなかったので水を頼みながらそう言うと、女の子は少し驚いた顔で、
「家名をお持ちなら貴族様ではないんですか?失礼にあたるかと・・・」
「いや俺は遠くから来たんだが、俺の国には貴族はいないし皆家名を持ってるんだ」
「そうなんですかあ、それじゃダイチさんて呼んでいいですか?わたしはジルって言います。平民なので家名はありません」
「それでいいよジル」
ぶっきら棒にならないように答えると、ジルと名乗った女の子はにこりとして厨房に戻った。名前を聞いたら何となく親しみを感じた。
出された料理は野菜の付け合わせが付いた何の肉がわからない焼肉と、野菜の入ったスープにパンだった。肉は豚に似ていて味もしっかりついている。おっさんだった頃では少しくどくて固かったが、少年の体になった今では十分おいしく感じられた。パンもまた固かったが、肉汁やスープに浸して食べればちょうどいい。柔らかいパンを売ったら儲かるかななどと考えながら完食した。
少し量が多いかなと初めは思ったが、15の俺には物足りなかった。前世での高校時代は175㎝52㎏のやせっぽちだったが、運動部に所属していたこともあり3食では足りなかった。朝からどんぶり3倍食べる大食漢ながら全く太らないという、世のお姉さんが聞いたら怒るような食生活だった。
サービスで出してもらった水を飲み、
「コップ借りててもいいかな」
立ち上がりながらジルにそう聞くとうなずいてくれた。
夜喉が渇きそうだったから木でできたコップをもって食堂を後にする。水なら魔法でいくらでも出せそうだが、洪水にならないよう気をつけねばなるまい。
部屋に戻ると再びライトの魔法で明かりを灯した。よく見ると机の上にランプが置いてあるのだが、廊下の状態を見ると心許ないのでそのままにしておく。
ベッドに横になるがよく寝たせいで全く眠くない。時間はわからないが、食堂が開いているのだから9時よりは前であろう。
(さあて明日から何しよう)
暇なので今後の予定を考えることにした。
一応冒険者と言うことになっているが冒険なんてするつもりは毛頭ない。チートなステータスではあるものの、俺tueeeeヒャッハー的な日々を送るつもりはないのだ。
前世でもMMORPGをやっていたが、課金して長時間やりこみトップランカーをひた走るなんてことはなかった。第一社畜の俺にはゲームに費やせる時間が圧倒的になかった。
課金は少しだけで主に生産ばかりしていた。特に採取は放置でできるゲームにはまり、朝出かける前に採取道具を買い込んで放置採取をする。帰ってきたら採取した素材で生産して売り、ゲーム内通かをため込む毎日だった。
休みの日には狩りのクエをこなして少しづつレベルを上げるが上位ランカーを目指してるわけではない。上位の素材があるエリアに安全に行けるとか、ストーリークエに必要なためだけのレベル上げだった。
可愛いので女性キャラにしていたため、ネカマと思われたくないので他人とはほとんど交流はない。クエを進めるためにソロでは倒せないボスを倒す時だけ野良パーティーに加わるが、「よろしく」とか「お疲れ」とか最小限の会話だけで、雑談に積極的に加わるなど皆無だった
ゲームでさえそんなものだから、ファンタジーが現実世界となってしまった今ではなおさらだ。
結局生産職として生きていこうと思うのだが、現実問題として圧倒的に不足しているのがこの世界の常識とか知識であった。他人に聞いて教えてもらうには転生者であることを打ち明けねばならないし、転生者がこの世界でどういう扱いなのかもわからないので危険だ。
どうしたものかとスキルを眺めていたときそれを見つけた。特殊系にあったライブラリである。タップして説明を読むと、この世界のすべての知識を集めたもの、前世世界のすべての知識を集めたものだそうだ。迷わずレベルなしのそれを取得する。スキルポイントは破格の10万だがまだまだ余裕がある。
アクティブになったそれを再びタップすると、
(はじめまして青山大地様。わたしはライブラリ、どんな質問にもお答えします)
脳内にきれいな女性の声が聞こえた。ktkr異世界でまさかのAIだ。
(この世界の知識を、まずこの世界の概要を教えてくれ)
そう念じると、
(それではこちらの資料をお読みください)
別ウィンドウで開いたそれはタブレットのように読むようだ、指でスクロールすると横書きのそれを読み進めることができる。俺は夢中になってそれを読んでいった。
それから3日間食事以外は寝る間も惜しんで、いろいろな質問をしては資料を読み漁っていた。朝夕だけでなく昼飯も別料金で頼めた。さすがに燃費の悪いこの体で飯抜きはつらい。
一日2,3時間の睡眠だったが、おっさんだった時でさえ繁忙期には何日も続けて会社に泊まり込んでいた俺には、これくらいなんともなかった。
3日間だがこの世界の知識を概要ではあるが頭に詰め込むことができた。詳細な知識は必要な時にまた調べればよい。
この世界の常識人になったとすっかり満足した俺だったが、ふと我に返ってみると微妙に臭い。臭いのもとは俺自身だった。3日間風呂にも入らず着の身着のままだ。洗濯しようにも服はこれしかもっていないことに今更ながら気が付いた。
困ったときはスキル先生だ。魔法系で必要ないと思って取らなかった生活魔法があったのを思い出した。タップして説明を見ると、体や身の回りをきれいにする清浄と言うサブスキルがあったので、迷わず生活魔法レベルなしを取得する。
(清浄)
と念じてみるが何が変わったのかよくわからない。髪や顔を触ってみるとべたついていたのが取れてさらさらとした感触である。服の匂いを嗅いでみると全く臭くなく、洗濯したてのような良い匂いだ。
風呂に対する執着はない。毎日入らないと気が済まないというやつは、立派な社畜にはなれないぞと思いながらも情けない気持ちになった。
むしろ社畜時代にこの魔法があったらよかったのに。
さっぱりしたところで眠くなってきた。3日ぶりにまとまった睡眠がとれそうだ。明日のことは明日考えよう。俺はもう立派な常識人になったのだから。
そんなことを思いながら気持ちよく意識を手放した。
次回からストーリーが展開する予定です




