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第1回 『代理』のバイト

コメディーあり、恋愛あり、少しミステリー、少しシリアス。


そんな感じの話にしたいと思っています。

久しぶりに女の子を主人公にしてみました。


気軽に読んでください。

 あの人に会うためならなんだってする。

 大きく深呼吸をして、高宮紗穂(さほ)は目の前の扉のインターフォンを押した。しかし、気合を入れたのに返事がなく、仕方なく何度も何度も押してみると、

「うるせぇっ!!」

 そんな声と共にドアが勢いよく開かれた。あまりにも勢いが良すぎて、紗穂の体にどすっと当たって数メートルぶっ飛ばされた。

「あれ?お客さん?」

 クリーンヒットした腰を押さえながら紗穂は起き上がる。でも、なるべく笑顔で。ここへ来た目的を忘れちゃいけない。

 そうだ。これも自分のため・・・・・

 笑顔でドアを開けた主を見ると、意外にも若そうな青年だった。少し戸惑った表情でこちらを見ている。茶髪で爽やかそうな人だ。

「あー・・・すいません。大丈夫ですか?」

「私を雇ってください!」

 青年の声と紗穂の声はほとんど同時だった。お互いに何を言ったのかわからずに、しばらく目をぱちくりとさせる。しかし、すぐに青年のほうがくるりと180度向きを変えてドアの中に入っていこうとした。

 げっ。慌てて紗穂は片足を突っ込んでそれを止める。

「ちょっと待ってください!雇ってくださいよー!」

「断る。人は足りてるんだ。だいたいここはアンタみたいな女が働くような所じゃないよ」

 爽やかな外見とは裏腹に、青年の言葉には容赦がない。それでも紗穂は目的のためには手段を選ばなかった。足の他に顔をねじ込ませて強引にドアを開けさせる。青年も負けじと閉めようとするが、女相手に本気の力を出せないらしい。最終的には紗穂が勝った。

「面接だけでも受けさせてくださいー!」

「なんでここで働きたいんだよ?」

「そっ・・・・・それは・・・・・・」

「言えないんならこの話はなかったことに」

 そう言ってドアを閉めようとする青年。

「わー!待ってください!言います、言いますから!!」

 ようやく青年がドアを閉める手の力を緩める。そんなふうに改められても、逆に困るんだけどと心の中で思いながら、紗穂はちらりとドアの向こうに広がる窓を見た。

「以前、駅の近くで男の人とぶつかったんです。すごくかっこいい人で・・・・・ちょっと失礼ですけど、後をつけたんです」

「ストーカーだね」

「それで、ここの目の前に立つファミレスに週に2,3度通ってくることがわかって・・・」

「で、ファミレスに行ったが雇ってもらえなかった」

「あぁ、はい。今はバイトを募集してないみたいで、でもあの人に会いたくて・・・駅で待ってたらストーカーみたいだし」

「もうストーカーだろ」

「だから、目の前に立つここならストーカーだと思われないし、彼に会えるなって思ったんです」

「すごい理由だねー」


 その瞬間を紗穂は見逃さなかった。ドアの隙間からびゅんっと部屋の中に入り込む。青年の声が聞こえたような気がしたが、無視して駆けた。そして、大きな窓の向こうの世界を見た。

「わぁぁぁ!特等席だ!」

 向かい側に立つ2階建てのファミレス。この部屋も2階だからちょうど真正面に見える。ファミレスで働けないのなら、もうここしかない。紗穂はすでにここで働く気でいた。

 と、そのときあの人を見つけた。

 しかし、喜びも束の間、後ろからひょいっと襟首を持たれた。

「住居不法侵入で訴えるぞ」

「あの人!私の好きな人です!やっぱかっこいい・・・」

 紗穂が指差したテーブルには、1人の男が座っていた。天然パーマらしきぼさぼさ黒髪のやぼったそうな男。それに加えて眼鏡もかけていて、はっきりと顔が見えない。紗穂の目にはそれがとてもかっこよく見えたが、青年の目には大学を20浪した人生にも世間にも遅れているような男に見えた。

「いつ見てもかっこいいなぁ」

「趣味ワル〜」

「ここからじゃわかんないんですよ。目がホタルイカみたいでいいんです」

「なにソレ?褒めてんの?」

 青年の言葉を無視して、再び紗穂は彼に向き直る。もうここしかないんだ。

「お願いします!雑用でもなんでもやります!だから、私を雇ってください!」

 しばらく彼は窓の向こう側を見ていたが、やがてこちらを向いた。よく見ると、すごくかっこいい顔をしている。女の子にモテモテだろう。

「時給850円、俺の下での手伝い兼雑用で良ければ、なら」

「もちろんです!やらせてください!」

 思ったより待遇がいいし、なにより雇ってもらえたことが嬉しかった。21歳にもなって万歳して喜ぶ紗穂に青年は1つ付け加えた。

「ただし、どんなことがあっても仕事を途中で放り出さないこと。それと、ここで知ったことは他言しないこと。それが条件だ」

「大丈夫です。私、友達にけっこー執念深いとか、秘密主義だって言われるんです」

「その友達、絶対褒めてないよね」

「最後まであきらめないと言ってくださいよ」

「あきらめが悪いとも言うね」

 爽やかなのに意外に毒舌家だ。それでも、あの人に会うためならなんだってするんだ。頑張ってここで働こう。


 翌日から早速バイトをすることになった。

 後でわかったことだが、紗穂が働こうとしていた所は『常盤(ときわ)代理事務所』というらしく、部屋のドアのガラスにそう看板が立っていた。今さらだが、どんな会社なのだろうか。

 がちゃっとドアを開けてみる。何人かの従業員が出迎えてくれると思ったのだが、しかし誰もいない。昨日の青年もいないようだ。

 来たらまずタイムカードを押して。

 昨日青年が言っていたので、紗穂はカードを押しに行く。すると、視界の片隅で急に何かがもぞっと動いて、おもわずぎゃっと叫んでしまった。

「あれ?おはよー」

 爽やかな顔が台無しになるくらい、不機嫌な顔で青年が起き上がった。どうやら床に寝そべっていたらしい。改めてみると、汚い事務所だから少し捜したくらいじゃ床に寝ている人なんて荷物に埋もれて全く見えないことがわかった。

「おはようございます!えっと・・・社長って呼べばいいんですか?」

 同い年くらいの青年に問いかける。自分を勝手に雇ったのだから、それなりに階級は上なのかもしれない。

「あ、そっか。言ってなかったね。社長は今は出張中でいないんだ。残りの従業員も俺以外はみんな社長と一緒。つっても、従業員3人しかいないけど」

「え!?社長に無断でバイトを雇ってもいいんですか?」

「電話で言っておいたから大丈夫だよ」

 そう言って、紗穂から見たらただのごみにしか見えない塊の中からよれたルーズリーフを取り出す。

「一応これに名前、住所、電話番号、生年月日、血液型書いといて」

 血液型はなにか関係があるのだろうか。疑問に思いながらも一通りのことを書き終えて青年に渡す。その爽やかだがなんとなく寝起きで不機嫌そうな顔がみるみる意外そうな顔になる。

「俺より年上なの?21歳、大学3年?見えねー」

「じゃぁ、あなたは年いくつなんですか?」

「19。あ、日生(ひなせ)(あおい)っていいます。よろしく」

 そのとき、日生の笑った顔を初めて見た気がした。笑うとえくぼができそうな頬と優しそうな瞳が印象的だった。紗穂も自然と笑顔になった。

 この人もかっこいいけど、やっぱり1番は天パ王子だね。

 内心で思っていると、突然日生が窓の外の人を指差す。ファミレスの前を歩いている若いサラリーマンだ。

「今からあの人の代わりになってもらうけどー・・・」

「は?」

「論より証拠。実際にやってみるぜ」

 言うやいなや、ぱちんと彼は指を鳴らした。その途端、紗穂の体が急速に前に押されたような気がした。視界がぐるりと反転。思わず目をつむってしまった。そしてー・・・・・・


 そして、気づくと紗穂はファミレスの前に立っていた。

「おーい!どうだー?」

 見上げると、事務所の窓から爽やかな顔が覗いている。あれ?さっきまでそこにいたはずなのに・・・・・っていうか、え?なんでスーツ着てるの?それに男?

 紗穂は体をぱんぱんと叩き、足の間に手が行ったとき、急に後ろから引っ張られたような気がした。


 気づくと、紗穂は事務所の中にいた。目の前には日生がいて、いつのまにか『自分』に戻っていた。

「あれ?あれ?なんで?」

「なんでって・・・・・ここは常磐代理事務所だから」

 けろりと言い放つ日生。紗穂は開いた口がふさがらずに、ぽかんとしてしまった。

 一体何が起こったのだろうか?っていうか、日生は何者なのだろうか?

 ようやくはっとして、慌てて窓の下の若いサラリーマンを見る。彼は何事もなかったかのように歩いている。

「ここは代理事務所だから」

 それは、もう1度繰り返された。

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