表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
21/57

21.「中間試験成績発表」


「櫻井。マジでウチやばいって。この学園って赤点取ると永遠に終わりが見えない補習があるらしいじゃん?」

「そうらしいな。ってか、早乙女。お前試験終わった直後もそんな風に頭抱えていたけど、そんなにやばいのか?」

 今日は六月十六日。三日間の間で累計八科目のテストが行われ今日は既に返却日だった。テストが実施された日は、午後の授業が廃止され、教員は午後の内に次の授業までの間にテスト返却が出来るように取り計らうというのは通例だったようだ。

 早乙女は、その時も試験での出来具合に絶望しているらしく頭を悩ませていた。ちなみに俺はそこまで酷い結果にはなっていないと信じたい。

 さほど得意ではない数学Aに関しては微妙だとは思うが、俺は文系なので文系科目に関しては、ほとんど満足のいく成績を残せそうだった。

 早乙女が絶望に浸り憂鬱な気分を形成している中、前の扉から江藤先生が朝のホームルームに訪れた。

「はーい。みなさん。おはようございますねー。皆さん気になっているでしょうが、今日はテスト返却日ですよー。赤点の人は補習になってしまいからね。頑張ってください」

「……」

 教室の一部からは阿鼻叫喚としてしまっていた。何かこのノリを見ると、中学校時代を思い出すな。まあ、中学は赤点なんてシステムは無いからそこまで慌てている奴も少ない気もしたが……一応はそこが高校と中学の差なのかもしれない。

 今日の授業内容は三十分授業が計八時間。少し変則的にはなるが、そうして一日で全ての科目を返却するようだ。

「マジでもう無理だってー。ねー、櫻井も一科目くらい落としとこうよ」

「……どんな誘導だよ。落としたくねえなら、ちゃんと今後は勉強しとけよ」

「……ええ。マジでしんどいんだけど。……実は櫻井がテスト中にカンニングしていましたとか報告しておくか」

「恐ろしいことを言い出すなよっ!冤罪だっ!ってかそんな冤罪かけられそうになったのは人生で初めてなんですけどっ!?」

「だってそうでもしないとウチの知り合いとかは皆大丈夫そうだからさー」

「わかったわかった。もしも、お前が補習になっても、文系科目は全部教えてやるから」

「マジ?櫻井やるじゃん……えっと……流石変質者っ!」

「未だに俺の扱いは変質者なのかよっ!ってか、そのネタもう二ヶ月前だぞっ!大分時間経過しているけど大丈夫か!?」

 久しぶりにその表現を聞いて俺は何だが懐かしい気分に浸ってしまう。だって、俺が学園から脱出しようとしたことだって丁度二ヶ月前くらいのことだ。……あの時の俺は凄くアブレッシブだったな。

 今じゃあ、すっかりと学園に適応してしまっている。未だに女性に対するトラウマは解消されていないが……ってか、愛莉と柊先輩によって悪化した気もするな。

 結局俺は普通に学園生活を送っているだけだった。俺が学園から脱出しようという意欲もかなり薄れてしまっていた。今じゃリスクを負ってまでは学園の外に出たくはないというのが正直なところだ。

 『平穏な日常』。残念ながらそれが俺の実直な学園生活の感想だった。

 しかし、久しぶりに恭平に会いたいっていう願望はあったりするな。やはり、俺はどこまでも男色家だった。……やっぱ、男は恋しいぜ。




「はーい。それじゃあ、成績表を渡して行きますね。阿部さん―~」

 それから、三日後。どうやら学園側のデータ入力が終了したようで、いよいよ各生徒の成績が確定したようだ。そしてそれを書面化した成績表には自分が学年やクラスで何位なのか、学内偏差値はどの程度なのか等、詳しくデータ解析が為されているらしい。

「次は……三枝さん」

 どうやら三枝の番ようだ。三枝は颯爽と教壇へと近づき、江藤先生から成績表を受け取った。そして、江藤先生はにっこりとした笑みのままで三枝にコメントをする。

「流石三枝さんね。中等部時代から引き続いて好成績を維持しているわね。これからもが何ばってねー」

「はい。ありがとうございます」

「なあ、三枝の成績はどんなもんなんだ?」

「僕は今回はそれなりというところだろうね」

 800点中785点。クラス三位で学年5位という成績だった。

「おおっ!めっちゃ凄いじゃねえかっ!」

「いやいや。まだまだ上がいるってことだよ。それに花京院さんにも負けているしね」

「おっほほほほほほほっ!私は二位ですの。三枝さん。あなたでは私に勝てませんのよ。おっほほほほほっ!」

 相変わらず傲岸不遜な態度で成績表を俺にぴらぴらと見せてきた。挑発を受けた三枝であったが、「彼女にはまだまだ勝てないね」と素直に関心しているようだ。

 ……試合に勝っても勝負には負けているぞ花京院。ってか、三枝がマジで大人の対応してて凄いな。やっぱ、俺も三枝の人間としての高潔さには勝てる気がしないわマジで。

「それじゃあ……次は早乙女さん」

 先ほどとはうって変わって嘆息をつき、残念そうにしながら早乙女は成績表を取りに行く。

「うーん。もうちょっと頑張りましょうね……せめて、赤点とらないようにね」

「うっそ。でも、ウチも学年最下位じゃないとか凄くない?櫻井ちょっと見てみ。マジでびっくりするからっ!」

「おお……って話が低レベル過ぎてついていけねえよっ!でも最下位回避おめでとな早乙女」

 早乙女の成績表には、クラスは最下位ではあるが、学年は下から5番目のようだ。……八教科合計が800点中、298点。一教科あたり37点。

 お前は本当によくこの学園に入学することが出来たなと驚いてしまう。既にテスト返却が終わった時点で早乙女は強制的に補習を受けさせられる日々が連続しているようだ。……反面教師にはしてやるからな早乙女。

「次は……櫻井君ね」

「はい」

 俺は席から立ち上がり、教壇の方へと近寄る。既にこのクラス内の女子生徒は唯一の男子生徒である俺にほとんど注目してこないようだ。

 やはり、人間慣れてしまえば、多少のことなど気にしなくなる生き物なのだろう。

「櫻井君は……えっと……まずまずな成績だね。それなりに勉強しているようだから、今後も伸びしろがあるだろうから頑張ってね」

「はい」

 俺は成績表を受け取り、自分の順位を見ながらひとまず安心して席に戻る。

「……やっぱ、櫻井はそれなりに勉強できんだよね……」

「普通だよ普通。花京院や三枝、あとは二宮ほど出来ないし、お前ほど悪くもないって感じだよ」

 俺の今回の成績は800点中562点。一教科あたり70点だった。理数系の科目さえ足を引っ張ることが無ければ六百点に登ることも可能だっただろう。まだまだこれから頑張ろうと思わせるそんな成績だった。

 そして、俺の隣では酷く緊張した面持ちの二宮が座っていた。二宮が緊張しているのは珍しいが、二宮の気持ちは痛い程察することが出来ていた。

 二宮の話によれば学年一位になれば、学園ポイントを二万支給されるようだ。しかし二位になってしまえば、支給額は激減し五千。四分の一となってしまう。それでは、今回のテストによって一日外出権を獲得することは出来なくなってしまうのだ。

 俺は緊張した面持ちの二宮が少しでもリラックスすることが出来るようにと、軽く声をかける。

「大丈夫だよ二宮。お前はこれまでに血反吐吐きながら勉強してきただろう?そんな努力が水の泡になってたまるかよ」

 二宮は体育の一件以来も相変わらず懸命な勉強を続けていた。勿論、身体に負担が掛からない範囲でだ。

 しかしそうは言っても、俺が見ている範囲では確実にずっと勉強していたのは間違いないだろう。放課後でも一日七時間。今までは睡眠時間を削って9時間はやっていたらしい。流石にそれでは身体に負担が掛かってしまうので適度に休みように告げたが。

「それに花京院で学年二位なんだからさ。お前が負ける筈が無い」

「ちょっとお待ちなさいな。それは流石に聞き捨てなりませんわよっ!」

「……ええ」

 俺の言葉が響いてくれたのか少しだけ二宮の表情は和らいだ気がしたのだ。そんな彼女の和らぐ表情に俺の顔もきっと和らいだだろう。

「えー、それでは二宮さん。……」

 甘ったるい声を出しながら江藤先生は呼名をした。

「はい……」

 二宮は席を立ちあがり、成績表を受け取りに行く。そして、江藤先生は空気を読んでいるのか読んでいないのかは定かではないがその結果を一言感想と共に述べる。


「二宮さん。今回も良く頑張りましたねぇー。学年一位おめでとうございますっ!」


「おっしゃあぁああああっ!」

 気づけば俺は席を立ちあがり、雄たけびを上げていた。別段、二宮が一位を取ったところで俺には何のメリットも無い。

 だけど……それでも嬉しかった。たとえ俺に何のメリットが無いとしても……それでも嬉しいんだ。俺は彼女の努力の片鱗を僅かながらでも理解しているつもりだ。俺自身が直接頑張ったわけではないが……それでも友人である二宮の悲願が果たされることは嬉しいことこの上なかった。

 クラス中も江藤先生の発言を聞き入れて、「おおー」という称賛一色であった。まあ、早乙女は「補習がない人が憎いっ!」と呟き、花京院は「見てらっしゃい。次は負けませんわよっ!」と咆哮した。ってか花京院……お前、それ絶対次も勝てないフラグだろ。

 二宮は成績表を大事そうに抱えながら、席に戻って来る。そして俺はそんな彼女に言ってやったのだ。

「良かったな二宮。……これでお前の会いたい人に会えるんだろう?」

「……ええ。本当にありがとう……櫻井君」

 彼女は小さく頷き肯定する。……二宮が予てより望んでいた一日外出権。話によれば彼女は中等部時代から誘惑の多い学園ポイントをほとんど消費することなく現在に至るのだ。娯楽や趣味などをひたすらに我慢し、身を焦がしながらようやくと百万ポイントという途方もない数値に至ったのだ。

 全ては一人の人物との邂逅のため。俺はここまで努力と研鑽を積み重ねた二宮に心の底から敬意の念を抱き称賛する。

 それにしてもよ……やっぱり努力は報われるんだな。いつもより表情が豊かであり心なしか普通の女子生徒のような彼女を見て俺はそんな所感を抱いたのだった。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ