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11.「学園脱出計画の始まり」

「だぁああああああああああああああああっ!クソっ!男男男男男男っ!ガチムチでもショタでも何でもいい。俺に男をくださいぃいいいいいいいいいいっ!恭平ぃいいいいいいいいいいいいいいっ!」

 理事長室を訪れた翌日。日中ではあまりの狂乱ぶりのせいで三枝に心配を掛けつつも、何とか大事に至ることもなく俺は放課後を迎えていたが、流石に我慢の限界だった。現在、場所は第四校舎四階の自室の中であり、俺は弾力性に富み高級そうなベッドで飛び跳ねながら煩悶していたのだ。

「くそっ!どうにか……どうにかいい方法はねえのかよ?男に遭遇出来るような方法がっ!」

 昨日から今に至るまで俺は脳内で思考を巡らせていたが、解決方法が一向に見つかる気配が無かった。 せめて……せめて性欲を解消するための材料はないかと昨日、俺は図書館に出向きボーイズラブが掲載されている漫画や雑誌を検閲しようとしたが、全て貸し出し中であり借りることは適わなかったのだ。

 それならばと俺は購買に出向き、学園ポイントを消費することでBL本を購入したいと申し込んだが理事長からの根回しということで拒否されてしまったのだ。

……恐らく図書館の方も理事長の根回しなのかもしれない。……あの女の用意周到さには呆れ返ってしまいそうだ。

「……」

 今の状況では男に直接会うだけではなく、性欲を解消する手段ですら制限されてしまっているのだ。ストレスは募り憤りの念を抱くことも当然だった。

 そもそも……こんな風になった原因は親父とあの忌々しい理事長のせいなんだよな。確かに俺の女嫌いを解消しようとしている気持ち(まあ、昨日の会話聞く限り、理事長に関しては微妙そうだけど)自体は感謝すべきことだろう。

 しかし、本人の同意なしに強引に手筈を整えて勝手に事を進める側にも幾らかの問題はある筈だ。

 俺の考えや人権を蔑ろにして好き勝手に振る舞うことが許されるのであれば……逆に俺が好き勝手に行動することも構わないのではないだろうか?

「そうだ……そうだよっ!何で今までこんな簡単なことにも気が付かなかったんだよっ!馬鹿か俺はっ!?」

 もう一度最初から考えてみよう。そもそも俺が男と会うことが出来ないのも、材料を入手することが出来ないのも……全てこの閉鎖された学園内にいるからなのだ。

 あまりにも単純な帰結ではあるが……結局のところ学園の外にさえどうにか脱出することが出来ればこの負の連鎖は終了するのだ。

 ……ははは、こんな答えが最も幸福に至るための道しるべだなんて。だが……俺のやるべきことは見えた。暗雲とした闇の世界にいた俺に、光へと誘う幸運の導きが舞い降りてきたのだ。これは神の導きに違いない。

「よっしゃっ!」

 そうと決まれば話は早い。鯉のように暴れ待っていた身体を落ちつけて俺はゆっくりと身体を起こした。そして一つの意志を宣誓したのだ。

「悪いな理事長……今回はあんたのことを出し抜かせて貰うぜっ!」

 俺は絶対の決意を胸に抱いて自室を飛び出し、楽園の待つ世界を目指すための準備に取り掛かることにしたのだった。




「まずは……」

 俺はソフトボールやテニスに精を出している学園生たちを軽く見渡した後に、校門を俯瞰した。ここは第四校舎の最上階だった。

 この位置と高さからであれば、学園全体を俯瞰し状況理解に徹することが可能だ。そして俺の疑念となっていた学園唯一の『校門』の全体を観察することが出来るのだ。

 何故校門の観察に拘泥するかと言えば、校門は学園から脱出する上で必ず通る必要があるだろうからだ。俺が知る限り学園の外に出るためには校門からの脱出が絶対的な条件だ。故に俺は校門の存在を重要視しているのだ。

 別段ここから、第四校舎の屋上から校門までの距離が近いという訳ではない。しかし俺は自分の視力には自信があった。視力検査の表で一番下まで片目で見えるからな。

 そんな訳で、ある程度の距離を取った上で俺は校門をじっくりと観察することにしたのだ。しかし―――――

「でかいな……」

 とりあえずこの学園は全体的に規格外過ぎるんだよな……もうちょっと予算を抑えてもいいんじゃねえの?とか思いつつも、ひとまず俺は校門の観察を続ける。

「……」

 大よそ校門は高さ十メートル程度であろうか?巨大に立ち塞がっており扉は外部からの侵入も内部からの脱出も完璧に拒むかのようにして鎮座していた。

 当たり前のように扉は固く閉ざされており、校門は堅牢な素材で構築されているようで破壊することなど到底不可能。つまり扉が閉ざされている現状では為す術はないと言うことだ。

「あるいは……」

 あるいは、この校門の両脇三十メートル程度に拡がっている人の皮膚を千切るような鋭利な有刺鉄線を越えなければ学園の外に脱出することは不可能だろう。

「……」

 ひとまず学園脱出の直接的方法は置いておくとして……他の疑問を解消していこう。

 一番の謎なのは、校門の少し横に設置してある小さな一室から、一人の女性が部屋の中に座っているのが確認することが出来たと言う点だ。電車の駅の改札窓口の小さなスペースで手続きなどをしている事務員。という表現が最も似つかわしいかもしれない。果たして彼女は何の為にあそこにいるのか?

 改めて考えてみた結果として……もしかしたら外部からこの学園に用がある時に事務手続きを行う人物なのかもしれない。

 待てよ?そもそもあの巨大な校門はどうやって開門するんだ?通常、校門の開閉などといったことは手動で行う筈だ。それも当然と言えば当然で、普通の学校の校門は手動開閉することが出来るサイズであるからそうすればいいだけの話なのだ。

 しかし、この学園は遥かにそれらを超越したようなサイズ。人間が手で開け閉めする為には、到底不可能だ。……それならばどうやって開門するのかが意味不明……とそこで俺は一つの予想を立てた。

 校門の近くの一室にいるあの女性は、何らかの仕組みで門の開け閉めを行っているのではないだろうか?例えばボタンを押せば校門が開き、ボタンを押せば校門が閉じられるといったような。

 ……だとすれば何とも金のかかった施設だと再び揶揄もしたくなるが、ひとまずそんな予測が立ったな。

 これで後は……どうにか事務室に侵入し、それを押すことが出来れば……と俺はそこで一つの事実に気が付く。

 仮に事務室内に開閉のボタンのようなものがあったとしてもだ。それを押してしまえば、明らかに目立ってしまうことは不可避だ。

 まず間違いなく開門のタイミングで誰かに気づかれてしまうことは必須だろう。……問題なのはこの校門が完全に開くまでにどれだけのラグがあるかということだ。素早く十秒程度で開閉してくれれば気が付かれようとも全力で走れば逃げ切れるかもしれないが……

「……っ!」

 まさに絶妙のタイミングと言わんばかりに、校門に動きが見えた。俺は見逃すことが無いようにと括目した。轟音と共にゆっくりと扉が開かれていく。

「……車か」

 校門が開いたことで学内に入って来たのは俺の宿敵である理事長だった。乗用車とは異なるような長いリムジンカーから降りる姿は金持ちのそれであり、俺はあまりいい気分では無かった。

 しかし、ここでは理事長の話などどうでも良かった。校門が揺れて動作を始めるまでの瞬間の時間は大よそ1分程度。これだけ見ればそこまで時間が掛かっていないようにも思えるが、恐らく実際には動作を始めるまでの時間も計上することが求められる。

 少し余分に考えていたとしても、校門の開門までには2分程度は要すると考えていいかもしれない。

 2分間……それは短い時間に見えて存外永遠の刹那にも匹敵してしまいそうだなというのが率直な感想だ。

 仮に俺が人が出払っており閑散とした時間にあそこの事務室に侵入し、開閉のボタンを押したとしよう。恐らく、開閉の待ち時間で目立ってしまい策略に気づかれてしまい、脱出失敗ということはあり得る話だ。

 だとすれば……一見成功しそうに見えるこの戦略は却下した方がいいかもしれない。

 校門の開閉の案は誠に遺憾ではあるが、泣く泣く棄却することにした。……協力者とかいれば話はまた変わるんだろうけどな。

 結局のところ、校門の開門にリスクが及ぶことを考慮すれば……やはり、あの有刺鉄線を越えることだけが勝利への活路となるだろう。

「問題なのは有刺鉄線を登らなきゃいけないことなんだよな……」

 流石に素手で登ることは愚行だろう。有刺鉄線に触れる経験なんてほとんどないから実際のところは知らないが、最低限軍手でも装着しなければ皮膚が裂ける可能性はありそうだからな。

「そしたら……ひとまず軍手を調達するか……」

 俺は屋上から理事長を睨み付け、改めて学園脱出の思いを滾らせた後に軍手調達に向かうのだった。


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