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10.「天上ヶ原雅の策略」


「それで櫻井君。どうしてあなたは、わざわざ理事長室に訪れたのですか?」

「いやいやっ!あんたが校内放送を使って俺のことを強引に呼び出したんだろうがっ!」

 放課後になって自室に戻って自主学習でもしようと考えていた時に、いきなり校内放送で名指しで呼ばれたら、応じないわけにはいかないだろう。

 早乙女にはその一件で「櫻井―。理事長から直々に呼ばれるとか、どんな悪事働いたの?」とニヤニヤとしながら言われちまう始末だし。増々あいつからの評価がマイナスへの一途を辿っちまうじゃねえか。

 そんな俺の苦心を知ってか知らずか、天上ヶ原雅はあくまでサディストと称するに相応しいような声色で俺に返答をする。

「ああ。そういえば私が呼び出したのでしたね。私ったら、櫻井君が私を視姦するためにわざわざ理事長室に訪れたのだと思っていました」

「別にあんたを視姦したことなんてねえし今後もしねえよっ!……ってか、人と話をしようって言うのに背中向けて本を読んでいるとかマナ―悪くね?何、喧嘩売ってんの?」

 天上ヶ原雅は、俺に背を向けながら話をしていた。手には一冊の本を抱えて熱心に読んでいるようだった。俺の側からだと何を読んでいるのかは見えなかったが、何の本にしても目と目を合わせない会話はあまり気分がいいものではなかった。

「あなたの言うことも尤もですね。これは失礼致しましたー」

 そう言って彼女は俺の方を向き直し、手に抱えていた本を机の上に置いた。……って……ちょっと待てっ!

「り、理事長。こ、これは?」

「はい?どうしました?」

「い、いやっ!これってっ!?」

「男性同士の恋愛を描いた同人誌ですが……それがどうかしましたか?」

「……てめえ、わかってやっているんじゃねえだろうな?」

「いいえ?櫻井君が何を言いたいかさっぱり分かりませんねー?櫻井君。言いたいことがあるときは明瞭に相手に伝わるように言葉を選ぶべきですよ?」

「……」

 俺は苛立ちのあまり黙り込んでしまう。天上ヶ原雅が机に置いたのは濡れ場シーンがふんだんに詰まっているような同人誌だった。しかも俺が興味津々な男性同士の作品だった。これを挑発と呼ばずに何と呼ぶのだろうか?

「さて……櫻井君。既にあなたが本学に入学してから丁度二週間経過しましたが学園生活はどうですか?」

「何だよ藪から棒に?意外と何とか順応しながら生活しているよ」

既に授業が開始され四月も中旬に差し掛かっていた。俺はクラス内で三枝を中心として様々な生徒との交流を図っていた。

 最初は男子生徒と言うことで多少の警戒もされることはあったりしたが、三枝のお墨付きということで俺は何とかコミュニケーションに準じていた。

 正直なところ俺はそんなに人と話すことは苦手な方では無い。寧ろチャンスさえ掴んでしまえば後はそれとなく仲良くなっていくことはそれなりに得意だ。

 既に早乙女も俺のことを変質者扱いしていたことを過去の黒歴史としないとばかりに、俺と仲良くなっていたところだ。まあ、あいつはよく俺のことを揶揄ってくるのはちょっとだけ腹立つけど決して仲が悪いというわけではない。

 唯一、二宮とは相変わらずだというのは寂しいが、それでも学園生活にそれなりに順応していると自負していた。学業の方も予習復習させこなせば何とかなっていると思うし、迅速に解決しなければならないような問題は無いと言えるだろう。

「そうですか……櫻井君がこの学園に順応出来ているようでとても嬉しいですよ」

「俺が順応していることが嬉しいとか絶対に嘘だろ……」

 これまでの発言から考えるに俺が苦しんでいないと満足しない女だろあんた。

「いえいえ。嘘の嘘の嘘の嘘の嘘の嘘ですよ。まあそれも嘘なんですけどね?」

「どっちだよっ!」

「それで櫻井君。あなたは何か悩みでも抱えていたりしませんか?幾ら学園生活に順応しているとはいえストレスはあったりしませんか?」

「悩み……悩みっていうか……その……あれだよ」

 天上ヶ原雅に直接言うのは憚られてしまう。率直に言って今の俺が抱えている最大の悩みは、ここ最近男の姿を見ていないせいで……性的欲求が最大限まで高まってしまっているということだった。

 健全な思春期の男子高校生が性的関心を押さえつけることが出来る筈があるだろうか?年中発情期。1分に1回性的な内容を頭に滾らせることが男子としては健全な状態だろう。

 なのだが……今の俺には最大の致命的な問題を抱えていた。

 俺にとって性的対象となる男子がいないせいで、欲求を発散するための材料が無いのだ。空想で欲求を解消しようにも限度があった。だからこそ……俺はその材料を渇望していることが一番の悩みであった。

「……」

「どうしましたか?そんなに夢中になって同人誌を見つめて」

「……っ!な、なあ理事長。一つ頼みがあるんだけどよー?」

「はい。何でしょうか?」

「少しでいいからその同人誌を俺に貸してくれないか?」

 俺は理事長が先ほど無造作に机の上に置いた同人誌を指で示した。表紙からでも伝わって来る裸体の男達の様子は俺の胸を侵食していた。

 更にボーイズラブというだけではなく、俺が好むムキムキの男が受けでショタが責めという最高のシュチエーションの内容に見える。このような作品を読まずして何を読めと言うのか?俺は自分でも呼吸が荒くなり興奮していることを自覚しながらも理事長に直訴した。しかし―――――

「お忘れですか櫻井君?あなたがこの学園に入学した理由は何ですか?周囲の人間があなたの女性不審を嘆き憂慮したからでしょう?それにも関わらず、少し男性同士の恋愛を描いた同人誌を目の前に晒されたくらいで動揺するとは……恥ずかしくないんですか?」

「くっ!……いや、それはその……」

「寧ろあなたにとって誘惑が多い環境から完全に離脱することを出来ている現状を喜ぶべきです。何のための女子校生活だと考えているんですか?本当にこの学園で生活する意図を理解しているのですか?」

「……」

「本来であればあなたは毅然としているべきなんです。たとえ私があなたが好むようなボーイズラブの同人誌を掲示しようとも堪える力を身に着けて然るべきなんです。違いますか?」

「ち、違わねえよ……」

 突きつけられる正論に俺は言い返す言葉も見つからなかった。だけど、幾ら頭で理解しようとも体が従うかと言えばそんな都合良く行く筈もなく―――――しばらくの押し問答の末に彼女は言い放った。

「はぁ……櫻井君。私はあなたが学園生活に適応できるお手伝いならやぶさかではありませんが……いつまでも見苦しく同性愛に固着しているあなたの相手をしている程私も暇ではありません。今後も健全な学園生活を謳歌するように努めてください。以上です」

 最早語ることは無いと言わんばかりに理事長は二宮と同じように冷酷な瞳で俺を睨んだ後に椅子を回転させ背中を向けた。……失敗したな。これ以上は不用意な怒りを買うだけだ。

「……っ!悪かったな……それじゃあ、失礼するよ」

 俺は仕方がないので理事長室を後にすることにした。……どうにか運動とかで欲求解消しねえとなと考えている時の事だった――――――

「はい。それで構いませんよ?ああ。ちなみにですけど……実は八十%くらいはただの意地悪でした。いやー、櫻井君が好むジャンルをわざわざ用意して見せつけて釣ったら面白いくらいに引っ掛かりましたね?プププっ!ハハハハハっ!」

「何大爆笑してんだこらっ!……ってか今までの会話なんだったんだよっ!あんた俺の女性恐怖症について真剣に考えてくれているんじゃなかったのかよ?」

「いいえ?別に……どちらかと言うとあなたに対する嫌がらせでしかありませんよ?いやはや……思春期の男子を揶揄うのは面白いものですねー?伊達に巷で猿と揶揄されるだけのことはあります」

「マジで思春期男子高生の性欲舐めんなよっ!ってか、猿扱いとか全国の健全な男子生徒諸君に謝りやがれっ!」

 失礼極まり無いこの女の無礼な振る舞いには鬱憤だけが蓄積されていく。いつか夜道で刺されて死なねえかなこいつ。

「櫻井君。ですが私は嘘をついていません。あなたが禁欲を続けることで同性愛の念が揺らぐことを期待していますよ?これは……本当ですから」

「そうかよ……はぁ……もういいよ。とりあえず俺も落ち着けるように努力すっから。それじゃあな」

 最悪最低の天上ヶ原雅に怒髪冠を衝く勢いだったが、流石に殴るわけにもいかない。

 欲求不満を拗らせた状態で理事長室を後にした。―――――この時の理事長の嫌がらせによって俺の今後の行動が変化させられているとは―――――全く知る由も無かった。


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