1.「放課後の教室の中で」
黄昏の夕焼け――――人は感動的な演出の中で愛を誓う。幾多の先人たちが俺と同じような状況下の中で愛の誓いを捧げていたかもしれない。時は中学三年生の卒業式の放課後だ。既に教室の中は閑散としていた。
それも当然。厳粛たる雰囲気で、この場には俺と愛するべきその人物しかいないのだから。かつてこれ程までに美しい瞬間があっただろうか?いや、無い。何となく反語を用いると国語の授業を思い出してしまう。思い出に浸るとノスタルジックな情趣は彷彿される。妙に感傷的になってしまうのも当然か。なぜなら……俺は眼前に佇むこの人物とは違う高校に進学をしてしまうのだから。
別段、二度と会えないようなそんな絶望的な距離という訳では無い。同じ市内の高校に進学をするのだ。もしかしたら通学の際に、ルートを調整さえすれば、鉢合わせすることだってあり得るだろう。
しかし、今までのように教室に顔を出せば当然のように接することが出来ていた時間は途絶えてしまう。それは、一種の『お別れ』であることには相違ないだろう。
だからこそ、俺はそんな悲哀をきっかけにして、眼前の人物に愛を誓うのだ。今しかないのだ。今ここで腹をくくって思いを告げなければ何も前には進めない。
既に俺との関係性で言えば、『親友』同士であることは間違いない。その関係性を更に前進させ誰もが驚くような『恋人』に俺は至りたいのだ。心臓がはちきれそうになる。呼吸も困難となり、既に眼前の人物は怪訝そうな顔で俺を見ている。――――――安心しろよ。俺は何ともないからさ。ちょっとばかし、緊張しているだけだから。
さて――――――いつまでも、心中で考えていても始まらない。その一歩を踏み出そう。
「なあ……お前をこうしてここに呼び出したのには理由があるんだよ」
俺がそんな開口をしたところ、恭平は鼻を鳴らしてから返答をする。
「理由もなく待たされていたんだったら、お前をしばいていたところだっての。……で、何なんだよ。早く用件言えよ。そんで打ち上げ行こうぜ。確か18時からだろ?あんま時間なさそうだろ」
少し苛立ちを見せたようにしながら恭平は俺に意見を述べる。それも当然だ。俺は様々な理由を付けて、この絶景のポイント(教室)に絶好の時間で告白することを選択したからな。
卒業式が終わったのは午前中で、教室にしばらく残り適当に友人たちと写真撮影&わざわざ卒アルを持ってきてコメントの書き合い。更に、お世話になった先生方と職員室で談笑。
元々恭平は出席日数が非常に少なく、教員に対して反抗的だったせいで、当時は疎まれる存在だった。だが、存外教師という生き物も卒業式効果に流されてしまうところはあるものだ。真面目で品行方正な生徒よりも、手のかかった生徒が成長をして学校から巣立っていくことの方が余程嬉しいみたいだ。
だから、先生方と話をすると俺よりも恭平に対して言葉が掛かることが多かった。まあ、卒業式あるあるって奴だな。
ひとまず、それは置いておこう。それよりもそうして時間を潰した後には学校の校舎の様々な教室を見て回った。
3年3組の教室。職員室。俺と恭平が受験期によく利用していた図書館。何故か三年三組の教室担当だった第二理科室。
そして、恭平が非行を起こし、罰として掃除させられていた裏庭。更には既に桜が満開とは言わないまでも、それなりに咲き誇っている校門。どれもが新鮮であり、尊き場所だ。俺たちの三年間の思い出が集約されている。
そうして俺たちはようやくここまで辿り着いたのだ。いい加減痺れを切らしているだろう。だから言おう。
「単刀直入に言うぜ恭平。俺と――――――付き合ってくれ」
「いや、普通に男同士なんて嫌に決まってんだろう?何言ってんだお前?」
そうして俺の初めての愛の告白は儚くも無情に散り行きましたとさ。