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メランコリー勇者  作者: そぼろご飯
5/5

勇者、頑張って説明を聞く

「皆さん、はじめまして。小西洋平と申します。疑問、不安等あるとは存じますが、皆さんの現状についてご説明しますのでご清聴お願いします」


 紳士服を着た黒髪の男、小西さんは入室すると俺達に着席を促し、全員が座ったのを確認してどこかのセミナー講師のような口調で喋り始める。


「もうお察しの方も多いと思いますが、ここは地球とは別の世界です」


「やっぱり……」


「戻る方法はあるんですか?」


 橘さんが質問する。

 

「収拾がつかなくなるので質疑応答は後でまとめて行います。が、やはり皆さん気になると思うのでお答えしますと、残念ながら今のところ地球へ行く方法は見つかってません」


「そうですか。ありがとうございます」


 やっぱり帰る方法は無いのか……

 場が少しざわついたが、橘さんはさして残念でも無さそうに礼を言う。

 クールだ。

 

「えー、原因は解っていませんが年に数人のペースで地球からこちらの世界に人間が飛ばされます。この国にも、あ、ここはピーデベロ王国という国なんですけど、この国にも20人ほど日本からの転移者がいますよ」


 最初にあった兵士がこっちの事情を把握してたのはその為か。

 恐らく、転移した人間が居たらここに案内するように言われているんだろう。

 

「ちなみに私も4年前にこちらに来た転移者です。今は宮廷で役人として働いてます。まあ下っ端ですけどね」


「社会人として一番脂が乗っている時期に巻き込まれたわけか……君も苦労したんだな」


「ふふっ、確かに来たばかりの頃は苦労しましたけどね。こちらでの生活も悪くありませんよ」


 熊田さんが小西さんを気遣う発言をする。今の状況で周りにここまで気をかける事はそうそう出来ないと思う。彼は出来ないサラリーマンといった印象があったが実は上司としてかなり優秀なのかもしれない。

 

「それにしても皆さん、思ったより落ち着いてますね。今まで何度か飛ばされてきた方々には怒って周りに当たり散らす方や泣き出す方、逃げ出そうとする方など色々いて結構大変なんですよ。きっと皆さん強い精神力をお持ちなんでしょうねぇ」


 「……」

 

 そのセリフは俺達がどこから来たか知ってたら物凄い皮肉なんだけどね。

 小西さんに悪気が無いのは分かってるがみんな黙ってしまった。

 

 



 それからしばらく続いた小西さんの説明によると、この世界は魔法やらモンスターやらが存在するファンタジーな世界らしい。

 やはり、最近小説で流行ってる展開のようだ。

 地球から来た人間は転移者と呼ばれ、この国に20人ほど、世界全体では恐らく100人近くはおり、珍しくはあるが大衆からある程度周知されている。

 この国はピーデベロ王国という世界最大規模の国らしい。

 そして、今いる場所はピーデベロ王国のピーデベロ王都のピーデベロ城の隣にある公共の施設だとか。

 この国には転移者を支援する制度があり、これから二日間かけてこの世界の常識などを教えてくれる上に、ある程度の資金が貰える。かなり有難い。

 ちなみに、この制度は私が作ったと小西さんがドヤ顔で言っていた。

 

 

「それでは最後にステータスについて説明しますね。この世界ではステータスが文字通り社会的地位や身分なんかに大きく影響します。皆さんロールプレイングゲームとかやったことありますか? ちなみに私はゴラゴンクエストとか好きだったんですが……。ヒットポイントとか攻撃力とか剣のスキルとか、あんな感じを想像してもらえたら分かりやすいですね」


 ゴラゴンクエストなら俺もやったことあるな。ターン制バトルの昔からあるRPGで結構好きだ。最近のアクションRPGはじっくり考えられないから正直苦手だけど。

 そう考えるとリアルで戦いとか出来る気がしないな。ステータスとかスキルとかが高くてもプレイヤースキルが皆無だしね。


「魔物がいる世界ですので戦闘力はもちろん重要ですが、生産や技術なんかでもスキルのレベルがあります。これらの数値が就職活動で重要視される……言わば履歴書みたいにもなってるので、生きていく上でステータスは無視できない物です。必ず理解してください。なあに、基本的な部分は簡単ですから二日間の講習の間に誰でも理解できるようになりますよ」


 今後の人生に大きく関わりそうな話にみんな真剣に聞き入っている。

 ゲームの説明書感覚でついつい軽く聞き流しそうになるがしっかりと聞いておかないと。

 俺は疲れた脳に鞭打って話に集中する。後で質問とか俺には難易度高すぎだしね。

 

「では、ご自身のステータスを見てみましょう。さあ、皆さん、大声で『すてぃたああす!ぅおおぷぅううん!』と叫んで下さい」


 !?

 

 小西さんがいきなり流暢な英語?で叫ぶ。

 みんな呆気にとられる。

 

「ス…スティタス……ぉ……」


 南城さんが真面目に言おうとするが顔を真赤にしてどんどん声が小さくなっていく。

 

「さあさあ! 恥ずかしがってたらこの世界で生きていけませんよ! すてぇいたああすぅ! うぉおおぷぅううん! さあ、いち・に・さん・はい! すてえええぃいぐほぇえ」


 小西さんの隣りにいた赤髪の騎士が剣の柄で横腹を殴った。


「すまない、こいつは普段は優秀なんだが人の恥ずかしがる姿を見るのが大好きでな。時々暴走するんだ」


 今まで黙っていた赤髪の騎士が、うずくまって悶絶している小西さんを横目に喋りだす。

 

「自分のステータスは心の中でステータスオープンと念じれば見ることが出来る。試してみてくれ」


 あ、小西さんはスルーですか。そうですか。

 誰も同情して無さそうで少し不憫だった。

 

 とりあえず、俺も小西さんのことは忘れて言われたとおり念じてみよう。

 

 

 ――ステータスオープン――

 

 

 

『レオ・シライシ Lv.1』

種族:転移者

状態:正常

 HP:43/43

 MP:33/33

 攻撃力:2

 防御力:3

 敏捷:3

 器用:4

 知性:2

スキル:なし

ギフト:【ギフトポイント】

ギフトポイント:5P



 おっ、本当に出た。

 基本ステータスは基準がわからないがあまり高くは無さそうだな。

 レベル1だしこれが普通なのか?

 スキルもないし……

 このギフトってやつ以外は平凡な気がする。

 

「大体はイメージできるとは思うが1つずつ説明していこう」


 そう言うと赤髪の騎士は丁寧に説明してくれた。

 

 レベルは魔物や生物を倒して経験値を得ることでしか上がらないとか。

 一般人はレベル20代で戦いを生業としている者は30~60くらいが多いらしい。

 レベル21とレベル51からレベルアップする為の必要経験値の一気に増えるので、この辺りで成長が止まる人が多いのが原因らしい。

 

 HPはゼロになると無条件で死んでしまうそうだ。そして蘇生魔法のようなものは現状では発見されていない。

 この数値が無くなった瞬間、人生終了ってことだな。

 そう考えると恐ろしい。俺なんか数割削れただけで発狂しそうだ。

 

 MPは魔法の発動だけでなくスキルの発動でも必要なので前衛で戦うにしても生産職になるにしてもかなり重要らしい。

 その為、戦わない人でもレベル20まではMPを増やすために頑張ってレベル上げする。ちなみにゼロになっても死なないけど身体が怠くなる。

 

 攻撃力と防御力はそのまま物理的な攻撃力と防御力だ。一般生活でもこの値が高いと重い物を持てたり、病気になりにくかったりする。

 

 敏捷は素早さ、器用は器用さってそのまんまか。

 

 知性は魔法の攻撃力や耐性に影響する。残念ながらレベルアップでこの数値が上がっても頭は良くならないそうだ。

 

 スキルにも『剣術Lv.1』とか『火魔法Lv.1』みたいな感じでレベルがある。

 スキルレベルは戦いだけでなく訓練でも上げることが出来る。

 また新しく覚えることも訓練で可能だ。

 スキルレベルを上げることで剣術なら回転斬り、火魔法なら炎の矢などのスキルが使える様になるがこれはステータスには表示されない。知りたければ自分で調べるか『人物鑑定』のスキルを上げて自分を鑑定する必要がある。

 

 そしてギフト。

 ギフトとは生まれた時から持っている才能とか素質のことだ。

 例えば、【剣の才】というギフトを持っている人は『剣術』スキルのレベルが上がりやすい。また、ギフトを持っている人しか使えないようなスキルもあるらしい。

 ギフトは人族に限らず魔物も含む全ての種族が持っており、その種類は多岐にわたる。

 

 最後にギフトポイント。

 ポイントを消費してギフトを取得することが出来る。

 これは転移者のみに与えられたものだそうだ。

 

 転移者特典チートキター、と思ったが、そうでもないらしい。

 この世界の住民はみんなギフトを3~6個は持っている。

 対して、転移者に与えられたギフトはひとつ。ギフトポイントは3~10ポイント。

 一つのギフト取得に必要なポイントが1~3ポイントなので、この世界の住民と転移者で取得できるギフト数はあまり変わらない。

 

「だが、転移者は人数が少ないものの活躍している者が大勢いる。それはやはりギフトポイントを上手く使っているからだろう。例えば私は防御力が上昇する【鉄壁】と言うギフトと剣術のスキルが上がりやすくなる【剣の天才】というギフトを持っている。お陰で若輩ながら王国騎士に従事することが出来ている。だが、それ以外で持っているギフトは【手芸】と【宝石磨き】と【調髪師】だ。残念ながら私の人生ではあまり使う機会がない」


「嘘を付けぇー、お前が寮でこっそりぬいぐるみを作ってる事は知ってぐはぁああ」


 いつの間にか復活していた小西さんがぶっ飛ばされる。今度はボディブローだ。

 

「ごほん、とにかくギフトポイントを上手く使って努力を怠らなければ転移者は幼少期からレベルを上げている我らにも引けを取らない活躍を出来るという訳だ。悲観する必要はない」


 そう締めくくると、説明が終わり俺達はそれぞれ個室に案内された。

 これから二日間はここで寝泊まりし、食事は給仕が持ってきてくれるそうだ。

 

 至れり尽くせり過ぎて少し気味が悪いが周りの人たちは特に何も言わないので、周りに流されることにした。

 

 体力的にも精神的にも疲れたし、ここで個人的に行動を起こすバイタリティは俺には無いよ……

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