勇者、頑張って現状把握する
さて、どうしたものか。
病院からいきなり別の場所に飛ばされた。
しかも、恐らくは異世界。
そのまま、謎の兵士に謎の一室に閉じ込められた。
いや、別に閉じ込められてはいないけどね。
ただ、この状況になったからには兵士に言われたとおり『係りの者』が来るまで待つ以外の選択肢は取れないし似たようなものかもしれない。
とりあえず……だ。
6人ともだんまりを決め込む今の状況は気まずい。
何か話すべきか。
だが、仕事を辞めてから3ヶ月間まともに会話した記憶がない。
元々、初対面の人と気軽に話せる性格じゃあないのに3ヶ月のブランクだ。
でも、今のところ会話に全く参加してないし、このままだとコミュ障だと思われる恐れがある。
よし、話しかけよう。
幸い、会話するのに丁度良い話題がある。
今の状況だ。
この状況は最近小説で流行ってる異世界転生ってやつに似ている。
とりあえず『これって異世界転生ってやつですよね?』みたいな感じで話しかければ、自然に会話が始まるはずだ。
相手がそういった小説を知らなければ会話の主導権を握れるし、知ってる人がいれば自分が無理に会話に入らなくても勝手に盛り上がってくれるかも。
しかも俺が話題を振ったということでコミュ障じゃないアピールにもなる。
完璧だ。
よし、話しかけるぞ!
ふぅー
はぁー
話しかけるぞ?
行くぞ?
「こr」
「これって最近流行りの異世界転移ってやつッスかね?」
ちきしょう! スポーツウェアの青年に先を越された!
うだうだと余計なことを考えてるとタイミングを逃すって何度も経験して反省してるはずなんだが。
しかし、異世界転生じゃなくて異世界転移だったか。
確かに生まれ変わったりしたわけじゃないから転生じゃなよね。
恥かかなくて済んだと考えよう。
ポジティブだポジティブ!
ここはとりあえず『そうですね』みたいな感じで相槌だけでもしとくべきか?
昔、自己啓発本で『相槌上手は会話上手』みたいな本を読んだことがあるし。
会話の序盤でずっと黙ってたら、後半から会話に参加するのは一気にハードルが上がるし。
よし、言うぞ?
いや、『そうですね』はちょっと変かな? 『そうみたいですね』にしとこう。
よし。
「そ」
「ウチもそれ知ってます! さっき獣人っぽい人も居ましたよね!」
ちきせう。
今度は女子高校生に先を越された。
「信じられないですが、確かに地球とは違う感じがしました」
「私も、はじめは悪質な悪戯かと思いましたが、それも無さそうです」
和風美人の人とキャリアウーマンの人がそれぞれ意見に同調する。
スーツのおじさんも会話に入り、5人で現状確認してゆく。
一応、俺もそれっぽく頷いてみたりはしているが、もはや会話には参加できている気がしない。
全員だんまりは気まずいが、自分だけ黙ってるのはもっと気まずいぜ。
周りが最後までこっちを気にしないでくれるならそれで良いが、微妙に気を使われて無理に話しかけられたりするのが超嫌だ。
なんとか会話に参加しないと……
そんな事を考えてるうちに簡単な話し合いが終わってしまい、スーツのおじさんがこんな事を言い出した。
「まあ、これ以上解らない現状をどうこう話してても進展しません。あの兵士が何か知ってそうでしたし、『係りの者』とやらを待つしか無さそうですね。とりあえず簡単に自己紹介でもしますか?」
自己紹介……だと……!?