勇者、頑張って案内される
目の前が真っ白になったかと思うと、座っていたソファーの感覚が消える。
ぬおっ!?
そのままコテンと仰向けにひっくり返り、カナブンの死骸のようなポーズになる。
あらやだ恥ずかしい。
慌てて周りを見渡すが視界が白く誰にも見られてないようだ。
ラッキー。
いや、ラッキーじゃねぇ。
なんだこりゃ?
混乱している間に、白んでいた景色が徐々に収まり、周りが見えてくる。
公園? いや、広場?
そんな感じの場所だった。
直径100mくらいの広さで石畳がびっしりと円形に敷き詰められており
、中央に噴水が設置されている。
「いてて…」
「どうなってんだ?」
「なにこれ? なにこれ?」
よく見ると、さっき待合室にいた人達もいた。
待合室で立っていた和風美人とスポーツウェアの青年以外は全員尻もちをついている。
青年はあの状態で転ばなかったのか。
凄い運動神経だ。
「あの…どうなってるんですかねぇ? これ」
スーツのおじさんが恐る恐る聞いてきたが、俺を含めて誰も答えることが出来なかった。
6人とも途方に暮れていると、兵士の格好をした男がこっちに近づいてきた。
兵士の格好と言っても軍服じゃない。
金属の兜をかぶり、肩や腰や腕や脛に同じく金属のプレートを当てていて、右手には槍を持っている。
ファンタジーとか中世ヨーロッパが舞台の映画で出てくるような兵士だ。
コスプレ?
俺達は身構えて少し後ずさる。
誰だって槍を持った男が小走りで向かってきたら後ずさると思う。
すぐに逃げようとしなかったのは全員混乱していたせいか…
だが、兵士の格好をした男は、俺らから2mほど手前で止まり…
「失礼! あなた方はニホンジンでしょうか?」
そんな事を聞いてきた。
ど、どういうこと?
質問の意図がわからない。
いきなり場所が変わったこともだけど、兵士の格好をした西洋風の男が日本語で日本人かどうか訪ねてくる状況についていけない。
返答に困ったときは返事を周りに任せるのがコミュ障の処世術だ。
俺はちらりとサラリーマン風のスーツのおじさんを見る。
「…はい、確かに日本人です。失礼ですがあなたは?」
スーツのおじさんがこちらを軽く見回した後、代表して応えてくれた。
さすが年長者。頼りになるぜ。
「詳しいことを御説明しますので付いて来てください」
だが、こっちの質問には答えてくれなかった。
△
結局、全員が兵士に付いて行くことになった。
スーツのおじさんが「とりあえず言うとおりにした方が良い」と提案し、反対意見も特に出なかった為だ。
ちなみに、俺も首肯することで話し合いに参加した。
兵士の後ろをRPGの仲間のようにぞろぞろと歩いていく。
この前テレビで見たイギリスのような街並みだ。
石畳の道沿いに、煉瓦色やバニラ色を基調とした家々がびっしりと並んでいる。
そして人がかなり多い。
東京の大きな駅の周辺くらい人がいるんじゃないか?
まあ、東京なんて行ったこともないけれど。
道行く人々は様々だ。
皮の防具を装着して腰に剣を携えた青い髪の青年。
結婚式でしか見ないようなドレスを着た女性。
なぜか上半身裸の筋骨隆々で獣のような耳をしているおっさん。
妙に耳が尖っている金髪碧眼の美少年。
うん。
ここ日本じゃないわ。
てか地球じゃない。
兵士に色々と質問したかったがもちろんそんな勇気は無い。
だって槍持ってるし。
キャリアウーマンっぽい人と和風美人の人が何やらコソコソ話しているが、結局誰も兵士に話しかける事無く、何事も起こらないまま目的地に到着した。
そこは、石造りの巨大な城・・・の横にある少し広めの平凡な建物だった。
兵士は門番と軽く話した後、建内に誘導する。
もちろん逆らう勇気はないのでされるがままにその建物の一室に案内された。
「係りの者を呼んできますので少々お待ちください」
そう言うと、兵士は部屋から出ていって俺たち6人がぽつんと残された。
どうしろと?