8.目標
8.目標
体が軽くなるのを感じ、ゆっくりと目を開ける。
「やっぱり、ゲームの中はいいな」
ゲームの中は現実世界よりも居心地がよく感じた。
(さて、トルタへ行ってマリアに会うか)
俺はトルタへ向かった。
トルタにつき、マリアを目で探した。
(姿がみえないな)
どうやらマリアはまだ来ていないらしい。
(暇だし何か注文するか)
コーヒーでも飲もうとメニューを開いた瞬間、店のドアが開き、客が入ってきた。
視線をそこへやると、あたりを見渡しているマリアの姿があった。
声をかけようと思い、席を立つと、マリアは俺に気づいたらしく嬉しそうな顔をしながら、こっちへ向かってきた。
「おまたせ。少し寝坊しちゃって」
「マリアさんでも寝坊をすることあるんだな」
「昨日、ログアウトした後調べものをしてて」
「何を調べたの?」
「このゲーム、ソード・ワールドについて調べていたの」
「へー。何かわかったのか?」
そう聞くとマリアは自慢げに説明し始めた。
このゲームにはストーリーはない。プレイヤーが自ら考え、自由に好きなことができる、自由度の高いゲームだ。
ゲームが始まるとまずキャラクターを作り、職業を選ぶ。そのあとに最初の街「いにしえの街」にスポーンする。
普通はそこでチュートリアルが始まるのだが、俺が始めたときはチュートリアルなんて一向に始まらなかった。そんなことはありえないらしいので、俺は貴重な体験をしていた。運がいいのか悪いのか。
チュートリアルが終わるとそこからは一応自由に動ける。だが、はじめはチュートリアルで渡された弱い装備しかないので、結局みんなやることは同じなのだ。
王道の進め方として、街に貼りだされている依頼書からクエストを受け、それを達成することで、報酬がもらえるという普通にあるRPGだ。
では、何を目指して戦えばいいのかという疑問が浮かぶだろう。
たいていのゲームは目標というものが設置されているが、このゲームにも一応設置してある。
が、ほとんどの人が見た瞬間に諦めるだろう。
なぜなら、このゲームの目標は…
「レベル9999の魔王を倒すこと!?」
「たいていの人は同じような反応をするわ」
「そりゃそうだろ。レベル9999って。適当につけたんじゃねーか?」
「ええ。魔王のレベルは適当につけられたわ」
「まじかよ?!ホントに適当につけたのかよ」
「レベル9999なんて何年かかっても無理だわ」
「このゲームってレベルの上限ないんだったよな?」
「ええ。そうだけど、レベル9999を超えるには相当な時間がかかるし、そのころにはもうみんな飽きちゃってるわよ」
実際その通りなのだ。だいたいのRPGはレベルが上がるごとに上がりづらくなっている。ましてやレベル9999なんて論外だ。
「だからあなたも諦めなさい」
「いや、諦めない」
俺は即答並みの速さで返事をした。
「どうしてよ。無理に決まってるじゃない。時間がいくらあっても足りないわ」
「そうかもしれないけど、こんなに早く諦めるもんでもないだろ」
「…わかったわ。好きにするといいわ」
マリアは呆れた顔で言った。
「でも無理はしないでよね」
「無理って?」
「毎日徹夜とか」
「そこまではしないよ」
「それならいいわ」
マリアは安心した顔で言った。
「そんなに心配だったか?俺はこれでも規則正しい生活を心がけているからな」
「へー。人は見かけで判断しちゃだめね」
「俺、そんなに悪そうにみえるか?結構優しい感じのキャラにしたんだけどな」
「違う。間抜けそうってこと」
「お前サラッとひどいこと言うな!」
「ごめん、ごめん」
俺たちはもうすでに1時間も喋っていることに気づかなかった。