序章3
この回でやっと書き溜めた序章が終わります。
前よりちょっと長いですが、勘弁してください。
6/1 誤字脱字、加筆修正しました。
6/9 表現方法を修正しました。
6/9 表現方法を修正しました。
俺は腕時計で約束の時間を確認すると顔が真っ青になった。
百貨店を出て、待ち合わせのレストランに急いだ。
エレベーターなんて待ってられない、階段を段とばしで走って上る。
「はぁはぁ…す、すみません、予約していた吉田ですが」
「はい、お連れ様はもうお席でお待ちになっています。こちらです、どうぞ」
落ち着いた感じのギャルソン、高い店予約したんだ、さすがだね。
案内された席に近づくと、我が愛しの君が待っていた。
瑠奈は座って、足を揃えてぶらぶらさせている。
俺に気付いたようだ、うわ、こっち睨んでる。
絶対怒ってるわ、これ…どうしよう。
この両足をぶらぶらと前後させる仕草は、瑠奈が怒っていたり、拗ねていたりするとき、無意識にやってしまう癖のようなもので、可愛いから俺はすごく気に入っていたりする。
俺はさっき課長にやった以上に、90度腰を折った。
「すまん…」
彼女はつーんとそっぽを向き。
「席をお間違えではありませんか?」
足の振りが強くなった、うわ、やべ、どうしようか、これ…
「そんなこと言わないで、本当に、すまん」
彼女は上目使いでこっちを見た、やはり目は笑ってない。
「陣さん!すみませんでしょっ」
瑠奈の機嫌を早く治したい、俺はとにかく平謝りした。
「すみません、遅れました。ごめんなさい、今後気を付けます。許してください──」
「今日、何の日だと思ってるの?」
怒っている瑠奈さん、可愛いわー。
「ごめんなさい、百貨店寄って──いや、なんでもない」
「もう、仕方ないわね、今回は許しましょう、さ、座って」
上から目線のお許しがやっともらえた。
「でも、今回だけなんだからねっ」
真っ赤になってぷんっと明後日の方向を見る瑠奈。
俺は(やっぱ可愛いなー)と思いつつ、座って飲み物をメニューから注文する。
「おまえさんももう、20歳超えたからワインでいいよね?」
「え、まぁ、飲めないことはないけど…」
コース料理が来るまで、まずは乾杯。
「それでは、1回目の結婚記念日に、乾杯!」
チンッ…
「ぷは──っ、うまっ、この一杯に生きてるな─」
「ちょっと、陣さん、ビールじゃないんだから一気飲みしない、それと、おじさんくさい」
「ふーんだ、しかたないっしょ、おじさんだし」
「もう…」
そして、鞄からプレゼントを出す。
「これ、記念のプレゼント」
「えっ、うん、開けていい?」
ダチ○ウ倶楽部のような手つきで。
「どうぞどうぞ」
「こ、こんな高そうなものを、無理無理無理」
「20歳超えて、会社で○ショックじゃだめでしょ?」
彼女はいまだに学生の頃の時計を使っていた。
このへん頓着しないから、制服の袖から見える違和感があるんだよね。
お義祖父さん辺りに貰って、ずっと大切に使っていたのだろう。
でも、可愛いんだからもっともうちょっと服装にもこだわって、自信もってもらいたいしね。
「──わかりました、大切にします、ありがとう」
「こちらこそ、この1年ありがとうね。
今日からもまたよろしくね」
メインの料理はうまかった。
任務完了、あ─…充実した1年だったな。
RIRIRIRIRIRIRI!!
そんなとき、携帯が鳴った。
「ごめん、携帯切っっておくの忘れた」
「もう、」
「あ、○○商事担当の◆◆さんだ、君の会社の」
また足を前後にぶらぶら始めた、やばい、怒ってる。
「むー」
でもこういう子供っぽいところも、好きなんだよねー。
「ごめん、ちょっと外で話してくるね、ここ携帯禁止らしいから」
「早く戻ってきてね」
「すぐ戻るよ」
店のすぐ外で話を始めた。
ピッ
『すみません、システムの仕様変更につい、zzてなn…』
古いビルの中の店舗の為、電波の調子が悪いみたいだ。
「ちょっと外出ますから、こちらからかけなおします」
俺は携帯を切って、階段を下りて外に出た。
金曜の夜だから人が沢山いるなーと思いながら携帯をかけようと…
ドン!
あれ、足元が浮いた──
誰かに凄い勢いで、誰かに押されたような──
止まれない、つんのめるように俺は道路へ押し出されてしまった。
パパ─ン
クラクションが鳴る。
えっ、目の前の高い位置にライトが、ダンプとかバスとか、あれ?
キキーーーーーーーーーーーッ!!
ドンッ!!!
ものすごい衝撃が俺の全身を襲った。
「おい、人が轢かれたぞ!!!」
「誰か救急車、警察呼べ!!」
そう聞こえる方を見ると、スマホで動画を撮る人々もいた、こいつらひでぇなぁ──とまるで他人事のように思えた。
「どいてください、お願いします、あ、いや、いやぁあああああ!」
近くから聞き覚えのある女性の驚く声が。
「いやぁああああ!陣さん、陣さぁあああん、いやぁああああ!!」
薄れゆく意識の中、声の方を向いた。
君か、心配するな、俺はだいじょ…うぶ…だ…
全身の激痛が薄れていくような感覚の中、俺は意識を失った。
◇◆◇◆◇◆◇◆
──どこだ、ここ?
目の前真っ暗。
なんだ──
ベッドにでも寝ていたのか──
左手に何か握らされてる。
押してみようか?
親指を押し込んでみる。
ビーッ!
『はい、ナースセンター、って、この番号、吉田さん目を覚ましたみたいよ!!先生ー!!』
そうか、病院か、生きてたみたいだな。
よかった──
バタバタ…
誰かの足音がする、すぐに担当医が入ってきたみたいだった。
「吉田さん、よかった。なんとか峠は越えたみたいだね」
「先生、目の前真っ暗なんですか、ろうなっているんでしょう?」
あれ?呂律が回らない──
「ご家族には話しましたが、どうしましょう」
「しょうちき(正直)に話してくらさい。俺、とうなったんれすか?」
「命に別状はありません、が…」
「それろ、足の感覚かないんですけろ、これもどうしたんでしょうか?」
「ご家族から、本当のことを聞かれたら、話すように言われてますので、はっきり言わせてもらってよろしいですか?」
「はぁ…」
「両目は完治しないでしょう、次第に視力が弱くなり、そして、失明する恐れもあります」
「そして、脊髄にも損傷があって、下半身はもう…」
「えっ」
「…」
「そんな、痛みもそんなに…」
「点滴に強力な痛み止めが入ってますので…」
「ご家族とお話しになりますか?少しであれば…」
「はい…」
先生、看護師さんと入れ替え?で入ってきたのは妻だった。
「手短にお願いしますね、奥さん」
「はい、わかりました、陣さん、陣さん…」
「ほら、生きてた…らろう?こんな…らけど」
いつも思っていた、何かあったら彼女を縛り付けてはいけない。
一回りも下な若い彼女だ。
俺はこんなことになってしまった、そしてとっさに思ってしまった。
俺は瑠奈の負担になってしまうのではないかと。
「済まないけれろ、俺はもうらめら、別れてくれないか、君を幸せに、もうれきない…」
「そんな、何を言ってるの!!」
◇◆◇◆◇◆◇◆
『やぁ、おはよう』
──神様ですか。
『君に謝罪しなければならないねぇ』
神様が謝罪だなんて、どうしたんですか?
『まず、これを見てくれないかい?君にも見えるようにするからねぇ』
テレビの画面みたい、いや、テレビの画面そのものが見えた。
《昨夜未明、○○市で火事があり、焼け跡から2名と屋外から1名の…・》
なんだこれ…
《屋外にいた被害の女性は吉田瑠奈さん、着衣に…乱・・された形跡が…警察当局は殺人事件として…》
──っ!
誰だ!!
誰がやったんだ!!!
『まぁ、落ち着いてくれないかねぇ』
落ち着けるわけないでしょう!
『いいから、落ち着くんだ』
『騒いでもどうにもならない、済まないが、もう過去の話だよ』
…珍しく語尾が普通だった、そして優しく諭すような口調だった。
『犯人は君を車道へ突き飛ばしたのは、担当って言ってた◆◆隆って男だったようだねぇ』
なんだと?
『そして、◆◆はもう亡くなったよ、逃げ帰ったときに運転?を誤ったらしいねぇ』
──見ていたならなぜ?
『本当に申し訳なかったねぇ、僕にはどうしようもなかったんだ。
直接手を出すことが出来ない僕を恨んでくれていいよ…』
…
『君だけに付きっ切りっていうわけでもいかなかったんだねぇ』
それで、どうなったんだ…
『お詫びというわけではないけども、君の奥さんは僕の担当する世界に転生、生まれ変わってもらったよ』
…妻は、何か言ってましたか?
『かなり酷い目にあったから、魂の衰弱が激しくてねぇ【ごめんなさい、許されるならいつまでも待ってる】とは言っていたかねぇ』
『それと、老夫婦の方は通常の輪廻の輪に戻るって言われてねぇ』
…
『そのとき【孫は陣君に任せたい】と言っていたねぇ』
そう…ですか。
『それと良くない話も、あるんだねぇ』
なんです?
『僕と同等や高い神格の神にも、善悪を考えない性質の悪いやつがいてねぇ』
はい。
『どうやら、◆◆を僕の担当する世界に紛れて転生させたかもしれないんだよねぇ』
『そんな痕跡があったんだ。これには僕もかなり頭に来てる』
なんだと!!!
『僕が担当している世界だとしても、転生してしまったら、直接の干渉は難しいんだよねぇ…』
今すぐなんとか…しないと!
『大丈夫、転生は赤子からになるから、今すぐどうなるわけではないんだねぇ』
どうやったら、妻に逢えますか?
『そこはほら、ルールがあって教えられないんだよねぇ』
──使えない、この神様。
『何か良からぬことを思っていないかい?』
いやいや、そんなことないです。
『でも、元の名前の由来に関係のある名前になることが多いんだよねぇ。
いや、独り言だよ、別に教えてあげた訳じゃないんだからねっ』
えっ、そんなツンデレっぽい…
『転生したあと、記憶というか知識というか、生前のものが残るようにはしてあるんだよねぇ』
『でも、本人が思い出そうとしないと無理なんだよねぇ』
なんでもいい、この世界に未練はない。
早く転生させてくれませんか?
『いいけど、今すぐ君は死ぬよ。
それと、【てんぷれ】だっけぇ?【ちーと】とかいう桁外れた加護はあげられないんだよ。
それでもいいかねぇ』
結構読んだみたいですね、異世界転生もののライトノベル。
どんだけ暇なのよ、この神様。
もらえるだけでありがたいので、その辺はお任せします。
『わかったよ、もうこの世界にはもどれないよ?いいねぇ?』
お願いします。
『いってらっしゃい、君の活躍を期待してるよぉ』
あ、神様、そういえ・・b
『あ、加護の話してなかったかねぇ、ま、いいか、達者で暮らしてくれたまえよぉ』
そんなぁああああ…
神様が指をパチンと鳴らしたのか。
そのまま白い景色が暗転して、俺は意識を失った。
読んでいただいてありがとうございました。
次回から、転生後が始まります。
それではよろしくお願いします。